塾生限定講座 迫博司さん・金田充弘さんによる設備・構造のレクチャー

2016年04月21日

2015年10月10日、恵比寿スタジオにて、設備エンジニアの迫博司さんと構造エンジニアの金田充弘さんを講師に迎え、設備と構造についてのレクチャーが行われました。

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最初に迫さんより、建築の設備についてのお話を伺いました。迫さんは伊東豊雄建築設計事務所が設計した「台中国立歌劇院」の設備設計にも携わっていらっしゃいます。講義の前半は竹中工務店に勤めていたときの建物、後半は、独立後に携わった建物の設備設計についてレクチャーしていただきました。


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竹中工務店に勤められていたときに設計した建物は、暑い・寒いに関わる6つの要素(①放射温度、②湿度、③温度、④気流速度、⑤活動量、⑥着衣量)をヒントに、どのようにすれば快適に過ごせるか、設備機器を用いることを前提に設備設計に取り込む様子を説明されました。独立されてからは、その地域や敷地に応じて、できるだけ設備がなくても済むように、自然換気や地中熱など、自然エネルギーを用いた設備設計を心がけておられました。

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すまいの「空気・熱」のしくみ

建物の躯体と比べて設備機器は寿命が30年から40年と短く、必ず取り替えが必要であるため、「設備機器がない方が良い」という迫さんの言葉がインパクトがあって、今でも頭から離れません。また、意匠設計をする者と同じように「体感するために必ず現地に行く」という言葉は、自分の中にあった固定概念を覆されました。

次に、金田さんから構造のレクチャーが行われました。講義の内容は、建物を建てる上での専門家の役割の話から始まりました。そして、構造の見方、構造家の誕生と役割、最後には大三島の空き家改修などの参考となるように木造について、構造の多岐に渡ってお話しいただきました。また、ご自身が建築家と関われたプロジェクトの話もありました。

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導入でお話しされた、建物を建てる上での専門家の役割については、昔は棟梁が図面の作成から施工まで全てを行っていたのに対し、現在は意匠・構造・設備など、さまざまな専門分野に分かれて、意匠を設計する建築家が取りまとめを行い、時代が新しくなるに従って作業が分業制になっていったそうです。

構造の見方について、一般の方でも分かるように、誰もが知っている物と比較しながら、説明していただきました。構造は大きく分けると、外骨格と内骨格の二つに分類されます。

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構造家の役割については、建築家が新しいものやつくりたいものを具現化し、共有するために構造設計を行うことと金田さんは説明しますが、もともと建物の構造設計を行うようになったのは1800年頃だそうです。そのため、構造を計算によって担保する以前に建てられ、現存している建物は、偶然も含めて経験知による構造設計によります。ちなみに、構造の担保を理論的に考えたのはガリレオで、地動説を唱えて逮捕されてから別の研究を余儀なくされ、構造設計の元となる構造力学の研究をすることになったそうです。

私は大学時代、建築の歴史研究室に属しており、一般的な建築の歴史を理解しているつもりでしたが、まだまだ勉強が足らないと感じました。

木造についても、日本の構法から最近の木造の動向までの概要をお話しいただきました。以前と比べて最近では木造は注目されています。そのきっかけは、サステイナビリティが建築業界で唱えられたり、戦前に植林した木が余っていたりするためですが、以前は耐火や耐久性の問題から、法的にも木造を使いにくく、木造の暗黒時代があったそうです。

金田さん IMG_6061@minami-

最後に、金田さんは「構造とはヴィジョンをかたちにする行為」と締めくくり、レクチャーが終了しました。

今回のお二方のレクチャーは単なる講義ではなく、実務や実体験に沿った内容で、発する言葉の一つ一つがとても深く、説得力のある内容でした。設計については未熟者の私ですが、今回の講義でも非常に勉強になりました。

塾生 木戸正典