こどもけんちく研究会オープンレクチャー「デジタル時代の子供の創造・表現活動」

2014年08月19日

7月27日(日)、こどもけんちく研究会主催の初めてのオープンレクチャーが行われました。今回「デジタル時代の子供の創造・表現活動」というテーマでお話し下さったのは、NPO法人CANVASの代表、石戸奈々子さんです。

当日風景

CANVASは、「子ども向け参加型創造・表現活動の全国普及・国際交流を推進するNPO」として2002年11月設立され、「子どもたちのための創造の場と表現の場を提供し、豊かな発想を養う土壌を育てる」という目標に向かって国内外の団体・人と新しいネットワークを形成し、活動を行っています。その11年間の実践をご紹介いただきました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA写真提供:CANVAS

ワークショップコレクション

年一度、全国に点在するこどものための「ワークショップ」を一同に集め、広く公開する博覧会「ワークショップコレクション」は、デジタル時代の新しい学びをファッションショーのようにポップに伝えられないか、ということからはじまったそうです。

デジタル化時代生きる子どもたちにとって、新しいものや価値を創造する力が必要です。インターネットによってフラットかつグローバルにつながった世界においてコミュニケーション力はもはや不可欠なスキルです。子どもの創造力や表現力を育みたいと願う保護者が増えたことを背景に、ワークショップコレクションの参加者は年々増え続け、9回目を迎えた昨年の来場者数は10万人、世界最大級の創作イベントとなりました。

2_ワークショップコレクション画像2ワークショップコレクション 写真提供:CANVAS

 MITメディアラボからCANVAS設立まで

石戸さんは学生時代、ロボット工学を専攻、ものづくりに携わっていたそうです。しかし、MITメディアラボとの出会いによって、ものづくりそのものから、ものづくりを支援する環境づくりへとシフトしていきました。オープンでデザイン性の高い空間、ひらめいたらすぐつくれる環境、専門性の高い研究者同士の様々な共同が生まれる場、石戸さんにとって、MITメディアラボの研究環境は、極めて創造的で理想的な学びの空間だったそうです。
石戸さんが在籍した当時、メディアラボは“テクノロジー”、“アート”と並んで、“こども”を3本の研究の柱の一つとしていました。これからを生きる子どもたちのためにメディアラボのような環境を日本で実現できないだろうか、というのがCANVAS設立の契機となりました。

CANVASがつくりあげてきたもの「10のつくる」

石戸さんは、10年間の実践を振り返って、CANVASがつくりあげてきたものを10の項目にあげておられます。

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講演では、ひとつひとつの具体的な事例についてお話を伺いましたが、子どもたちの創造活動・表現活動のプラットフォームを支えるために必要な条件とは何かを探究し、その条件を満たす大きな意味での環境を更新しつづける取組み、というような印象を受けました。
ハード・ソフトを問わず、大小に拘わらず、様々な分野の協力者や専門家とのつながりによって条件を満たしていくCANVASの活動そのものが、デジタル時代のフラットでグローバルなあり方を体現しているようにも思えました。

大学を地域にひらく

夏休み、大学のキャンパスを開放して行われるサマーキャンプもCANVASの主要なプログラムのひとつです。子どもたちは3日間大学のキャンパスに通って、初めて出会う子どもたちとチームを組んで一つのものを作り上げます。そのプチ成功体験は子どもたちの生活態度や課題に取り組む姿勢、家族間のコミュニケーションを大きく変えるといいます。

また、このプログラムは大学や地域、社会に対する示唆を含んでいます。
アメリカでは休暇中のキャンパスを地域の子どもたちに開放し、大学のリソースを活用した子ども向けのプログラムが提供されることは珍しいことではないそうです。
日本の大学ももっと地域に開かれ、地域に貢献する存在になってもらいたい、そんなメッセージが込められているのです。

東大サマーキャンプ 画像3
東大サマーキャンプ 写真提供:CANVAS

 「かんじる→かんがえる→つくる→つたえる」のスパイラルと10の視点

石戸さんは、21世紀を生き抜くために必要なスキルについて「かんじる力」、「かんがえる力」「つくる力」、「つたえる力」と定義されています。そして、「かんじる→かんがえる→つくる→つたえる」のスパイラルを新しい学びのモデルとして考えているそうです。

心でかんじ、頭でかんがえ、全身をつかってつくり、つたえる。
そんな主体的で協調的で創造的なワークショップを推進するにあたって10の視点を大切にしているといいます。

「学び方を学ぶ」、「楽しく学ぶ」、「本物と触れる」、「協働する」、「教え合い、学び合う」、「創造する」、「発表する」、「プロセスを楽しむ」、「答えはない」、「社会とつながる」。

お話を伺いながら、特に、「学び方を学ぶ」という視点は、子どもたちが新しい学びを自ら求めていく更なる学びのスパイラルを喚起する「新しい学び」の根幹だと感じました。

ファシリテーターという役割

新しい学びは、先生と生徒という関係性を変えます。
先生の頭の中にある知識を、一方的に子どもたちに教え込むという知識の一方通行ではなく、子どもたちの興味を引き出し、主体的な学びを促進する「ファシリテーター」の役割が重要です。
ワークショップを円滑に運営し、子どもたちの個性を尊重し、その能力を引き出しながらチームを一つの方向に導いていく「ファシリテーター」の心構えについてもお話しいただきました。

「目標を見つける手伝いをする」、「『考えのプロセス』の振り返りをする質問をする」、「同じ目線の高さに合わせる」、「『答え』ではなく『きっかけ』を提供する」、「子どものやりたいことをまず受け入れる」、「効果的な問いかけをする」、「創作活動がわきやすい場や雰囲気をつくる」、「時間の感覚を意識する」、「自分も楽しむ」という10の姿勢です。

CANVASの活動の拡がり

CANVASは、その活動の3本の軸、「調査・研究」、「開発・実践」、「普及・啓発」のうち、特に「普及・啓発」に力を入れてきたそうです。日本中の子どもたちがクリエイティブになってほしい、そのために各地域で自律分散的に子どもたちの創作活動が広がる仕組みづくりに挑戦したのが、長崎での取り組みです。経済産業省の施策「地域情報人材育成プログラム開発支援事業」に参加、長崎の産官学が協働する地域コンソーシアムを設置することからはじめたそうです。
県、市、教育委員会、大学、テレビ局、観光連盟、美術館、博物館などがコンソーシアムに参画、様々な組織・団体からの支援の下、アーティスト、市民、大学生、中学生が地域を紹介する映像をつくりました。この事例は産官学連携の成功事例として評価を受け、次なる展開へと波及、他の地域にも拡がったのです。

子どもの力「発想の力」と「存在の力」

石戸さんは、子どものもつ潜在能力を次のように分析しておられます。

無邪気な夢想家であり、直観力に満ちたソリューションの設計者、
楽しい欲求の追求者であり、社会の改善を願うモラリスト、
想像力あふれる絵本作家であり、サイエントデザイナーでもある、「発想の力」。
そして、みんなを明るく笑顔にし、社会を元気にする、周りの大人を巻き込む「存在の力」。

そんな子どもの力を社会に活かす、子どもと一緒に未来をつくるプロジェクトにも取り組んでいるそうです。

新未来学と「イマジン&リアライズ」

石戸さんたちが、新たに取り組んでいることの1つが「新未来学」の立ち上げです。
未来を予測するのではなく、みんなの夢や願いを集め、想像し、その未来を実現する、創造するのが「新未来学」。

講演の最後に、CANVASの次の10年に向けての挑戦を紹介してくださいました。

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このオープンレクチャーは、こどもけんちく研究会の活動で石戸さんのご著書を書評したことをきっかけに実現しました。
教育関係者、ワークショップ主催者、ファシリテーター、保護者など様々な立場の方にご参加いただき、御礼申し上げます。
この講演会をきっかけに、ご参加いただいた方々、それぞれのフィールドで新たな挑戦や協働が生まれる予感に胸躍らせて、素晴らしい2時間のご報告とさせていただきます。

式地香織

 

「子どもの創造力スイッチ!」遊びと学びのひみつ基地 CANVASの実践
NPO法人 CANVAS代表 石戸奈々子=著 フィルムアート社

NPO法人 CANVAS      http://www.canvas.ws/

ワークショップコレクション  http://wsc.or.jp/