子ども建築クラブ①「〜あう」まなび場をつくろう

2014年09月26日

みなさま、こんにちは。千葉大学大学院 修士2年の伊藤里佳です。
8月21日より、子ども建築塾の卒業生を対象とした「子ども建築クラブ」の2014年度前期の授業が開催されました。今回は建築家の工藤和美先生を講師に迎え、全3回にわたって多世代の様々な人が一緒に学ぶことのできる、「〜あう」まなび場をグループで設計します。

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1回目の授業では、工藤先生が設計に携わった「千葉市立打瀬小学校」の見学に行きました。はじめにグループ分けとプログラムを発表した後、お盆を過ぎてもまだまだ強い日差しの中、久々に会う子どもたちは声を掛け合い、初めて会う子どもたちは自己紹介をしながら元気に出発しました。まずは「打瀬のまち(幕張ベイタウン)」の観察から始まります。

「〜がない」を発見しよう!
今回の目的地「打瀬小学校」へ向かう中で「打瀬のまち」はどんなまちなのかを知るために、自分の住んでいるまちや他のまちとの違いを探しながら歩きます。「電信柱がない!」「ガードレールがない!」など、子どもたちは次々と他のまちにはあるけれど「打瀬のまち」にはないものを見つけていきます。
あるポイントに到着すると工藤先生から「ここは大ヒント!」というご指摘が!そこには荷台に何かが詰まった袋が山積みにされたトラックが停まっていました。なんだかゴミを集めた後の様子みたいでしたが、頭にハテナを浮かべている子もいれば、すぐに分かった子もいたようでした。答えは後ほどのレクチャーで明かされます。

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いよいよ「打瀬小学校」に到着しました。引き続きここでも「塀がない!」「まちから学校の中が見える!」など他のまちや自分の通う学校との違いを見つけていきます。「打瀬小学校」と「まち」との関係が、敷地境界の設えや視線の抜けによってつながるように設計されていることを発見していました。

打瀬小学校を探検しよう!
そしていよいよ校舎内の見学へ。工藤先生の説明を聞きながら、グループごとに「おしゃべりしあう場所」や「歩く人と目があう場所」といった「〜あう」場所を見つけ、気付いたことを付せんに書いて図面に貼っていきました。今回は夏休みなので人はいませんが、普段の様子がおさめられた写真を見て、人がいる様子を想像し、場所を探していきます。
教室と廊下を仕切る壁がなく、段差でできた小さな部屋や、柱の間の入り込める空間が随所に設けられ、多種多様な居場所がありながらも柔軟につながっています。子どもたちは「扉がカーテン」「いろいろつながってる」「廊下が廊下じゃない」など自分の通う学校との違いに驚きながらも、もしも自分がいた場合の過ごし方を想像しながら、面白そうに感想を話し合っていました。

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他にも様々な仕掛けが施されており、ビーンズテーブルやタイルでできた大きな水場は児童たちの自由な創造の場所となっていました。幅の広い階段は通路としてだけではなく、時折授業も行われるのだそうです。ここでは記念の集合写真を撮りました!

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工藤先生のレクチャー
内部の探検の後は、理科室をお借りして工藤先生のレクチャーを聞きました。まずは、まちの中に「〜がない!」の答え合わせです。子どもたちが発見したまちに「〜がない!」を次々に発表し、工藤先生が解説してくださいました。
「ゴミ置場がない」「電信柱・電線がない」「自動販売機がない」「ガードレールがない」「点字ブロックが灰色」「車道が石でできている」「学校に塀がない」これらは全て正解です。
ゴミ置場がないのは、投入口からゴミを投入すると空気の力を使って一カ所に集めることができる「真空集塵システム」が整備されているからでした。まちを歩いていたときの「大ヒント」はこのシステムのゴミ収集場所だったのです。外にゴミがないため、カラスが少なく清潔なまちを保っています。
電気・ガス・水道は地中にある共同溝に設置されており、車道・歩道・点字ブロックの色彩や素材を調和させたり、自動販売機を勝手に置けないようにしたりすることで、まち全体の景観を整えています。

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続いては、「打瀬小学校」がどのように設計されたのかについてのレクチャーです。この小学校は、「オープンスペース」「普通教室」「中庭」「パス(行き止まりにならない)」の「スクールセット」を基本的な組合せとして、それらがいろいろなかたちでつながってぐるぐるまわるように設計されました。初めて来る人は迷ってしまいますが、6年間いる児童たちは自分の道を見つけて自由に動き回ることができます。また、「座るところ」「入り込めるところ」「いろんなところが見える」など、多種多様な小部屋を設けて居場所がつくられています。座って視線の高さを変えると、グラウンドや教室など離れた場所まで視線が通るように設計されました。
子どもたちは探検したときを思い浮かべながら、見つけた空間がどのような意図で設計されたのかを真剣に聞き入っているようでした。

グループで話し合い、発表しよう!
レクチャーの後はグループごとにテーマについて話し合いました。今回の敷地は「打瀬小学校」のとなりにある広場です。その敷地は4分割され、それぞれ「本の場」「音楽の場」「工房の場」「食の場」とテーマが与えられています。グループごとのテーマと敷地をくじ引きで決定し、「打瀬小学校」で見つけた「〜あう」場所を参考にしながら、どんな「〜あう」まなび場の提案にするのか意見を出し合いました。

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Aグループ「本の場」
まず本を読む環境でどう過ごせるかを考えました。どんなことができるかを「しずか」と「ざわざわ」で分けて、「まったりする」や「部活帰り」などができる場所を音を軸にして整理しました。またどんな人が来るのかも話し合っていました。保育園の子どもたち、その兄弟の小学生や中学生、その親の大人たち、近くに住むお年寄り、インターナショナルスクールに通う外国人の子どもたちとその家族、学校の先生など、いろんな人が利用する場所を提案したいとのことでした。

Bグループ「音楽の場」
音楽を「どう聴く?」「どう外に見せる(演奏する)?」「どう練習する?」を話し合い、1人から20・30人の人たちが過ごすことのできる空間と、大人数が集まる空間は「コンサートホール」をつくることになりました。また、パブリックビューングや動画共有サイト、実物と映像の両方で同時に見せるなど、ホールだけでない見せ方を考えていました。かたちの検討も始めており、ステージの周りをスロープでぐるっと上がる円形のホールを中心に、周囲に小さな部屋をつくろうと提案しました。

Cグループ「食の場」
敷地の中心に「レストラン」をつくり、調理して食べることができる場所を考えました。レストランの周りには畑もつくり、作物を育てて収穫し、そのまま調理することができるそうです。仕切りをつくらず一体的、移動式の家具を配置し、好きな場所で食事ができることも考えました。言わば、子どもも周辺の住民も使うことができる「まちの台所」です。また、「食」は他のグループのテーマ全てに関係できるテーマなので、他の敷地にもつながるような提案にしたいとのことでした。

Dグループ「工房の場」
「つくる場所」と「展示する場所」を考えました。みんなが使える大きな机や、迷路のような内と外が見える空間などのアイデアが出ていました。また、高さや素材のちがう空間をつくる、動く壁がある実験室など、具体的な空間を考えていました。全体としては、つくったり実験したりする空間を区切り、つくったものや作業の様子を通りがかりの周りの人たちに見てもらえるようにするそうです。そうすることで周りとつなげていこうという提案でした。

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理科室での発表が終わり、最後に敷地を見て今回の見学会は終了となりました。工藤先生は、「学校に塀がないのは、境界をつくらないことでまちとつなぎ、まち全体で見守る環境をつくっているから。集合住宅にも境界はなく、まちと連続しています。ここにもいろんな人たちが見ていることを意識してつくってください。」とお話しされました。
まだ抽象的な場所をイメージしているグループや、すでに具体的な空間をイメージしているグループと進度は様々ですが、子どもたちはグループでの作業という慣れない環境でも積極的に取り組んでいました。暑い中の見学会でしたが、「打瀬のまち」や「打瀬小学校」からいろいろな刺激をもらえたのではないかなと思います。
次回は宿題で描いたスケッチをもとに「〜あうまなび場」をグループごとに話し合い、模型づくりに取りかかります。今回出てきた様々なアイデアがどのようにかたちになっていくのでしょうか。それぞれのグループの空間が、個性を持ちながらもつながるような面白い提案を期待しています。