子ども建築塾 「まちの中で、自然とともにくらそう!」公開発表会

2017年04月28日

2017年3月11日、2016年度子ども建築塾の公開発表会が恵比寿ガーデンプレイス内にあるCOMMON EBISUにて開催されました。2層吹き抜けの陽の差し込む明るい空間で、子どもたち一人ひとりが恵比寿のまちを敷地に、半年間取り組んできた「まちの中で、自然とともにくらそう!」という課題の成果を、元気よく発表しました。発表前は、いつもと違う場所での発表に緊張している様子でしたが、マイクを手に取ると、それぞれが自信を持って考えやアピールポイントを話していて、とても頼もしい光景でした。まずは、子どもたちの発表内容を紹介していきます。

最初に発表をしたのは、Cグループの4人です。Cグループの敷地の特徴は家と家の距離が近く密集していて、道路幅も狭く、軒先で植木を育てている人も多い場所です。

久枝ミアンさん(5年生)「ハーベストRoof」
恵比寿のまち探検をしたとき、暗くて硬い建物が多く元気が出ないと感じ、屋上や駐車場などにカラフルで食べられる植物を育て、住んでいる人や恵比寿に来る人がもっと元気になるまちにしたいと考えました。春には、グレープフルーツやイチゴ、夏にはブドウや夏野菜、秋にはサツマイモなど・・・さまざまな野菜や果物を植えて育てます。肥料は同じグループの瑠花ちゃんの花の腐葉土から取ってきます。また、採れた野菜は響くんの坂でのんびり食べられます。

古橋瑠花さん(4年生)「カラフルフラワーアーチ」
季節ごとに色とりどりの花をアーチ状に育て、花の香りが立ち込めるトンネルをつくりました。お花の多くは足元に咲いていますが、頭上にもあった方が花に囲われている感じがして良いと思い、手が届きそうなスケールのアーチにしました。枯れたお花は腐葉土にして、ミアンちゃんの畑で肥料として使われます。恵比寿のまちを探検したときに、ほとんどの家の人たちがお花を育てていたことをに気づいてアイデアにつなげました。

松田響くん(4年生)「すずめ坂」
恵比寿は高層ビルばっかりだと思っていたけれど、実際にまち探検をしてみると、住宅地が多く、スズメがたくさんいたことにびっくりしてスズメに注目しました。緑は人と生きものが仲良くなる場所、出会うきっかけの場所だと思ったので、人とスズメが同じ空間にいて仲良くなれるようにと考えました。建物と建物の間には緑があるようにして、いつも高いところにいるスズメと人が同じ目線になるような坂をつくりました。

山田隼太郎くん(5年生)「モスロード」
モスロードは、レンガと石のタイルとその間に生えるコケの道です。もっと恵比寿のまちに暑さをしのぐことができる涼しい場所ができたらいいと思い、天然の涼しさを持つ「モスロード」を考えました。僕は、鎌倉に住んでいてコケが身近なので、ヤマゴケやヒノキゴケなどいろいろな種類のコケを調べて植えました。「アスファルトの道路ばかりのまちに、カーペットのように柔らかい場所があるのは面白い。裸足で歩いてみたいな。」とアストリッド先生からコメントをいただきました。

最後にグループ4人のプレゼンボードをつなげて見せてくれました。みんなの提案が関係し合っていることをプレゼンボードをつなげることで表現していました。最初はそれぞれバラバラに作業していたけれど、途中からお互いを意識し始め、植物がそれぞれの提案をつなげるきっかけとなって、グループ全体の提案になっていました。住んでいる人だけでなく、塾生のみんなが塾の帰り際に手をかけて植物を育てていくことで、まちが変わっていくと楽しいですね。

次に発表したのは、高い建物が多く密集して、人が通れないほど狭い隙間がたくさんある敷地のAグループ。「色とりどりのみち」というテーマで取り組みました。

東勇太くん(5年生)「心が広がる」
ソメイヨシノを中心とした提案です。高さ15m以上で、土が2m以上必要な木なので、屋上などではなく、地面に植えようと思い、この場所を選びました。建物に囲われた小さな箱庭のような敷地だったので、建物の壁面に鏡を設置して、下から見上げるとソメイヨシノが奥まで広がっているように見えるようにと考えました。ソメイヨシノは背が高いので、ビルの上から見下ろしても楽しめます。この場所でソメヨシノも一緒に成長していくと、心が豊かになると思いました。

翁涼太くん(4年生)「何十倍ムベロード」
ムベは赤くて丸くて甘い、虫が来ない植物です。まち探検の時にムベを見つけて、植物博士の山﨑誠子さんに名前を教えてもらいました。調べてみたら、七五三の飴などいろいろな場に使われている植物だと知り、面白いと思って注目しました。住人が採ってジャムにしたり、ジュースにしたり、路地に集まって観賞もできます。夏は日差しも遮り過ごしやすい場所です。鏡で光を反射させてムベが育ちやすい環境にすると共に、地域のみんなが明るくなる道になります。

落合真悠さん(5年生)「黄色い川の旅」
雲南黄梅という黄色の花が川に乗って旅をするイメージでタイトルを考えました。雲南黄梅は、ツタ系の植物で、ビルの壁面にたくさん咲いていたらきれいだろうなと思って選びました。敷地は、橋のような渡り廊下のあるオフィスビルの近くで、他にも住宅地やお店が密集しています。そのような場所に、住んでいる人だけでなく、勤めに来ている人などが、川の近くで休んだり、快適に過ごせる場所をつくりたいと思いました。春にはモンキチョウも寄ってきます。

小水流優奈さん(5年生)「ふじと空のどんどこアーチ」
最初は建物を覆うような山をつくろうと思っていましたが、既存の家を無視してはいけないというアドバイスから、アーチを格子状に組み、空が見えるようなアーチを考えました。フジには紫だけでなく、白やピンクなどいろいろな色があり、カラフルで楽しい場所になると思い選びました。フジからは貴重な蜜も取れ、種も食べられるので、人にもハチにも嬉しい植物です。どんどこアーチが成長すると住む人の楽しみも増えて、暮らす人が自然と幸せになっていきます。

密集した建物の多い敷地を逆手にとって、狭さを生かした面白い提案をしているのが特徴的なAグループ。鏡を使って狭い空間を明るく、緑で溢れた場所に変えたり、狭さ故に落ち着く場所をつくってみたり、それぞれの工夫が見られます。また、それぞれ独自に選んだ植物を媒介にして、人が集まる楽しい場所をつくろうとしているところも素晴らしいです。恵比寿の新しい名物になって、週末に散歩に行きたくなるような場所になったと思います。

前半最後の発表は、Bグループ「自然と暮らす坂のまち」です。Bグループの敷地は、急で曲がりくねった特徴的な坂がある場所で、敷地の高低差が大きく、坂には擁壁があります。

新井琉月さん(5年生)「天と地広場」
敷地の急な坂の折り返し地点に、洞窟を掘って広場をつくりました。中心に植えたサルスベリは100日間、赤、白、ピンクの花を咲かせます。猿も滑るほどツルツルの木肌を使って、滑って地下の広場に降りることができます。敷地の中には、土でできた凹凸をつくり、座って本を読んだり、寝っ転がったり、イヌやネコなどの動物が休憩したりする場所にしました。洞窟を掘ったときに、土だらけで暗くならないよう、みんなが協力して楽しい広場にしてくれたらと考えました。

久野広太郎くん(5年生)「葡萄橋」
ぶどうが生えていて、ぶどうを食べながら歩くことができる3つの橋をつくりました。1つ目はBグループの敷地の入り口にあるゲートのような橋。2つ目は建物の屋上と屋上をつなぐ橋。3つ目は琉月さんが洞窟をつくるときに道がなくなってしまったので、道をつなぐような橋です。洞窟の橋は吊り橋にして橋自体を小さくつくり、洞窟の広場を見せるように工夫しました。「橋は何かと何かをつなぐものだけど、久野くんはグループのメンバーをつなぐようなキャラクターだね」と伊東先生が言ってくださいました。

手塚士惟くん(5年生)「タイムステッップ」
一段移動するだけで足元の環境が変わる階段を考えました。まち探検のときに敷地で見つけた螺旋階段からヒントを得て、面白い螺旋階段をつくってみたいと思いました。木の段や、草が生えている段、スポンジで寝っ転がったりできる段などがあり、それぞれ時間や季節によって好きな場所を選べます。ステップは他の建物や敷地とつながっているものと、つながっていないものがあります。ただ展望するだけのステップもあります。テーマになった植物は、トケイソウという花です。

原田こはるさん(4年生)「プラントシェル」
お休みでしたので、TAの岡安優くんが代わりに発表しました。甲羅のようなかたちで表側に植物が育ちます。ちょっとした小山くらいの大きさで、まちのあちこちに設置しました。まちを訪れた人が休憩するときに座れます。敷地を一つ決めるのではなく、甲羅を置くことでまちが変わるアイディアで、鉢植えが置かれているような感覚です。植物によって好む場所が違うので、甲羅に場所性が移し出され、そこに虫や動物が集まってくるというのが面白いと思います。

グループの作品の中で一番好きな場所はどこですか?という質問に対して、「みんなと協力してできた洞窟のところが好き」と声を揃えるBチーム。制作段階から協力し合って、お互いの良さを引き出そうとしていたのが感じられます。「とにかく3人がとても楽しそうなのが一番いいね」と伊東先生。都会には少なくなってきている、探検してみたくなるような広場をチームで協力してつくれたのが良かったですね。子どもも大人も訪れてみたくなる場所になりました。

休憩を挟んで、後半の発表が始まりました。真ん中に大きな道路が通っていて、戸建てやマンションなどさまざまな大きさの住宅があることが特徴のDグループ。「虹のかけ橋」というテーマで制作しました。

西村慧生くん(3年生)「虹の線路」
お休みでしたので、TAの佐藤駿くんが発表しました。カラフルな枕木が立体的な歩道をつくり、みんなの作品の架け橋となって、様々なアクティビティをつなぐアイデアです。まち探検をしたときに、恵比寿で犬と散歩している人が少ないことや、犬と人が触れ合える場所がないと気づいた慧生くんが、犬と人のための立体道路と屋上広場を提案しました。お年寄りは犬が引くトロッコに乗って、犬のスピードでまちを回ることができます。

福島凛音さん(4年生)「ぶどうの家」
敷地にあったマンションのテラスが段々になっていたので、段差を利用したぶどう畑のある、ぶどうと共に暮らす家を考えました。恵比寿の中でも静かな場所にある敷地なので、まちの人が一緒にぶどうを育てて食べる暮らしをイメージしました。慧生くんのトロッコで、ぶどうを運んで、かりんちゃんのカフェで料理して食べることも考えています。「採ったぶどうでジャムやワインをつくったりしても楽しいですね」とアストリッド先生。

藤岡かりんさん(4年生)「つぶつぶハウス」
コバナランタナという植物をモチーフに、つぶつぶのかたちをした屋根のカフェをつくりました。コバナランタナは恵比寿のまちや私の近所にも咲いている赤や黄色、ピンクのカラフルな花です。カフェの周りにはコバナランタナがたくさん咲いていて景色が良く、風にあたりながら、恵比寿のまちで採れるいろんなフルーツをゆっくり食べることができます。店長は私です。メニュー表もつくってきました。凛音さんのぶどうやみかん、姫リンゴの食べ物や飲み物を用意しています。

兼清悠祐太くん(6年生)「垂交する飛道」
寝たきりの祖母と過ごした経験から、お年寄りや体に不自由があっても明るい気持ちになる場所をつくりたいと考えました。アゲハチョウが産卵の際にみかんの木の周りをぐるぐる回って産む場所を探すように、人がみかんの木の周りをぐるぐる回れる道をつくりました。かりんちゃんのお花畑からみかんの木にやってくるアゲハチョウのように飛ぶ道と人の歩道が垂直に交わり、幼虫から美しく飛び立つアゲハチョウに元気をもらえるような道を考えました。

どの作品も、もともとある建物や敷地の特長を捉えて提案している点が素晴らしいと思いました。例えば、元々あるみかんの木にテラスをつけて収穫できるようにしたり、テラスのかたちを段々畑に見立てたり、路地のかたちを立体的に立ち上げたり、既存のまっすぐな急ぐ道と、提案した渦巻きのゆったりした道が対比的になっています。また、それぞれの提案が単独のイメージではなく、架け橋によってつながれていて、一つのストーリーのように感じさせられる点も素晴らしいと思いました。

最後の発表は、Eグループの4人です。Eグループの敷地には、唯一菜園があり、まち探検のときにそこで作業している人にインタビューをしました。わずかな高低差があることに着目し、「水のながれ」をキーワードとして、水の音や反射光などを意識して制作に取り組みました。

青木睦歩くん(5年生)「水段畑」
みんなの作品をつなげるように工夫した水路と段々畑をつくりました。段々畑では、旬の野菜を育てます。例えば、春はアスパラ、夏はキュウリ、秋はシソ、冬はゴボウなどです。自然と関わるのを目的として来る人だけでなく、野菜が目的で来る人にも自然と関わってもらえるようにと考えました。干し柿を干したり、水路にはめだかが住んでいたりします。「都会の中の田舎みたいで良いね」と伊東先生からコメントをいただきました。

近藤那奈さん(4年生)「水の楽園」
どんなときでもみんなが楽しめる都市の中の癒しの場所をつくりたいと思いました。朝には太陽の光が水盤を照らし、小鳥のさえずりが聞こえます。昼は子どもの声でにぎわい、夜はイルミネーションで噴水がキラキラと彩られます。水路に沿って、子どもたちが遊べる場所をつくりたいと思い、遊びながら下に降りられるようなかたちにしたり、水を溜める場所で小鳥と遊べるような水盤をつくりました。「都会的なきれいなイメージで、朝昼晩で異なるイメージができているのが良いね」というのが伊東先生のコメントでした。

中浜瑛理香さん(5年生)「屋上の色水散歩道」
ムラサキシキブよりも多く実をつけ、活用できるコムラサキという植物を選びました。コムラサキの実が水に落ちて、自然の高低差を利用して流れて落ちていくにしたがって、実の色が水に溶けだし、段々とムラサキ色の水になっていきます。その流れと一緒に散歩を楽しみ、色水と触れ合いながら、最後にはハンカチ工場で色染めができます。恵比寿は意外と自然が多いけれど、みんな意識していないのでもっと知ってもらうために何ができるかを考えました。

馬場一喜くん(6年生)「まちの水源」
みんなの作品に水を送り届ける必要があったので、まちで一番高いところを選んで、雨水を循環させる貯水塔をつくりました。木の構造にはぶどうがなっていて、鳥が食べて糞をしたら、そこにまたぶどうが育つサイクルが生まれます。まちの中に広がっていくことで、これが自分たちのシンボルなんだと思ってもらえたら嬉しいです。「力強いデザインで、コンクリートのタワーではなく、植物と一体になっているのが良いね」と伊東先生もおっしゃいました。

もともとそれぞれが水を使いたいというアイデアがあり、馬場くんが貯水塔をつくってみんなをまとめてくれました。「水のながれ」というテーマで、恵比寿の高低差をうまく使っている上に、水を見ると落ち着く、水遊び、植物が育つために必要、ムラサキの色水をつくるなど、水にたくさんの役割がある点も素晴らしいところです。制作をしているときにも、お互いにスケッチをしながら話し合い、アイデアの意思疎通をしているチームで、グループメンバー同士が生き生きと引き立てあっているグループでした。

すべての発表が終わり、5名の作品に伊東賞、アストリッド賞、村松賞が贈られました。また、公開発表会をもって今年度の子ども建築塾の卒業でもあるので、伊東先生から卒業記念バッヂとTAやお友達からのメッセージが綴られた冊子を手渡されました。

伊東賞
■ 兼清悠祐太くん(6年生)「垂交する飛道」
3年間子ども建築塾に通い、塾のレベルを引き上げてくれました。じっくり考えて言葉を選び、イメージをかたちにしてまた言葉を生み出すという建築家の思考ができていて素晴らしい、とのコメントをいただきました。

アストリッド賞
■ 翁涼太くん(4年生)「何十倍ムベロード」
たくさんの人が見に行きたいと思わせる素晴らしい提案でした。

■ 中浜瑛理香さん(5年生)「屋上の色水散歩道」
地域をもっと元気にさせる「made in Ebisu」のオリジナルなアイデアが良かったです。

村松賞
■ 新井琉月さん(5年生)「天と地広場」
大胆な発想と制作力が良かったです。

■ 西村慧生くん(3年生)「虹の線路」
ぐるぐるとみんなをつなぐアイデアが良いと思いました。

今年は敷地模型のサイズが1/50と例年に比べてより敷地に入り込むようなスケールで、敷地模型に直接それぞれのアイデアをつくり込んでいきました。そのため、グループ内で自然とお互いの提案を意識するようになり、チームで一つの大きなテーマを見つけ、つくり上げる過程につながったのではないかと思います。日頃の授業の様子を思い返しても、後期の後半は特にチーム内で協力して模型を制作している様子やディスカッションをしている様子が見受けられました。

発表の中に、「植物が育つと人も虫も動物もハッピーになる」ということを話してくれた子がいました。まさに今回の課題では、植物を育てていくことで、人や動物、自然が身近に感じられ、お互いが仲良くなったり気持ちいい関係になるような、まちを見違えるように魅力的な姿に変身させてくれました。これまで、「まち」というものに対して、大きな力がなければ変えられないと思っていたり、他人事に考えていた子どもたちも、植物を育てるという身近な行為で大きな変化を生み出すことができるということにも気づいてくれたのではないかと思います。

子ども建築塾助手 小森陽子
写真:高橋マナミ


2016年度子ども建築塾 集合写真