会員公開講座 馬場正尊さん「リノベーションスクールのまちづくり」
2019年8月31日(土)、第3回公開講座が開催されました。皆様ご存じ、OpenA代表であり建築家の馬場正尊さんを講師としてお迎えし、たくさんの会員の方々がスタジオに詰めかけ、会場は開始前から熱気に包まれていました。
また、今回は同月5、6日に大三島で開催された建築スクール「空き家をつかって大山祇神社参道をにぎやかにしよう!」という子ども向けのワークショップにおいても馬場さんに講師を務めていただき、講座にはワークショップに参加した子どもたちと保護者、お手伝いで参加してくれた大学生もご厚意で参加させていただき、いつもとは異なった雰囲気で始まりました。
まずは、直近で開催された大三島での建築スクールの感想を簡単にお話ししてくださいました。
馬場さんは大三島に行かれたのは今回が初めてでしたが、大変興味深く島内を調査し、特に伊東塾長の取り組みに参加する地元の方、子どもたち、伊東建築塾の塾生やスタッフの働きに深く感心されていました。
さて、次に馬場さんの自己紹介を兼ねて、これまでの取り組みについてお話しくださいました。
馬場さんは、1994年早稲田大学大学院建築学科修了後、博報堂、早稲田大学博士課程、雑誌『A』編集長を経て、2003年オープン・エーを設立されています。 そして、10年前の建築家としてはタブーとされていた不動産業界に足を踏み入れ、都市の空地を発見するサイト「東京R不動産」を運営することになります。
まず、早稲田大学で石山修武研在籍中のお話からはじまりました。石山教授の多面的な部分に影響されたのもあり、「ビックコミック・アーキテクチャ」という雑誌を編集されます。紛れもなく某漫画雑誌を彷彿とさせる表紙ですが、そのクオリティの高さと着目点に大学生の時から異才を放っていました。
雑誌編集の経験をきっかけに馬場さんは博報堂へ入社します。博報堂時代に経験した「世界都市博覧会」が、ある新聞記事がきっかけとなり、結果的に中止になってしまったことにより、メディアの影響力を痛感します。
その後、雑誌『A』の編集長となり、建築とサブカルチャーの融合を実践していきます。「巨匠の20代」というテーマに、原広司さん、黒川紀章さん、清家清さんなど、その時代の建築界の巨匠たちへのインタビューを行ったそうです。
打って変わって、自衛隊にあらゆるテントを見せていただいたインタビュー「都市を纏う」や、「都市と野生」というテーマにはこの方しかいないと宮崎駿さんへのインタビューなど、当日の貴重なインタビューの様子を詳細に話してくださいました。
のちに、「東京計画2000」という号を出版し、2000年代の東京に対しメディアを通して提案をします。この「東京計画2000」をきっかけに、企画書は紙で捨てられやすいけど、雑誌や本は本棚に並び捨てられにくく、かつ、状況の整理であり、同時に時代の提案であったのではないかと気づいたそうです。
こうした経験と実績がメディアは「魔法の絨毯」であり「プロジェクトのドライバー」という役割や「エンジン」と称するに至ると考えたそうです。
馬場さんのお話の中には常にメディアという言葉があふれ、今までにはないメディアを利用した手法で行政や企業と対峙し、建築にとどまらずエリアリノベーションへと発展していきます。
馬場さんが30歳を過ぎた頃、設計をもう一度スタートします。
しかし、いきなり設計をするのにはハードルが高く、2003年問題(人口が減り、建物が余ること)に着目し、古い建物を再生することからはじめます。そこで、参考にしたのがアメリカのロサンゼルスにある廃墟の中華街を若者の手で改修した人気のアートギャラリー街です。実際に現地に取材へ行き、「都市をリサイクル」という本にまとめます。
そこから、馬場さんの小さな実践がはじまります。
最初に見つけたのは、不動産会社の「駐車場」のファイルから見つけた物件です。そこが、最初の「東京R不動産」のオフィスになります。
馬場さん曰く、「ただ白く塗っただけ」だそうです。しかし、それだけでも古い物件が再生されました。
その後も馬場さんは古くなってしまった物件やなかなか借り手の付かない物件に、次々に新たな価値を加えていきます。
その後、団地のリノベーションの仕事を重ねて行くうちに、オーナーさんの要望で「賃貸だけど、改修ができる物件」を提案します。その物件は、東京R不動産史上最も人気のある物件になります。このような提案をしたことで、今の時代には「工作的に住む人々」がいることに気が着きます。そこで、どんどん自分たちで工作していく住まい手のために、都市を自分たちで編集するような時代に向けて「toolbox」という建材の通信販売をはじめます。
最後に、大三島でのワークショップについて、再度お話しいただきました。
馬場さんは現調と参加者と交流したことで、今治北高等学校大三島分校、島しょ部の高校生+東京からの中高生の混合グループに対してのテーマを「ぼくらの未来の場所と仕事をつくる」とし、自分の将来と島の理想の風景を共有することを課題としました。また、小学生のグループには、参道で開催されるお祭りに出店する屋台の作成を課題とし、どちらのグループも計画地の見学をして、グループごとにアイデアを出し、誰が何をしたいか、「未来の風景は自分たちでつくる」という当事者意識を持つようにと問いかけました。
最初は戸惑っていた中高生のグループでしたが、最初の戸惑いを感じさせない、当事者意識がある具体的な提案が集まりました。部屋名として上手く説明できない空間が多く、宿題してたり、友達としゃべったりと、自分たちが必要としている場を素直に表現してくれました。
一方、小学生のグループは、苦戦している中高生グループを横目に迷うことなく楽しそうな屋台をどんどん進め、モックアップも完成。そのうえ、販売する商品開発まで進み、馬場さんを驚かせたそうです。実際、こういった屋台(マルシェ)を開催すると、子どもたちのお店が一番売れるとの実績も馬場さんはお話しされていました。
馬場さんは今までこうした子どもたちとのワークショップはされていなかったそうですが、今回の経験で子どもたちの発想は侮れないと興味深そうでした。
空間ができるプロセスとして、従来であれば『計画する人→つくる人→使う人』の順であったが、これからはこれが逆のプロセスになり『使う人』の立場(=当事者化・役割の融合)で考えてつくるとういう順番になるというお話が、何度も納得させられました。
学生時代から常に『A』に拘ってこられた馬場さんの今後に目を離せません。
『Bigcomic Architecture』、雑誌『A』、『Open A』さて次はどんなAで驚かせてくださるのでしょうか。楽しみでなりません!!
辻幸子