2019年度子ども建築塾後期まち課題「みんなの商店街をつくろう!」発表会 前編
来は3月7日に予定されていたまち課題の発表会。
コロナ禍にあり、待ちに待っての9月5日、ようやく開催することができました。
「みんなの商店街」の舞台は既存する「恵比寿ビール坂商店街」、ゆるやかに蛇行する、ゆるやかな坂道です。
実際にあるお店は一旦なくなったと仮定して、間口10m×奥行き20mの27区画に整理しました。子どもたちは、敷地調査をして感じたことをもとに、「自分の好きなこと」「まちを楽しくすること」「まちの人たちに喜んでもらえること」などを考えながら、自分たちがオーナーになったつもりで、自分のお店を設計しました。
まちの課題を担当する太田先生が子どもたちに、投げかけた課題は2つ。
①道路から3mの店先エリアを工夫すること。
②入って気持ちの良い内部空間をつくること。
道、店先、内部空間、3つのエリアがどのようにつながるのか、断面のスケッチを描くことで、イメージを膨らませながら設計をすすめたそうです。
いよいよ発表会。子どもたちの発表の前に、子どもたちの活動や制作をサポートしたTAの人たちが、坂道の両端に設置するゲートについての発表をしました。TAによる10案以上の提案の中から、子どもたちが選んだ2つの案。
坂道の上の方には、「みんなの商店街」の地図がステンドグラスになったゲート、下の方には恵比寿の歴史を物語るビールにちなんだゲートが人々を迎え入れていました。お兄さんお姉さんたちの発表をきいて、お手本になったのでしょうか、すっかりリラックスした子どもたちのプレゼンテーションはとても生き生きとしていました。
A班
河野隼大(6年生)「Sea Spa」(欠席のためTAによる代行発表)
夏は南国、冬は雪山、季節で変化するリゾート施設です。海のような店先から中に入っていくと色々な島が浮かんでいて、2階に上がると暖かい海に温泉が広がっています。
西村万央(4年生)「ワンシェア」
犬を飼えない人が、お店に来て保護犬のお世話をしたり、お出かけのときに犬を預けることのできる、カフェ。トンネルのような空間で犬の目線や気持ちを体験したり、ボルダリングをしながら犬たちの様子を上から見たり、VRで犬のお世話の練習をしたり、犬といっしょに入れるプールなど、トイプードルを飼っている万央ちゃんならではの提案に、伊東先生が、「僕も柴犬を飼っているから、こんな場所があったら助かるなぁ。」とおっしゃいました。
鶴川智裕(5年生)「レストランパバタケ」
スーパー、畑、田んぼを略してパバタケ。自給自足をテーマにした地球にやさしいレストランです。庭にはみかんの木と畑があり、鶏や豚や飼っていたり、屋上をつたって、隣の牧場の牛が散歩に来たり、周りのお店の屋上を田んぼとして借りるなど、お店やまちで育てた農産物を購入したり、料理を楽しむことができます。みかん狩りや、豚のえさやり体験、田んぼのお世話体験などイベントも盛りだくさん!インスタ映えスポットやクーポンのシステムなどまで考えつくした提案でした。
森永幹久(4年生)「ホワイト&ブラック」
牧場と牛乳を楽しむことが出来る施設です。厩舎のようなカタチの建物の屋上に牛が飼われていて、乳搾りなどを体験できます。屋上は他の建物ともつながっていて、牛が散歩することができます。ミルク瓶のようなカタチのライトにこだわりました。店先には屋台を出します。近くのお風呂屋さん「Sea Spa」にも牛乳を配達します。
野中蓮(6年生)「木もれ日garden」
リサイクルをテーマにしたお店です。自然をモチーフに考えました。店先は芝生、お店のファサードにはグリーンカーテン、内部には丸い中庭があって、らせん階段をつたって屋上に行くことができます。緑いっぱいの空間では、普段の生活の疲れを癒しながら、ゆっくりとお買いものを楽しむことができます。不用品を集めてリデュースした商品を販売することで運営資金を得るそうです。「リサイクルのムーブメントを中庭とらせん階段という建築の要素で表現しているのがとても素晴らしい」とアストリッド先生が評価してくださいました。
A班の発表を終えて
A班の提案は、自然や動物を商店街に持ち込むことで、自給自足やリサイクル、シェアと、社会的なテーマにアプローチする案でした。どの案も、他のお店とのつながりやサービス面での連携をしっかりと考えていました。
だったら、「2階の庭を全部つなげちゃった方が面白いのでは。」太田先生をはじめ、3人の先生が口をそろえておっしゃいました。「牛を飼ったり、畑をつくったりすることの大変さや、農業をする人の気持ちを考えたことがあるかな?」伊東先生の指摘には、楽しい提案を支えるリアリティについて考えてみたら、もっと力強い提案になるよ、という励ましの気持ちが込められていました。
B班
竹原杏(4年生)「本の木ひろば」
本の木についている木の実をもぎ取って、マットやハンモックなど自分の気に入った場所に行って読むことができる広場を提案しました。木のまわりをぐるぐると回っている、らせん階段をつたって色々な枝に昇って、様々な種類の本を探せる、本の大好きな自分自身の「あったら、いいな」をカタチにした作品でした。とても素敵な夢のある空間、その豊かな想像力で「建築になったらどうなるのかな」とついつい期待してしまう提案でした。
ライト・マーガレット(6年生)「BOOK×NATURE」
円形の建物は、子どもから大人までが楽しめる、自然に囲まれた図書館です。道に面した壁は、本棚になっていて、たくさんの本がつまっています。中庭側の壁はガラスなので、中庭で遊んでいる子どもたちを見守りながら、本を読むこともできるので、家族みんながリラックスできる場所になっています。
「建物は一見とても固いように見えるけど、本が並ぶ内部空間はとても柔らかい、不思議な魅力がある」とアストリッド先生が評価してくださいました。
縄田沙空(4年生)「だれでも入れる教会」
困っている人や悩んでいる人を癒す空間と、通りすがりの人がちょっと立ち寄って初めて会ったばかりの人たちが分かち合う空間を提案しました。大きな青い3枚の壁の間に布のような柔らかな屋根が垂れています。床の緑と壁の青、白い屋根に囲まれた空間がまるで風景画のように映し出された模型写真を、太田先生が誉めてくださいました。素材や光にこだわってつくっていくことは建築にとってとても大事なことなのです。
中山心絵(6年生)「Fabric & Kimono」(欠席)
布や着物をイメージしたショーウインドウのような建築です。自分の好きな柄を選んだり、実際に着物を試着することができます。プレゼンテーションボードいっぱいに配置された模型写真が魅力的で気になると、伊東先生。
荒木義行(4年生)「ふわっとまったり」(欠席)
カレーを楽しむ木のような建築を提案しました。大きな幹のような店内には、スパイスの香りがふわっと広がります。テラスに出ると緑に囲まれながら、まち全体を見られて、ゆったりまったり過ごすことができます。
B班の発表を終えて
「どうして丸いの?」敷地の真ん中に円筒型の建物を設計したマーガレットちゃんに伊東先生が尋ねました。「最初は半円だったんだけれど、納まりきらなくて。四角いとつまらないと思った」とマーガレットちゃん。丸い建築はとても強い表現だと、先生たちは皆感じたようです。
太田先生も「閉じていて、隠れ家のような場所だね。」とおっしゃいました。でも、「内部にはとても優しい場所ができているんじゃないかな?」アストリッド先生は、外側からみると固く見える円形の壁が、内側から見ると柔らかく包み込んでくれていることを指摘します。
「竹原さんの広場と組み合わせたらいいんじゃない?」と、伊東先生。隣り合う建築同士がつながったり、お互いを支えあったりする可能性を発見するのも、まちの課題の醍醐味です。
C班
馬場美羽(6年生)「みんなの色をつくって広げてIN THE CAFÉ & STUDIO」
家族がいろんな楽しみ方をできる、家具とDIYのお店です。1階はアトリエ、2階はカフェで、お父さんが家具をつくっている時に、お母さんが2階でお茶を飲んでリラックスしていたり、子どもがアスレチックで遊んでいたりします。カフェの壁はみんなで協力してつくります。「周辺の敷地や建物をよく理解していて、店先に2階に上る階段がおりてきてお客さんを向かい入れていてとても都市的な建築だと思います」と太田先生。
川又美緒(4年生)「ななめアートホール」
屋根がななめのところが特長のホールです。建物を広く見せたかったので、屋根を斜めにしました。真ん中に丸い穴が開いていて、舞台が上下して、どのまま2階をつきぬけるので、様々な角度からショーが見えます。
「商店街にむかって、低くなることでまちの人たちを中に吸い込んでいる、とても美しい提案です」とアストリッド先生。「断面のスケッチがとってもいいですね」と太田先生。
小島歩果(4年生)「うねっゆらっほっこりー」
キリットした都会のまちで、足湯につかって水や自然にふれてゆっくり、ゆらゆら癒される場所です。食べ物や飲み物を持ち込むこともできるし、地域ねこが遊びに来たりして、一緒にほっこりーすることができます。
「とても断面的な建築ですね。階段状の床を水が流れていて、まちの人を建物のなかに誘いこんでいます。とても効果的です」と太田先生。流れる水の表現もスズランテープを工夫して使って表現していました。
佐藤楓夏(5年生)「てくてくねこ町たんけん」
地域ねこが、まちを案内する気まぐれな案内所です。のらねこを追いかけてまちを歩くと思いもしなかった場所に出会うことがあります。そんなねことの出会いや、訪れる人と人に交流の場所にもなります。人間にとってくねくねしたベンチは、ねこにとってはキャットウォークになっていて、人間もねこもお気に入りの場所を見つけることができます。寒い冬にはたき火をしたりします。
「猫の目線にたって考える、自分の方法を持っていて素晴らしいから、人間のスケールについてももっと考えて欲しいな」と期待する太田先生やアストリッド先生に対して、「模型写真が素敵だね!」と絶賛する伊東先生。
くるくる回るステージの上には、おすしのネタが描かれたピンがたっていて、倒したネタのおすしを握ってもらって食べられるという、お寿司屋さんです。誰もがびっくりするようなユニークな提案ですが、「立体的で不思議な魅力のある案」(太田先生)になりました。
「部分からつくっていて、それらを組み合わせたら全体が出来てくるという発想が面白い」と伊東先生、「いろんなカタチの組み合わせが新しいアクティビティをつくっている」とアストリッド先生。すしとボーリングという異色の組み合わせを見事にまとめあげたと好評でした。
Cグループの発表を終えて
みんなのプレゼンテーションボードのなかに、ねこが登場するのを発見した伊東先生、人間ではなく「ねこ」の目線で建築を考えることの新鮮さと楓夏さんの提案のもつ魅力についてお話してくださいました。
「僕も、自分の好きなものだけを集めて、好きなものだけで建築を作れたらいいなぁ、と考えることがあるんだよ。実際は、嫌なものもいれないとなかなか建築にならないんだけれど、そんなに焦って早く建築にする必要もないんだよ。好き、という感覚や直感、情熱を持ち続けて下さい。」
伊東先生から子どもたちへのとても大切なメッセージでした。
(後編へ続く)