[福岡]2024年度 伊東子ども建築塾 第1回授業

2024年04月24日

4月6日(土)に行われた伊東子ども建築塾 福岡第1回の様子お届けします。

はじめに伊東先生から「“風”と暮らすいえ」という今年のテーマ発表が発表されました。伊東先生にとっても重要なキーワードである「風」をテーマにすることについて、「難しいテーマだけれども、自由に楽しく過ごし、のびのびやってほしい」との激励がありました。     

初回ということもありやや緊張した面持ちの子どもたち。自己紹介を兼ねて風のイメージを聞いてみると、「嵐・台風・災害」といった強い風のイメージと「心地いい・桜が散る・流れる」といった優しい風イメージのものの大きく2つがありました。また扇風機といった人工的な風をイメージする子もいました。

先生方やTAからは「カンボジアのような熱帯では、風は人の生死に関わる」「オランダでは人の営みと共にシンボルとしてある風車」「学校の帰り道で夕食のカレーの匂いを届けてくれる風」など、その人の経験や個性がにじみ出た様々な風のイメージを共有してもらいました。     

次は伊東先生のレクチャーです。

風を想起するものとして5つのキーワードとその例が挙がりました

1.風は見えないが何かを通して感じられるもの
例:風鈴
新宮 晋(風をテーマにした彫刻家)の作品
風の塔★ 1986年 横浜

2.風は昔から暮らしに重要な役割を果たしていた
例:聴竹居 1928年 藤井厚二
パキスタン・ハイデラーバード 風の煙突

3.風は今も省エネに重要な役割を果たしている
例:みんなの森 ぎふメディアコスモス★ 2015年
Capita Green ★ 2016年

4.風を防ぐ必要もある
 例:沖縄のヒンプン(台風を凌ぐ役割)

5.風を感じさせるプロジェクト
例:レストランバー ノマド★ 1986年 
インスタントシティ 1969年 ピータークック

(★印は伊東先生の建築作品です)

みんなの森 ぎふメディアコスモスは、伊東先生の近年の代表作の1つです。天井からぶらさがった傘のような11個のグローブを通してやわらかい自然光が室内に差し込みます。またグローブは風の流れを利用して、暑い熱を外に排出し、冬は暖気を囲い込む役割を果たしています。

たくさんの事例がありましたが、古来から風を活用する知恵があり、自然現象を建築に取り入れることで快適な空間を作り出していたということ、そして、現在はそれを技術で作り出しているということを説明して頂き、人は自然のなかで自然の一部として生かされているのだと感じました。

続いて坂口先生から、風のイメージをより膨らませるためにイブ・スパング・オルセン作の絵本「かぜ」の読み聞かせがありました。

伊東先生のレクチャーと坂口先生の絵本の紹介で、今も昔も風が人々の生活に重要な役割を果たしていること、同じ風でも置かれている状況次第でポジティブにもネガティブにも捉えられること、本物の風でなくてもイメージだけで風を感じさせることができることを学びました。

伊東先生・井手先生・坂口先生の風をテーマにした対談では、伊東先生が光・風・空気の流れなどの自然現象をどのように建築に置き換えられるか、常々試行錯誤されていると明かされました。今回の課題については、機能性や実現性、強い風にどう耐えるかなどの現実的な課題解決を考えるよりも、風のイメージを膨らませて、子どもたちにのびのびと自由につくってもらうことを期待したいと強調されました。     

風のイメージとして、桜が散る様を挙げてくれた子がいましたが、日本では、古今和歌集の時代から、満開の桜だけでなく散る桜にも美しさを見出すようになり、多くの歌が詠まれているそうです。風を前に儚く散りゆく桜に自分の心情や命を重ねる日本人ならではの感性に話が及びました。

対談のあとは、グループごとに集まって担当TAの自己紹介と次回までの宿題の確認を行いました。

宿題は①風を感じてみよう、②風を調べてみようの2つです。伊東先生も子どもの頃に体験されたことが建築の発想の源になっているそうです。まずは五感を存分に使って、さまざまな風を体感してきてください。

①風を感じてみよう
・風(=空気の流れ)を感じてみよう
・風を感じるには五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)が大事。見たり聞いたり触ったり食べたり、匂いをかいだりしてみよう

②風を調べてみよう
・日本には風を表現する言葉が2000以上もあるといわれている
・風には「良い風」「悪い風」がある?
・国や地域・場所・環境(状況)によって違いがある?

宿題の具体的な取り組み方について、先生方から、「桜を見に行く」「凧をあげてみる」などとにかく具体的に行動すること、また、宿題をまとめるにあたって,いざ風を絵でスケッチブックに描こうとすると難しいので、「漫画や絵本などで描き方を研究してはどうか」といったヒントがありました。

ちなみに私は今回の授業を踏まえて、「風の谷のナウシカ」を観たくなりました。ジブリ作品は自然とどのように向き合い、共存していくかをテーマにしたものが多いですよね。腐海が迫る過酷な環境の中でも自然を制し拒絶するのではなく、風を操り、取り込み、ともに生きようとする風の谷の人々の姿に思いを馳せると、風の見方が変わりそうです。

最後に、伊東子ども建築塾福岡2年目(昨年も参加してくださった)お子さん5人に昨年の塾の感想をインタビューしました。特に「学校より自由で雰囲気が軽い」という率直な意見に大人は大喜び。

終了後の伊東先生を囲んだスタッフミーティングでは、今年も子どもの方が想像力を持っているという前提で、観察する、可能性を引き出す、学びあいを大事にする姿勢を大切に取り組む、ということを再確認しました。

これから半年間どうぞよろしくおねがいいたします。

古野 尚美 (ブログ取材担当)