日本大震災に対するメッセージ

被災され苦闘している皆様方に心からお見舞い申し上げます。

私達は2011年に「NPO法人これからの建築を考える」を設立し、まさにその名称の通りの建築塾をスタートしようとしている直前に今回の大震災が起こりました。東北地域の大学の先生達からの被災時の状況を伺っただけでも、大惨事の凄まじさが想像されます。その凄まじさに対して私達はほとんど茫然とするばかりです。しかしそれでも私達は何らかのお役にたちたい…、私達は被災地の皆様に何かできるでしょうか。

私達がこの建築塾を立ち上げた最大の理由は「建築家は一体誰のために、何のために建築をつくるのか」を考え直したかったからです。建築を考える者にとって 問いかけることさえ憚られる程の根源的な問題が、建築家からも建築を志す若い人々からもすっぽりと抜け落ちているような気がしてならなかったからなので す。
私達はいやという程、人々のため、とかコミュニティのための建築と主張してきました。
しかし、それらは抽象化され、図式化された人間やコミュニティに過ぎず、決して具体的な血の通った人間のためではなかったように思われます。

しかし、今回の被災地で立ち尽くす人々と向かい合った時、我々は建築家としてではなく一人の人間ともう一人の他者として向かい合わざるを得ないのです。
観念内部のみの一人よがりのコミュニティも集住論も何の役にも立ちません。生まれている人間同士として私はあなたのために何かの役に立てるのかだけが問われているのです。
だから私達はチャリティとしてではなく、この建築塾の思想として、微力ではあっても何らかのお手伝いをさせていただきたいと思います。

建築家養成講座を開講したら、塾生達とまず最初に被災地を訪れたい、そして現地の人々の生の声を聞きたい、東北の建築家の方達にも東京の塾に来ていただいて直接話を伺いたい、その上で私達にお手伝いできることを話し合いたいと思います。
また夏休みの頃には被災地の小学生を今治市大三島にある私達のミュージアムに招待したい、そして今治市の子供達と交流し、まちについて話し合って欲しいとも考えています。
当初考えていた塾のカリキュラムも大震災をテーマに考え直したいと考えています。

本当に小さな私塾ですが、ここが震災復興の支援の小さな足場になることを心から願っています。

2011年 3月 28日

伊東 豊雄
伊東建築塾