会員公開講座 福本幸子さん「自然と調和し、野生的に生きる」

2016年07月07日

5月28日に開催された会員公開講座では、珍しいジャンルの方がご登場しました。女優・モデル・水中表現者として活躍される福本幸子さんです。「自然と調和し、野生的に生きる」をテーマに、本能に従って歩んできた人生と、自然と共に歩むライフスタイル、そして海への向き合い方などを伺いました。

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福本さんはアメリカ・テネシー州生まれの沖縄育ち。ご両親は台湾の出身ですが、英語・日本語・北京語・台湾語・沖縄の方言が飛び交う、生まれたときから特異な環境で育ちました。公開講座当日もなんとホンジュラスから帰ってきたばかり、2ヶ月ぶりの日本とのことで、いきなり驚かされました。

14歳でモデルとしてデビューして大人に囲まれる生活となり、15歳で一人暮らしを始め、16歳で香港に渡りエリック・コット監督の元で演技の修行を受けたという福本さん。その早熟でエネルギッシュな生き様に驚かされます。謙虚さを学び、演技だけでなくラジオ番組を自分で運営してきた香港での経験と、その後ニューヨークに渡りさまざまな土地を旅したことによって、どんどん視野が広がってゆきました。

20歳で沖縄に戻ってきたとき、福本さんの心を打ったのは、故郷の海の美しさでした。沖縄で育った福本さんにとって、海はきれいなのが当たり前でした。しかし世界を巡り、そうではない海をたくさん目にしたことで、沖縄の海の素晴らしさに気付きます。10代であらゆる経験をして、「もう遊んでいる場合じゃない」と20歳のときに思ったそうです。そこから、福本さんの人生の第二章が始まりました。

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ダイビングとサーフィンを始め、福本さんは海を中心にした生活を送ることにしました。昼夜逆転の生活は戻り、お化粧もほとんどしなくなり、打ち合わせは干潮の時間に、と自然に合わせた生活を送り始め、「旧暦に従って行動するほうが体の調子がいい」ということに気付きます。自分も自然の一部、宇宙の一部として生きていることを感じてから、自分の体が欲するものを分かるようになったり、さらに危険察知能力や判断力といった、人間に本来備わっている動物的な本能が敏感になってきたのを感じたそうです。

子どもの頃に見ていた海がどんどん変わっていってしまう中で、「どうにかできないか」考えても、自分の無力を感じます。そこで、自分の活動と結びつけて海を守るお手伝いができたら、と思い、3年前に沖縄の海で水中映像や写真を自ら制作し、水中表現者としての活動がスタートしました。最初に制作した作品は、金魚のような赤いドレスに身を包んだ福本さんが海の中を舞う美しい映像。海があまりに透明で、水があるのか分からないような、不思議な世界が広がっています。それは沖縄の海固有の透明感によるものです。

他にもサンゴの産卵の夜の幻想的な写真、「THINK LESS, FEEL MORE」というキャッチコピーが添えられたポスター写真などを見せていただきました。今の美しい海を映像に残すことが、福本さんなりの訴えの方法なのです。

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Photo: Toshiyuki Furuyama

さらに、映像制作のためのトレーニングをきっかけに、フリーダイビングの世界に飛び込むことになります。競技として始めたわけではなかったそうですが、1年足らずで水深60mにまで到達し、バハマで行われる世界大会に出場することを決めました。

しかし、急激な進歩ゆえに大会直前にスクイズ(血を吐いてしまうこと)をしてしまいました。病院に行くか行かないか迷いましたが、体の声を聞くことを選び、自己記録の更新を断念します。あまりにショックな出来事ゆえに、福本さんはとても落ち込んだそうです。しかし、「自分はアスリートではなく、エンターテイナーだ」ということを思い出し、「とにかく楽しもう」と考え直します。大会当日、福本さんは大会史上初のビキニ姿で海に潜りました。大会を記録した映像に映る福本さんは、とても幸せそうな笑顔をしています。映像中の「Be true to the blue」という言葉が、福本さんの生き方を象徴しているようでした。

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自然を相手にする、海に入らせてもらうということは、全てが思い通りにはならないということ。どんなことにでも対応しなければなりません。結局は何とかなるのだから、何かにぶつかったら、「どうしたら楽しくなるだろう?」と考えて、自然と対峙する日々を送っています。明るく自由な生き様に、一人の若者として勇気づけられた一夜でした。

杉山結子