[福岡]伊東子ども建築塾 第5回 中間発表

2024年07月10日

いよいよ今年の建築塾も折り返し地点。6月15日(土)に行われた伊東子ども建築塾 福岡第5回中間発表の模様をお伝えします。

中間発表は、通常授業と場所を変えて、旧小学校校舎をアーティストの交流拠点施設(カフェや展示スペース)にリニューアルしたArtist Cafe Fukuokaで行いました。

元教室という子ども達にとってはホームグラウンドのような場所だったからか、アットホームな雰囲気のなか、持ち時間2分で計18名が発表しました。

4月から“風”という難しいテーマに向き合ってきた子どもたちの頑張りが伝わり、伊東先生の総評の第一声は「東京から来てよかったです。素晴らしかったよね。」でした。

同時に「すごく現実に近いところで考えている人と夢みたいなレベルで考えている人の両方がいるから、案によっては模型にせずにドローイングで表現したほうが伝わるかもしれない。結果だけ見てもおもしろくない、思考のプロセスを説明できれば良い。」と提案されました。“最終成果物=模型”というこれまでのやり方を考え直さざるを得ないほど、今回の塾生の発表は想像力に溢れていて多様なものだったのだと思います。

さて、それでは子どもたちの発表について、いくつかご紹介させていただきます。

模型で具体的なかたちをみせてくれた『風で動く家』は風の力を受けて家と家の間を行き来する暮らしを表現しています。坂口先生からは「家本体と風で動く部分の大きさにあまり差がないところが面白い」、末廣先生からは「動く方向が一方向でなくても良いし、電車のように連なってもいいかもしれない」などより案を発展させるための具体的なアドバイスを引き出していました。また古森先生がおっしゃったように、行き来が風次第であることのメリットとデメリットに着目すると、この家ならではの面白い暮らし方が見えてきそうですね。

また大きなスケールで暖かい風と冷たい風を混ぜるプラントのようなシステムを考えている『温度のある風を利用した家』は、風によるエネルギーの機構を、スケッチブック4ページを使って迫力のある一枚の絵に表現しました。坂口先生からは「機械にも見えるし、人体にも見える」との指摘も。彼のスケッチブックを遡るとこれまで考えたこのシステムの断片的なアイデアがたくさんでてきました。夢のあるアイデアを残しつつ、地熱利用や海水冷却システムについて実際の事例を調べてみるとリアリティが増し、より説得力のある案になりそうです。

一方、様々な種類の風を求めて新幹線で旅をする作品『しんかんせんの旅ででる風』は、パステルを使ったやさしいタッチで描いた絵巻物のような表現が魅力的でした。古森先生からは「“旅”に着目して、風を感じられるように乗り物自体をデザインしては?」というアドバイスが、百枝先生からは「“新幹線”に着目して、新幹線を間近に感じられる家はどう?」といったアドバイスがありましたが、担当TAにこの案に至ったプロセスを尋ねてみると、“新幹線”も“旅”も彼にとって手放しがたい大事な要素のようでした。今後どう展開していくか、興味深く見守りたいと思います。

また『風とつながる家』というタイトルの作品は、まだイメージは断片的なものの、スケッチブックの見開き1ページにまとめられた文言やスケッチの1つ1つにセンスが光っていました。都会と田舎の間で暮らしたいという考え方に、伊東先生が「ローマ時代の賢人の考え方と同じだ。」と指摘したり、まだ名前のない風を色で表現したスケッチに「感覚的に風を捉えていてすばらしい」と声があがったりするなど、複数の先生が彼の風の表現方法や捉え方に興味を持っていました。これら複数のアイデアをどのようにかたちにしていくのか、難しさもあると思いますが、頑張ってもらいたいです。

 

風が家と家の間や街を通り抜けていく流れを表現した『風の通り道』のスケッチについて、「青いところは淀みだよね。流れと関係がありながら、人が滞留したくなる場所。それをどうやってつくるかなんだよね。」と伊東先生が仰ったのも印象的でした。話は生物学者・福岡伸一先生の「動的平衡」の生命観にも及びます。「生命の存在は、固定された実体ではなく、絶えざる分解と合成という流れの中に一瞬だけ立ち現れる分子の淀みであって、生命の本質は要素そのものではなく、要素と要素の“あいだ”で起きる相互作用にある。」とのことでした。子どもたちには少し難易度の高いお話だったかもしれませんが、物事の本質がモノとモノのあいだで織りなすコトにあるという考えがどのように作品に反映されるか、TAや講師も一緒に考えてくださると思います。

伊東先生はこれまでの授業やTAや講師の先生との対話の中でも、「ギリギリまで具体的なかたちにせずスケッチで考える」や「模型になったとたんにつまらなくなることがある」とおっしゃられていましたが、その背景には建築である以上、最終的にはモノ(かたち)にせざるを得ないものの、本質はモノ自体ではなく、そこで織りなすコトにあるという考えがあるのではないか。だからこそ、枠にとらわれず大人よりも鋭く物事の本質をとらえる子どもたちの発想を心から楽しみに、この子ども建築塾を続けてこられているのではないかと想像しました。

最後の総評では、「みんな風の様々な側面を理解し、コントロールしようとするのではなく、風と仲良くしようとしているところが良かった。」と坂口先生。末光先生からは「風だけの絵を描いている人は人を描いてみてそこでどう暮らすかを想像するともっと進みそう。」、末廣先生からは「後半で悩むこともあるだろうけれど、今日のイメージをそのままかたちに勢いでいいと思う。」と今後のアドバイスがありました。

なお冒頭で紹介した伊東先生の総評を受け、最終成果物は模型に限定せず、ドローイングなども含めて表現方法を自由に選択してもらうことになりました。自身の案が一番魅力的にみえる表現方法を探ることは、TAや講師の先生方も日頃の課題や提案の度に考え、悩んでいることです。迷ったらTAや講師の先生を巻き込んで、後半も18人の仲間と共に楽しく考えましょう。

次回もよろしくおねがいいたします。

古野 尚美 (ブログ取材担当)