会員公開講座 アトリエ・ワン+飯田大輔さん「地域を活かし、新たな仕事をつくる」

2017年04月24日

2017年最初の公開講座は、建築設計事務所アトリエ・ワンの塚本由晴さんと社会福祉法人福祉楽団を主宰する飯田大輔さんにお越しいただきました。建築家と施主の関係であるお二人に、飯田さんの活動とそれを叶えた塚本さんの建築について、楽しくお話しいただきました。

飯田さんの主宰する「福祉楽団」は、お年寄りや障害を持つ方のケア事業や就労支援事業を行う社会福祉法人です。透明性の高い運営方法や清潔で明るい雰囲気、商品や空間、デザインの質の高さなど、これまでの福祉のイメージにとらわれないやり方で、特別養護老人ホームやデイケアセンター、障害を持つ人のための福祉事業などを行っています。

まずは塚本さんから建築についてお話しいただきました。お二人の出会いは、飯田さんが「恋する豚研究所」の建築設計を塚本さんに依頼されたのが始まりでした。飯田さんの叔父に当たる創始者の在田さんが元々養豚を行われていたことから、養豚事業と障害者就労支援を組み合わせ、障害を持つ方を雇用して豚肉の加工を行い、その肉をレストランで提供する異色の施設です。加えてこれまでの障害者就労支援では「働かせてあげる」という意識で十分な給料を払わないところが多いのに対し、「最低賃金をしっかり払う」というコンセプトで、働くことを通してアイデンティティを生む手助けをします。塚本さんは「新しい試みだ」とやりがいを感じ、設計を引き受けました。


「恋する豚研究所」外観

「恋する豚研究所」のある千葉県香取市は近郊農業を営む農家が多く、成田空港の近くでありながらきれいな農村風景の残る地域です。建築のアプローチは福祉面からではなく、地域の風景からスタートしました。郊外によく見られるコンクリートの道の駅のように「モータリゼーションの文化が農村の文化を侵食する」のではなく、ルネサンスの建築家パッラーディオのヴィラ・バルバロのような、農村に属している建物のあり方に学ぼうと考えました。ここでパッラーディオは建物を立派に見せるため、大きく開いたロッジア(開廊)で間口を大きく見せました。「恋する豚研究所」ではロッジアの奥に二階建ての建物をつくり、一階は工場、二階は高さの違う4つの赤い屋根のもと、高い順からレストラン・広間・事務所・トイレなどを置き、真ん中に中庭を配置して光を通しています。近づいたときに車ではなく建物が見えるように駐車場は奥に隠し、ロッジアが駐車場から建物へのアプローチになっています。いわゆる「施設」のような雰囲気ではなく、働く人もお客さんもそれぞれ一人の人間として受け入れるような寛容さを持つ建築にしたかったと語る塚本さんは、広げた腕のようなロッジアでそれを表現されました。


「恋する豚研究所」レストラン

レストランは工場でスライスした豚肉を使った豚しゃぶが提供されます。ぐるりと取り囲む窓からは周囲の杉林が一望できます。塚本さんの食事の場の窓のこだわりは、天井から床までではなく腰壁までの大きさと、いつもきれいに磨いてあることだそうです。きれいに掃除できるようにキャットウォークが窓際にぐるりと回っており、障害を持つ人の大事な仕事を生んでもいます(みなさんの掃除のおかげでいつもピカピカだそうです!)。レストランの横の広間も特徴的で、基本的に何もなく、用途のない空間としてつくられています。冬場は薪ストーブが置かれ、周辺の住人のくつろぎの場やイベント会場にもなるようにと意図されたそうですが、今や週末に500人という集客力を持つようになったレストランの待合所として活用され、本やけん玉、バドミントンがあり、子どもたちは外で遊びながら待つことができます。


「多古新町ハウス」外観

続いて「多古新町ハウス」を紹介されました。お年寄りと障害を持つ子どもたちのためのデイケア施設ですが、お互いのエリアを隔てる壁はありません。さらに、ここには「寺子屋」と呼ばれる勉強スペースがあり、鍵はかけずに24時間開放されています。まるでカフェのような雰囲気のお座敷とテラスがあり、宿題をする中高生や資格の勉強をする大学生や社会人が大勢集まっています。ここにはトイレがなく、デイケアエリアまで借りに行く際に交流が生まれたり、勉強中に向かいの和室にいるお年寄りと目が合うなど、さりげない触れ合いが生まれるように設計されていることが分かります。お年寄りのためのステイ施設もあるのですが、なんと今ではこの宿泊部屋に近くの多古高校の野球部の学生が下宿しています。ケアの世界では空間上の制約が大きいため、こうしていろんな人が一緒にいるのはとても珍しいことだそうです。この地域の特徴であるきれいなイヌマキの垣根に納まるくらいの天井の低さ、長く延びる庇、そして壁のない空間が多様な人々を受け入れています。様々な人々が出入りし、共生する大空間です。

最後に、設計中の森林資源化プロジェクト「栗源第一薪炭供給所」を紹介していただきました。「恋する豚研究所」周辺には1950〜60年代に植えられた杉林が放置され、里山がなくなっています。福祉楽団は「人のケアをするなら空間のケアもする」「環境も含めて良くしていかなきゃいけない」と考え、それも自分たちの仕事に含んでいこうとする広いビジョンを持っている、と塚本さんは語ります。このプロジェクトの場合は近所の人たちに薪が売れることが分かり、林から障害を持つ人の雇用が生み出せると気付いたそうです。ビジネスモデルという「仕組み」から考え、間伐をした木材を薪に変えるための資源化のための作業場、薩摩芋の畑、スイートポテトをつくる工場、デイケアセンター、老後の相談所、シェアオフィスが一体となった施設が構想されています。


「栗源第一薪炭供給所」イメージ図

ここで、薪割りってけっこう難しいんじゃないか?と思いますよね、という問いかけが。塚本さんは、飯田さんたちが誰にでも簡単かつ安全にできる薪割りの機械を見つけてきて、これを「バリアフリーだ」と言っていたのを聞いて驚いた、というエピソードを紹介されました。建築だとエレベーターやレベルを揃えることだと考えがちですが、社会には様々なかたちのバリアが存在し、考えるほどバリアの存在とその対処法が見えてくると気付いた、と塚本さんは語られました。そこで、まだ建築設計の段階ではないので、障害をもつ人でもできる作業を探すための作業分解図と、誰にでも分かるドローイング付きの薪割りのマニュアルをつくられました。「アクセシビリティを生んだり人々が楽しく働ける環境を整えることは、建築設計ではないが社会空間を変えることだから一種の建築づくりではないか?」「これからの建築は、社会のバリアを探して取り除くことだ」という言葉で締めくくられました。

続いては飯田さんが、養豚についてのお話からスタートされました。養豚は農家がどんどん減少し厳しい状況にあるそうですが、飯田さんの叔父に当たる在田さんは多くの農家のように一頭当たりのコストを下げるのではなく、価値を上げることで経営を成り立たせようとしました。そのこだわりの一例は餌で、コンビニのサンドイッチのパンの耳や、シリアル、粉ミルク、きな粉といった食品廃棄物を企業からもらい受け、ブレンド・発酵させ餌にしており、おいしい上にブレンドした菌により健康な豚が育ちます。千葉は養豚全国三位、豚の密度で言うと一位なので死亡率も高いそうですが、「恋する豚研究所」ではとても死亡率が低く、食品リサイクル法により企業も有効に使わなければならないので、お互いに良い価値が生まれています。

「恋する豚研究所」での障害者雇用の動機は、障害を持つ人の月給は全国平均1万3千円ととても低いことを知り、「月給10万円の仕事をつくりたい」と思ったことだった、と飯田さんは語ります。障害者年金と合わせれば自分の力で生活し、健康保険証をつくり、税金を払うことができる金額であり、それを通して社会に参加し、アイデンティティを持つことができます。同時に各施設には「恋する豚研究所」や「多古新町ハウス」としか掲げていないので、「恋する豚研究所」のレストランはお昼のみの営業なのに月1,000万円以上を売り上げ、年間9万人が来館しています。お客さんたちは法律的には社会福祉施設だということを知らないでただ食事を楽しんでいるそうです。今ではイベントの場所にも使われ、加工したハムやソーセージ、スライス豚肉は東京のスーパーなどにも卸しています。


「多古新町ハウス」の「寺子屋」外観

「多古新町ハウス」は障害を持つ子どもたちを学校の後や休み期間に預かること・ビジッティングサービス・高齢者と大人の障害を持つ人のデイサービス・ステイ施設・寺子屋と様々な機能を持っています。寺子屋を作った動機は二つあり、地域に図書館もスタバやマックのようなカフェもなく、「子どもたちがたまれる場所をつくりたい」と思ったこと、経済格差と教育格差の悪循環を止めるため「無料の学習支援の場所をつくりたい」と思ったことだそうです。


「寺子屋」で勉強している高校生

実際にここで退職して時間のある地域の人が子どもたちに無料で勉強を教えています。24時間開放のため、いつもたくさんの人たちが遅くまで勉強しており、鍵は開け放しですが危ないことは今のところない上、隣の住民の方が心配して見回りをしてくれているそうです。高校生の下宿について、よく「ふれあい」という言葉が使われますが、高校生とお年寄りは生活時間が違うのでそんなに「触れ合っている」わけではないけれど、お互い「ご飯を食べたかな」「元気かな」などと気にかけ合っているそうです。ここでケアする・されるの関係が反転している、と飯田さんは語ります。福祉施設には普通専門家しかおらず、一種の異常な空間とも言えますが、高校生という「素人」の存在が良い効果をもたらしています。一方で現代のお年寄りは障害を持つ人々を差別してきた世代であるという課題があり、同じ空間でうまく共生していくための方法を探って行かなければならない、と語られました。

次に、埼玉県吉川市の団地にある、「地域ケアよしかわ」という訪問介護の事業所をご紹介いただきました。ここでは事務所に人が座れる縁側とテーブルを置いたところ、お年寄りはほとんど来ず、子どもや主婦が大勢来るようになったそうです。あるとき、100円でご飯を食べてきなさいと言われた子どもが来たことがきっかけで、主婦の方々がこの場所で子ども食堂を開きました。材料はすべて地域の農家や食品会社からのもらいもので、多いときは60人の子どもたちが来ますが、全て無料で提供しています。紙芝居をしに来るおじさんがいたり、周りのシャッターの前まで人々が座ってくつろいでいるなど、年齢、国籍様々な人が来てご飯を食べて行く、とても面白い状況が生まれています。

「地域ケアよしかわ」

先ほどお話があった「栗源第一薪炭供給所」は農業・林業・地域のエネルギーという三点から発想が始まりました。耕作放棄地が圧倒的に増えている一方で、農業をやりたい若者は増えているので、将来的に芋の栽培をやったらどうか、と思ったこと。国土の7割である森林は山が荒れているのが問題ですが、今は自伐型林業という新しい林業があり、初期投資500万、3tユンボと軽トラさえあればできること。そして地域の燃料として木質燃料が使えるのではないか、ということ。自伐というのは細い道を山の中につくりながら適切な間伐をしていくことで、間伐した丸太にして薪ボイラーに入れ、燃料として使用できます。需要としては農業のビニールハウス、畜産や酪農のための暖房、地域の温浴施設、福祉施設など多くの施設が考えられますが、需要サイドも供給サイドも需給が見合うかどうかが分からないので、福祉施設が需要と供給の両方をやり始めれば、モデルとなることができると飯田さんは語ります。実際試算すると燃料代が半分も浮くことが分かった上、薪を入れに行くという仕事を生むことができます。これからはこのようにして新しい組み合わせや発想の転換で地方に仕事を生んでいかなければならない、と力強く語られました。カリフォルニアでは薪が15ドルでスーパーの入口に売っているのに、農家が薪を使っていない日本では、文化をつくっていく時期に来ているのではないか、ともう一つの観点も示されました。

このモデルはオランダの「ケアファーム」だそうで、オランダに1,200軒ほどあり、農家と福祉事業が組み合わさったものです。農家がデイサービスをやっているようなかたちで、お年寄りや障害を持つ方が薪割りや敷き藁などの農家のお手伝いをしています。注目すべきは、これは農家の収入を増やすことを目的に、福祉側ではなく農家側から生まれたかたちだということです。日本では福祉側からの提案でレクリエーションのようになりがちですが、そうではなく仕事としての農業と福祉が組み合わされれば、農家を生き残らせるためにも、福祉との組み合わせが役立つのではないか、しかも地域の風景が良くなる。日本版のケアファームを作って行きたい、と語られました。

終了間際にご到着されたアトリエ・ワンの貝島桃代さんも飯田さんとのお仕事の面白さを語られました。飯田さんの革新的な試み、それを実現させたアトリエ・ワンの建築の力に加え、素晴らしい施主と建築家の関係を見せていただきました。

杉山結子