子ども建築塾 2017年度公開発表会「みんなでまちなみをつくろう!」(前編)

2018年07月06日

2018年3月10日、子ども建築塾の一年の締めくくりとなる公開発表会が開催されました。

「7年目にしてようやくこんな授業ができた。」
塾の立ち上げ時から長らく講師を務めている建築家の太田浩史先生が、そう最後に感嘆のコメントを口にしました。
昨年度まで塾の助手を務め、建築教育の研究者である田口純子さんも、「来年度の塾の案内にぜひ載せてほしい。」と、ある印象深い子どもの発言に共鳴しました。
講師陣からこのような声のあがった今回の発表会、何が彼らにそう言わせたのか、当日の様子を振り返ってみたいと思います。

会場は、東京大学生産技術研究所内のプレゼンテーションルーム。高い天井の上方からはスポットライトが厳かに会場を包み込み、これから未来を語るにふさわしい静謐な雰囲気をたたえています。
会場前方には、約2m×4mもの大きさの模型が設置されています。
その背後には大型スクリーンが降り、白く光る画面は開始を待ちわびているかのようです。

まず今回の課題の目的を、後期のカリキュラム担当の太田先生が次のように表現しました。
「前期の『いえ』の課題目的は、音楽で言えばソロ演奏をいかに奏でるかというもの。一方後期の『まち』はみなで奏でるオーケストラ演奏。よいハーモニーをめざしましょう。」
何やら楽しそうにも聞こえますが、比喩表現の奥には深い意味がありそうです。

後期の課題は「みんなでまちなみをつくろう!」です。実際のまちの敷地に、自分たちの考える建築を提案します。
敷地はスタジオからほど近い、恵比寿の住宅地にある急な「坂道」。
その幅4m程の細い坂道に面した敷地を20名の塾生がそれぞれ担当し、最終的に道を含むまちなみ一帯を提案します。
特徴としては、途中に「鍵の手」と言われる、城下町によく見られる折れ曲がりがあり、坂の下には古くからの民家、その軒先に大きな桜の木があります。

 鍵の手

 民家と桜の木

そのような坂の上から下までを、テーマ別に5つのエリアに分け、1つのエリアを4名が計画します。

坂の入口に位置するAグループのテーマは「知らせる」、坂の途中の鍵の手にかかるBグループは「音楽を聴く」、中腹のCグループは「つくる」、古民家と桜の木のあるDグループは「本を読む」、下りきったフラットな場所のEグループは「休む・くつろぐ」とし、行き来したくなるようなまちなみをつくりあげます。

今回のカリキュラムを検討にするにあたり、まず塾長の伊東豊雄先生が切り出したのは、これまでより、もっと現実的な提案にしよう、ということでした。それぞれが自分勝手につくるのではなく、周りにどのような建物があるのか、元々どのような建物が建っていたのか、というリアリティをきちんと押さえた方が良いと提起しました。
子どもたちの自由な発想を重視するあまり、非常に非現実的な提案になることもしばしばあります。
今回はより現実的、かつ深い考察を目指します。

敷地の広さは、みなが互いの状況を把握でき、自ずと関係性が生まれるような距離に限定。
また、スタディ段階から最終模型の制作に至るまで、1:30のスケールで行うこととしました。
道に対してどのように面するのかなど、自分がそこにいる実感をもって検討を進めるためです。

伊東先生の求めるリアリティ。太田先生の目指すハーモニー。「まちは楽しくなくちゃいけない!」とするアストリッド・クライン先生。
「みんなでまちなみをつくろう」
さて、子どもたちからはどのようなアイデアが生まれたでしょうか。

「音楽を聴く」グループ

坂道が曲がる手前には小さな広場があり、ふと足を止めたくなる場所です。心地よい「音」が寄り道を誘う「音楽を聴く」がテーマのエリアです。

●「音と人の通り道」  古橋 瑠花ちゃん
道に沿ってカラフルなアーチをリズミカルに架けました。アーチをたどると自然とみなのつくった建物へ。バラバラにある建物同士をつなげる役割を果たします。
アーチの足元にはカラフルなベンチ。道沿いに流れる水路の水の音を反響させ、座る人によってその音色やリズムが変わる不思議なベンチです。
振動も含めて「音」というものを表現しようとしているところが良い、と伊東先生は興味を示しました。

●「鉄琴の四角い塔」  萩野 佑飛くん
階段の一段一段が鉄琴のように音を響かせ、螺旋状に登っていくと曲を奏でるという楽器のような塔。
昨年の10月の「まち探検」で散策した川越のまちで目にした「時の鐘」のようなシンボルをイメージ。
かたちでアピールするのではなく、音での表現にこだわり、意味を持った音の伝え方、音も含めたシンボルになることを目指している、と学生ティーチングアシスタント(TA)の塩田さんも代弁してくれました。

●「木琴の丸い塔」  松崎 道人くん
細く薄い木の板がスリット状に建物の表面を覆います。短いものから長いもの。一本一本たたくとちがった響き方をし、あたかも木琴のよう。友達と一緒に好みの音を探して遊ぶのはとても楽しそうです。
萩野佑飛くんと共通して、音楽の中にいるというところが良い、と伊東先生。建築としてもとても面白いと称賛しました。

●「自然のスポットライト」  矢野 来歩ちゃん
ちょうど道が曲がりはじめる広場にある、誰もが気軽に入れて自由に演奏できる、開放的なホール。
屋根はたくさんのカラフルなトップライトに覆われ、太陽の光がふりそそぐと、まるで自然のスポットライトを浴びているかのようです。まちにあふれる音楽を自然の光がよりいっそう盛り上げてくれます。
昨年度まで塾で講師を務めていたスペシャルゲストの村松伸先生も、色とりどりの光に満たされた空間がとてもきれいだと目を細めました。


音楽を「聴く」というテーマから「プレイ」する、演奏する側に展開させていったことに、伊東先生も太田先生も感心しました。村松先生が指摘するように、かたちがない音楽をどのように表現するかが問われる課題でしたが、どれも音の空間の中に入り込んでいるところが良い、と伊東先生も納得の様子。
目には見えない、触れることができない「音」や「光」を、体いっぱいに感じられる場所になりました。

「つくる」グループ

坂のちょうど中腹の「鍵の手」が特徴のエリアです。テーマは「つくる」。アクティブなまちなみの中心部で果たして何が生まれるでしょうか。

●「bloom mix coffee」  新井 琉月ちゃん
鮮やかな色やかたちの「ブーケ」と呼ばれる魅力的な「仕掛け」を提案。
共同制作をした翁涼太くんの大きなカフェ空間の屋根や壁面の一部となり、空間に彩りを添えます。
あるものはトップライトの役割をし、透光やカラーリングの加減により、にぎわいや落ち着きのよりどころを演出します。ブーケがまとう揺れるリボンは、時とともに色や影が変化し、ふりそそぐ太陽の光にまるで手が触れらるような、光を美しくとらえた提案です。

●「ぶんぶんはちはち」  中井 惇晴くん
採れたてのハチミツでデザートもつくる、甘く香るハチミツ工場。新井琉月ちゃんの「ブーケ」の花でハチを育て、できた蜜は坂本知優ちゃんの和菓子屋さん、翁涼太くんのカフェへもお裾分け。
蜂の巣をイメージさせる六角形の窓や椅子は、ハニカム構造(honey comb=蜂の巣)もその視野に入れています。
伊東先生に自身の作品「MIKIMOTO Ginza2」を想起させたそのファサードは、ストレートな表現に好感が持てるシンボルとなっています。

●「Triangle Place」  坂本 知優ちゃん
急な地形の勾配にきちんと呼応し、四角と三角の2種類の建物を考えました。四角い建物は和菓子工房。和菓子づくり体験もでき、日本の文化を発信します。三角の建物はお店です。それらは水路へとつながる池ごしに、ちょうど良い距離感でささやかに向かい合っています。
複数の建物の間をどのように計画するか、むずかしいところをとてもうまくまとめ構成力がある、と太田先生もうれしそうでした。

●「bloom mix coffee -あつめてつくろうみんなのカフェ-」  翁 涼太くん
ちょうど坂の中腹にあり、上から来た人も下から来た人も一息つくことができるカフェ。地形の起伏にあわせスキップフロアとし、フロアごとにいろいろな景色が楽しめます。
広く開放感のあるカフェ空間の一部には、天井から新井琉月ちゃんの「ブーケ」が掛けられ、ほっこりとしたプライベートなコーナーも設けられています。中井惇晴くんのハチミツを使ったお料理も楽しめます。
このようにみなでまちをつくりあげて楽しさを共有することで、より多くの人が訪れてくれることを涼太くんは確信しています。
場所の特徴を考えながらデザインができたのも素晴らしい、と伊東先生は描かれたスケッチも褒めました。


共同制作をした新井琉月ちゃんと翁涼太くんに講師陣から多くの質問が出ます。
一緒に制作した感想を伊東先生から求められると、「二人の考えを一緒にしても、自分の大切にしたいものはなくしちゃいけない。その上で考えていくと難しかった」と琉月ちゃん。
「意見が合わなかったときはちょっと難しかったが、やりやすかった」と涼太くん。率直なその過程も述べた二人でしたが、互いにとても論理的であったと伊東先生は感心しました。
「大人ではこんな協力体制は生まれない」と太田先生も苦笑しつつ、演奏に例えた今回のメインテーマにちなみ、「良い合奏になってるのにそれぞれの個性もある」と褒め称えました。
グループ全体も、惇晴くんのつくるハチミツを起点に関係性が生まれ、全体がストーリーとしてつながっている、とTAの須貝くんも自負するかのように応援のコメントを添えました。

「本を読む」グループ

桜の木や古民家が特徴的な、坂のふもとにあります。テーマは「本を読む」。今までにない本との出会いが待っています。

●「まちのこみち」  松田 響くん
このグループの特徴である「桜」の木を間近に愛でるスロープを架けました。それは隣接する松任谷周平くんの古民家のカフェの内部も通り抜け、道を隔てた隣のグループまで足を延ばさせてくれます。接する道路とのレベル差もゆるやかにステップでつなげ、その法面(のりめん)を本棚とし、背表紙にいざなわれる魅力的な路地空間へと変身させました。
計画の当初、ここでのプロムナードに疑問を感じていた伊東先生も、ランドスケープ・周囲をきちんとデザインし、うまく古民家ともつながったと見解を改めました。

●「本路カフェ -ようこそ古民家に広がる本の迷路 -」  松任谷 周平くん
瓦葺きの入母屋の屋根に板張りの外壁、という趣ある古民家をコンバージョンしたブック喫茶。風情ある外観は継承し、内部に本棚の迷路を出現させました。インターネットではなく、歩き回りながらばったり偶然(あるいは必然)の本と出会えます。大きな階段の側面も本棚となっており、かつての箱階段を連想した伊東先生も興味を示しました。まちの特徴にきちんと触れながらも、桜、古民家といったインパクトに引張られ過ぎずバランスが良い、と太田先生もうなずきました。

●「本棚ツリー」  番場 美莉ちゃん
本をいかに魅力的に見せるか。様々な置き方、出会い方の工夫が満載です。
木のかたちを模した大きなオブジェの広がる枝には、本の並んだ箱がまるで果実のようにたわわになっています。木の下には人が集まることからイメージしたという、その名も「ブックジャングル」。その大胆な姿形に「参った!これは素晴らしい。これだけで充分って感じ」と伊東先生。
シーソーのような小径を散歩しながら本と出会える「ジグザグスロープ」は、道路を隔てた隣のグループへとつながる遊歩道となり、スタディの過程で構想が次第に開かれていった経緯を太田先生も評価しました。

●「しばふのリボンロード」  中浜 瑛理香ちゃん
読書をするにはどのようなところが気持ち良いか、自然とのつながりを大切にしています。
ふんわりと蝶々結びに結ばれたリボンのようなシルエットの丘。その上は芝生で、寝転びながら本を読むにはちょうど良いカーブ。膨らみの一方からは、曲面をえがき滝がレースカーテンのように流れ落ち、道沿いの水路へと広がります。涼しげな音のシャワーに包まれながらの読書もおすすめです。
モニター越しではなく「紙」の本の良さと触れ合いたいというこだわりにも、「紙を触りながら、本を読むという実感が伝わった」と、その確かな眼差しに伊東先生も感じ入りました。


本を読むのが仕事と自称する村松伸先生からは、どの場所もあまりにも気持ち良さそうで、本を読みながら寝てしまいそう、と一理ある冗談を交えつつも、毅然としたみなのプレゼンテーションに感心していました。

3グループの発表が終わったところで、一旦途中休憩となりました。
力作ぞろいで見応えのある発表会、後半もまだまだおもしろいアイデアが続きます。
後半の様子は次回のブログで紹介します。

助手 柴田 淑子

写真:高橋マナミ