会員公開講座 東野唯史さん「古材のレスキューを通して目指す未来」
6月23日、今年度第2回目の会員講座に、ReBulding Center JAPANの代表を務めていらっしゃる東野唯史さんをお招きしました。ReBuilding Centerとは、ポートランドにある古材販売のNPOであり、東野さんらはここからインスパイアされ、ポートランドのセンターと交流を持ちつつ、日本における活動を行われているそうです。講演では、「古材のレスキューを通して目指す未来」と題して、ReBuilding Center JAPANで活躍されている皆さんの活動や、大切にされている価値観などについて、お話ししてくださいました。
ReBuilding Center JAPANとは
ReBuilding Center JAPANは、2016年9月28日に長野県諏訪市にオープンし、30歳前後のメンバー7人で運営されています。東野さん曰く、お店のファサードは、廃材を組み合わせてできた、まさに「廃材リサイクルの象徴」と言えるデザイン。築50年の鉄骨造3階建で、全1000㎡ほどの面積のなかに、レスキューしてきた古材を再び市場に組み込む仕組みが実現されています。1階に、古材販売スペースとレスキューしてきた古材でできたカフェ、2階・3階に古道具売り場があります。ここを訪れたお客さんは、1階のカフェスペースを見て、古材の使い方を理解し、1~3階で古材を買って行くという仕組みです。
“ReBuild New Culture”。これは、センターの創立時に、メンバーで考えたスローガンです。古材をレスキューするという手段を活用して、「次の世代に繋いでいきたいモノと文化をすくい上げ、再構築し、楽しくたくましく生きていけるこれからの景色を、デザインしていきます。」という思いが込められています。
古材のレスキューとは
「レスキュー」という言葉は何を意味しているのでしょうか。東野さん曰く、本場ポートランドなどでは、古材を再利用することを「サルベージ(salvage;救い出すの意)」と呼ぶそうです。しかし、古材の取り扱いを通して「文化や価値観自体を広めたい」という強い思いから、東野さんは日本人にも馴染みのある「レスキュー」という言葉を選びました。
東野さんがレスキューしたいものは主に2つあるそうです。1つ目は、「古材という資源」。普通なら、全て廃材として処分されてしまう木材を、手間をかけることで再利用できる資源に生まれ変わらせます。
2つ目は、「家主さんの気持ち」。前の世代が作り大切に繋いできた家を解体せざるを得ない、といった事情をくみとり、家主さんに寄り添いつつ、古材を次世代に継承します。そのために、依頼主の思い出話はしっかりと聞きとめ、その話を木材のカルテにきちんと記録し、次の購入者にも「その古材がどのようなストーリーを持っているのか」を伝えます。こうすることで、材料が持つストーリーごとレスキューして、販売するのです。
なぜ、東野さんらは古材をレスキューするのでしょうか。東野さんが、年単位でどれほどの古材をレスキューできたのかという試算を教えてくださいました。何と、破棄されてしまう木材がアフリカゾウ1頭分とすると、レスキューされた古材はりんご1つ分(除却木造建築物; 85,398棟/年・解体木材排出量; 1,385,369t/年に対して、レスキュー数約120棟/年・レスキュー総量60t/年)。つまり、実際にレスキューできる木材は、微々たるもの。それでも、レスキューの活動だけでなく、講演会などの機会も通して、社会の中で「その新しい材は本当に必要なのか?廃棄される材はもう使えないのか?」という問いへのきっかけを与える存在としての意義を見出し、活動の根拠とされているのです。
実際の古材のレスキューは次の流れで行われます。
1. 家主さんから依頼をもらう。電話・ホームページ・店頭などで解体作業時・蔵の在庫処分時などのレスキュー依頼を受けます。
2. 現地調査をして、レスキューに行きます。
3. その場で査定をして、現金またはギフトのお渡しをします。家主さんの気持ちに寄り添うという価値観から、温かい気持ちのやり取りとしてのギフト制度が生まれました。
4. 頂いてきた古材を洗浄し、値段をつけ、店舗で販売します。販売時には、実際に買ってもらうために、ディスプレイ・値段設定に綿密な工夫を凝らします。
ReBuilding Center JAPANの組織体制
ReBuilding Center JAPANは、次の3つの組織から成り立っているそうです。
1.Builders Center:会社の要として、レスキューや古材を用いた制作を行い、古材活用の事例を増やす。
2.Culture Center:センターの知名度を上げるために、カフェの運営・雑貨の販売・イベント企画などを行う。
3.Design Center:古材の新たな可能性を引き出すことを目的に、古材に命を吹き込む空間・家具デザインを行う。
この組織に加えて、センターでは「サポーターズ」というシステムを活用しています。これは、スタッフとお客さんの中間的存在としてセンターの活動に参加してもらうことで、センターの文化を広めて地域に根付かせたり、DIYのやり方を伝えたりすることを意図している取り組みです。現在では、600人ほどの登録者が、月に10日ほど設けられた活動日に、各々の都合や目的に合わせて参加して作業し、ともに賄いを食べ、寮に宿泊して杯を交わしているそうです。
古材の価値と使い方
古材のどのようなところに、東野さんらは価値を見出し活動されているのでしょうか。東野さんは4つの観点から、古材の価値について説明をしてくださいました。
1.手仕事の痕と経年変化:先人が手仕事で製材してきたあとは、現在の機械で製材された材とは異なる表情を持っています。
2.廃棄物を減らす:もの作りにはゴミも増やすのではという危機感も伴いますが、古材を使えば使うほどゴミが減るという感覚は、非常に気持ちがいいものだそうです。
3.ストーリーを引き継ぐ:依頼主の人々とやり取りをする時間も、気持ちがいいもの。思い出がフィードバックしてくる空間を作ることは古材にしかできない、という思いを強く抱かれるそうです。
4.貴重な木材の救済:ケヤキの大黒柱や、床の間の三尺無節のケヤキ板など、材自体に希少価値があるものを重点的にレスキューされているそうです。
これらの価値がある古材の利用方法として、東野さんは講演の中で多くの写真を見せてくださいました。木材だけでなく、鏡や金属を使って、家具や小物を作ることができます。3万円でテーブルを製作し持ち帰ることができるワークショップも毎回大人気だそうです。さらに、箱上の古材を組み合わせて大きな建具を製作したり元の空間に敬意を払いつつ仕上げ材として用いて空間に風合いを出すこともできます。
共感の輪の広がりと新たな試み
このようなReBuilding Center JAPANの取り組みを通して、共感の輪はどんどん広がっています。クラウドファンディングでは、約500人の協力と目標額を大きく上回る543万円という額を得ることができました。また、センターの建造時には、延べ460人以上の協力を得ることができ、TVメディアなどでも活動が取り上げられています。
さらに、現在では、諏訪市の築50年木造住宅を利用して、「断熱エコリノベ」の試みをなさっているそうです。「古民家再生は、寒くて住みづらいのでは?」という先入観に挑戦すべく、低価格で快適でエネルギー負荷の少ない暮らしの提案を目指しています。こうすることで、「家を住みつぐ」という選択肢を顕在化させ、家一軒丸ごとレスキューする未来を思い描いているそうです。具体的には、地元の施工業者(SWATECさん)や専門家(建築家の竹内昌義さん・暮らしかた冒険家の伊藤菜衣子さん)とプロジェクトチームを組んで、「年間暖房負荷50kwh/㎡」「耐震採点1.0以上」「R5住宅」「古材利用」「県産材利用」といった評価基準に相当するように設計をしていきます。
この「断熱エコリノベ」ハウスは、今後、泊まれるモデルハウスとして運営し、イベントも定期的に開催することで、家の快適さや良さを体感してもらう活用方法を考えられているそうです。さらに、この「断熱エコリノベ」に係るノウハウをオープンにすることで、この価値観をどんどん広めて行きたいそうです。
以上の活動を通して、「“ただの古材屋さんというよりは、さらに広い問題意識や価値観で活動している”ということを伝えていきたい。本日の講演を通して“ともに新しい文化を作る輪を広げて行きましょう”」という言葉で、今回の講演は締めくくられました。
岩永 薫