子ども建築塾2022年度 後期「百人島2」発表会(後半)

2023年06月21日

後半チームの発表会もHグループのTAの細川さんより、広場のプレゼンテーションからはじまりました。

TA「みんなをつなぐ場」
島で暮らす人たちだけではなく、動物たちも対等に一緒に集うことのできる場所について考えました。日差しや雨をしのいだり、会議をしたりすることのできる屋根。水の流れや波の形状を意識したテーブルやベンチは、屋根がつくる内外の境界を曖昧にするために、屋根の下だけに存在するのではなく、屋根のないところにも展開しています。人間も動物も様々な集まり方ができるこの広場を「みんなをつなぐ場」と名付けます。

F・G・H・I・Jの多様な提案をつなぐ場としても重要な広場のデザインについて、説明を聞いた後にはいよいよ、子どもたちの発表です。

F「BOOK LIFE 読んで学ぼう 本の迷路」
本を読むのが大好きなメンバーが提案するのは本と一体になった暮らし。

島全体に展開する本棚の間に、染め物屋、運送屋、住宅、レストランが配されています。

染め物屋は、百人島の服づくりと観光案内を担っています。くの字型の本棚に囲まれた空間が工房や染め物体験のできるスペースで、2階には染め上がったカラフルな布が干されていて、島の風景をつくっています。運送屋は、島の流通の担っていて、交通手段は自転車や屋根付三輪車です。運送屋の建築は光が全体に当たるように、窓のかたちを工夫しました。

住宅は、夕方には夕陽を見られるように配置しました。自然との関わりや家から見える風景を想像しながら設計しました。レストランは、広場側から見て最初に見えます。中の様子がわかるように透明なガラス張りの建物にしました。雲のような屋根の上は遊び場になっています。本棚にはいろんな本が置いてあってBOOKレストランとしても利用できます。テーブルはコミュニケーションの場となるように大きくしました。

【講評】「みんなそんなに本が好きなの?」そんな問いかけからはじまったアストリッド先生、本がたくさんある空間が持つ落ち着いた雰囲気に共感を示し、大きな場所だけではなく、小さくて心地よいコーナーがあることを評価して下さいました。

「道はどのように通っているの?」という太田先生、広場とマーケットに面して運送屋があり、道は外部だけではなく、屋根の下にも通っているという子どもたちの説明に納得した様子「模型でそれも表現できたらよかったね。」とおっしゃいました。

本棚の配置や形状、本を読むシチュエーションを考えていろんな学びの場所を提案して欲しい、と柴田先生。伊東先生も個々の建築はよく出来ているが本棚を介して、全体のつながりを持てたら良かった、各々の建築が閉じてしまっているのが残念、と今後の展開に期待を滲ませました。学びの象徴でもある本棚、様々な高さや深さの棚を想定して、本棚の特徴と空間の特性、建築を一体的に考えられたら、新しい建築が生まれそうです。

G「もぐもぐマーケット」
島での暮らしが豊かになる緑に囲まれたマーケットの提案です。

マーケットは自然に囲まれた雰囲気をつくるために透明なアーチの構造に植物を配しています。売っているものは主に食品で買ったものをその場で食べられるようにフリースペースには、テーブルと椅子が置かれています。買い物だけではなく、島の人々が仲良くなれる場所です。住宅は岬の先端、西側に配置されていて、夕陽がきれいに見えます。透明で開放感があり、海に近いのですぐに遊びに行けます。その他、海を見ながら温泉を楽しめる露天風呂、きれいな散歩道のある花畑、マーケットの地下倉庫と直結する港などがあります。

【講評】温室のような特徴のある佇まい、市場のスケールも人が集まる場所としてちょうど良い大きさだと思う、という柴田先生の評価の一方、自然とのつながりや内外の境界をなくすという意図で透明なガラスを使っていることについて、柴田先生も含めてたくさんの先生から異論が投げかけられました。Gグループのみならず、子どもたちの多くが「透明なガラス」をないものと考えているようです。「ガラスは透明な壁、不透明な壁よりもより強い境界になることがある。」と伊東先生が語気を強められました。同じく、開放感を期待して住宅の壁や屋根がガラスになることについて、「すごく暑くてとても住めなくなってしまうから、しっかりした屋根をつくった方がいい。」というアドバイスも。屋根を透明にするために空調に頼るのでは、本末転倒です。壁の透明・不透明だけによらず、配置や入り口、外構のつくり方や家具や植栽の配置など、内外の境界をなくす方法はたくさんあることを指摘されました。「マーケットは、生活を支える基盤。とてもいいテーマだからこそ、どんなマーケットにするべきか、もっと考える余地がある」と太田先生からもエールが送られました。

H「はじまりの丘」
大きな山が象徴的なHグループの提案は、山、グランピングエリア、アイスクリーム屋さんの3つのエリアから成っています。

まずは、アイスクリーム屋さん。酪農をテーマとするIグループとの境界にあり、牛乳を仕入れてアイスクリームをつくります。アイスクリームで島のみんなを幸せにしたい、という想いが込められています。

山の内部は集合住宅と温泉があります。健康と自然をテーマに考えました。

朝日が見えるオーシャンビューを実現した窓、暗い山の内部に光をもたらすドーム型の天窓、ライトコートなど、斜面の形に沿った住宅にはいろいろなタイプの窓があります。
大人も子どももリラックスしてそれぞれの時間を過ごせるように設計しました。

グランピングエリアについては、色とかたちを慎重に検討しました。テントがどんな風景をつくるか、どんな場所ができるかを考えて、白いテントと長方形の平面にしました。夜にはテントを反射した光が点在して、まるで蛍がいるような風景を作り出します。

また、島全体に展開するランニングコースの起点が、温泉施設内にあります。
温泉の更衣室で着替えて、ランニングを楽しんだ後、温泉で入浴します。

【講評】すごい勢いで「山(丘)をつくる」という目的に向かっていった結果、内部が「暗い」ということで、光を取り入れるために試行錯誤を繰り返したプロセスが評価される一方、スケールについては「大きすぎる」という意見が大半でした。「島の子どもたちの立場になって考えたら、もっといろんな場所が入り込んだ複雑な地形になるのでは」と、柴田先生。例えば、「大きな山という特徴的なモチーフをアイスクリーム屋さんやグランピングエリアも共有できたら良かったのではないか?」というアストリッド先生の意見や、「蛍の光という夜の風景のイメージはとても素晴らしいけれど、蛍というならばもっと柔らかいかたちをイメージするなぁ」という伊東先生の感想もありました。

どうやら、子どもたちは山(丘)をつくってしまったようです。先生やTAが、「山(丘)のような建築」を考えられるように誘導していく必要性を感じました。

I「晴れの日も雨の日も動物とともに」
放牧された動物と人が共存できる境界のない開放的な建築を目指したIグループの意図がタイトルに強く反映されています。メンバーのそれぞれが、自分の住宅と放牧されている動物たちの居場所(寝床)などを考えてつくった、個性的な建築群が並びます。

入江に沿って雁行するように建てられた建物は半分丘に埋まっています。広場側からは、小さな鶏小屋だけが丘の上に顔を出しているように見えますが、埋まった住宅部分は海に面して開かれています。また、岬の先端から少しそれて、らせんを描く高い建物は、「ソフトクリームタワー」です。放牧された牛の牛乳を加工してソフトクリームをつくっています。ソフトクリームを食べながら島全体を見渡せるように展望台も作りました。広場近くの大きな給水塔に寄り添うような小さな住宅の屋上では、日向ぼっこができます。また、給水塔の棟にもつながっています。大きなロートのような給水塔を掲げる住宅は、浄水場の機能も備えています。ロートで集められた雨水が浄化されながら下に落ちていくのです。人間と動物の共存について、人間がいられる場所、動物だけがいられる場所、人間と動物が一緒にいられる場所と、3段階のスペースを考えました。

【講評】個性豊かで、自分の意見をしっかり持つメンバーによる共同設計。活発な議論を何度も重ねましたが、全体を統合するようなボキャブラリーの発見には至らず、個性的なパヴィリオンが立ち並ぶ印象を指摘されました。「マスタープランをつくる時に、お互いの関係性、高さや小さな場所の心地よさなど、きちんと考えて欲しい」とアストリッド先生。「給水塔の住宅に屋上のある住宅が寄り添う関係はとてもいい」と太田先生。そんな関係性が他の建物との間にも生まれたら良かったのではないでしょうか?

伊東先生は、人間と動物との共存について、ブータンの人々の暮らしのことを話して下さいました。建物の1階には家畜が住んでいて、2階の人間の領域に牛が上がって来ないように、階段ではなく、はしごのようなものが設置されているそうです。Iグループの住宅の構成も実はピロティ部分が動物の寝床となっていて、そこを中心に日中の放牧がされるのですが、なかなかその趣旨が伝えきれなかった様子。そんな暮らしの情景をもっと表現するにはどうしたら良かったのでしょう。

J「科学の庭 ボタニカルガーデン」
植物の研究者が住む研究所と住宅、朝ごはん屋さんとサウナで構成される、建物の内外を問わず多様な植物が生い茂る岬の提案です。

住宅は、森の中にあって大きな窓が空いています。

サウナは、緑色の屋根で覆われていて、花や木の香りを感じながら過ごすことができる空間です。汗をかいたら、海に飛び込んでスッキリと汗を流します。

研究所はミルフィーユのような断層が特徴的な建物で、段の部分で植物を育てています。グリーンハウスは、研究所の人も来訪した人も使うことのできるスペースです。収穫した野菜をつまんだり出来たらいいな、と考えました。

朝ごはん屋さんは、朝日という海辺の最高の景色を眺めながら1日をスタートするために東の海岸につくりました。

【講評】3人それぞれのやりたいことが存分に表出していて力強さを感じる一方で、研究所も住宅も朝ごはん屋さんも、サウナも同じようなスケール感で出来ていて敷地に対して大きい印象です。伊東先生も「模型の作り方(紙皿を重ねてつくった屋根)など少しイージーな側面はあるけれど、エネルギーはあるねぇ」と。一方、ボタニカルガーデンだけに植栽の種類を考えながら植物を植えている繊細さも見受けられます。太田先生は「僕には朝ごはん屋さんがシドニーのオペラハスに見える。」と言いながら、ワクワクしながら朝ごはん屋さんに向かうアプローチの計画の大切さを説きました。地面から湧き出る生命力を感じる岬です。

【全体講評】子どもたちによる完全なる共同作業の現場は、とてもエキサイティングでとても楽しかったです。真剣に議論したり、悩んだり考えたりしたエネルギーが模型にも迸っています。(大人が考えるような)マスタープランや全体を統合するようなモチーフやルールはないけれど、子どもたちの合意形成のプロセスが現れています。(式地)

島で生活するためにどうしたらいいのか、仕事や心地よさ、隣人や共同生活、建築のあるべき姿を考えるとても良い経験になったと思います。この経験を活かして、もっとカッコいい、もっと楽しい建築を目指してください。(アストリッド)

本当に個性的な子どもたち。紆余曲折を乗り越えて、一人一人が、造形的なイメージを持ってそれを表現し、ゴールに至ったという結果がここにあると思います。今日は島びらき。今度はみんながここに住む立場で、よりよい「まち」を目指して「まち」を育てていく視点を持てると素晴らしいと思います。(柴田)

例えば、島でおにごっこをするというような、「まちで遊ぶ」というアイデアが希薄だったことは、子どもたちが日常の中でまちと関わる経験が少ないことを物語っています。
「まちに住む」知恵や「いいまちとはどんなまちなのか」というビジョンやイメージを問う課題だったと思います。私たちはもっと「まち」で遊び、「まち」に学んでいかないといけないのではないでしょうか?(太田)

「俺のが一番いい建築だ」と張り合うような、博覧会の会場を見ているようです。
僕の事務所では「(伊東)先生の言う通りにやります」と言う態度ではやっていけない。「伊東さんそれは違う」と言う人がいて、とことん議論したり、「ああでもない、こうでもない」とみんなで案をつくりあげる、最後には誰のアイデアかなんて言うことはどうでもいいような、新しい案に辿り着く瞬間がある。それが「いい建築」。
皆さんも、年齢に関わらず、自分の思ったことを主張して例え相手が目上の人であったとしても、しっかり反論して「いい建築」を目指してください。(伊東)

講師賞「Iグループ 晴れの日も雨の日も動物とともに」
雨や水の問題と動物や自然と一体となって生きる住まい方を模索しました。意見が食い違うことがあっても、みんなが相手の話に耳を傾けて、お互いを理解しようとしっかり向き合っていたことを評価しました。

伊東賞「Jグループ 科学の庭 ボタニカルガーデン」
ここに至るプロセスを見てきた訳ではないので、まとまりはなく3人別々だけれど、一番エネルギーを感じた点を評価しました。

受賞した子どもたち、伊東さんの事務所のエピソードが心に響いたようです。これまでのプロセスを振り返り、グループへのメンバーへの感謝を口にしました。

自分の考えをしっかりもち主張すること、そしていいアイデアであったら誰のものかと言うことには固執せず評価すること、チームとして「いい建築」を目指すことの大切さについて、一人一人が自分なりに受け止めようとしている姿勢が印象的でした。

子ども建築塾を卒業する6年生が多い後半チーム。

3年間通った子どももいて、ひとまわりもふたまわりも大きく成長した背中を送りだす感慨深い最終発表会でした。

講師 式地 香織