子ども建築塾2022年度 後期「百人島2」発表会(前半)

2023年06月21日

今日はいよいよ、2022年度後期まちの課題「百人島2」の最終発表会です。

花びらのように広がった5つの岬の結節点、円形広場は、子どもたちの制作に伴走したTAが提案しました。子どもたちの発表に先立って、プレゼンテーションのお手本を示してくれたのは、DチームのTA、金城さんです。

TA「スイープベンチのある広場」
広場の地面はカラフルに彩られています。アートの岬から絵の具があふれて島全体に広がっていくイメージや、温泉の熱で赤く染まるイメージを具現化しています。

各岬の特徴や造形を引き立てるようにデザインした広場の一番の見どころは、高さがスロープのように変化するベンチです。子どもも大人も動物も、それぞれの身体に合わせてベンチと関わり、集い、場をつくっていくそんな広場です。

5つのグループの特徴を解釈しつつカラフルで楽しい広場の発表の後は、本編A・B・C・D・Eグループの発表です。

Aグループ「新楽学然」
屋根のかたちが特徴的なAグループの提案は、楽しく自然と関わる新しい学びの場、「新楽学然(しんらくがくぜん)」です。

入り口の屋根は大きく上に反らせ、来る人を歓迎する意味をこめてデザインしました。見通しや風通しが良くなるように、屋根のかたちを工夫したり、トップライトを空けたりしています。スロープが地面から屋根までをゆるやかにつないでいます。屋根の上に突き抜けた筒状のボリュームが住宅です。屋根の上の心地よさを満喫できるようになっています。また居心地の良い木陰をつくれるように、植物の配置にも気を配っています。雨の水が下に落ちて植物が育つように屋根のかたちも工夫しました。

【講評】屋根のかたちの自由さや面白さ、屋根と筒状のボリュームの関係を評価する一方で、「その中は一体どうなっているの?どんなふうに学ぶの?」と伊東先生から、具体的な空間や場所のイメージについての問いが投げかけられました。屋根の形状を一生懸命スタディした、子どもたちの頭の中にはきっとイメージがあるのでしょうが、屋根を架けながら、どんな場所ができていて、その場所がどんな可能性を持っているのか、さらに探求し続けることの大切さを投げかけられたように思います。屋根というまとまりがあるから一体的に見えるけれど、一人一人が自分のパートを受け持って、他の人の音楽を聴いていないような印象も受ける、という太田先生の指摘もありました。

Bグループ「湯っくり 湯ったり」
ゆっくり、ゆったりの「ゆ」の時が銭湯の「湯」というのがポイントのBグループの提案は、温泉施設を中心に島の食材やカピバラとの触れ合いを楽しんで「ゆっくり ゆったり」過ごすのが目的です。足湯・薬湯・メインの大浴場に柚子湯や温水プールと様々な種類のお風呂が計画されています。広場からまっすぐ伸びたメインストリートを中心に夕陽が見える温泉施設、岬の先には個性的な住宅が点在し、外構は光をキラキラと反射するカラフルなタイルで舗装されていたり、花畑があったり。本当にゆっくりゆったり過ごせそうな岬になりました。

【講評】マスタープランがはっきりとしていて、場所の雰囲気や目的に合わせてメンバーの個性が表れているBグループの提案について、伊東先生が「スケールがとってもいいし、とても楽しそうだ、素晴らしい」と評価して下さいました。「マスタープラン、みんなが目指すところがしっかり共有されていたので、俯瞰(鳥の視点)で見た計画はとてもよく出来ているから、欲を言うと、自分が小さくなって岬を散歩する視点で考えられるようになったらもっと良い案になるのでは?」という柴田先生のアドバイスもありました。

C「形のないアートなまち」
土地が区切られていない今回の「百人島2」の課題の意味について考え、機能を共有してできるだけコンパクトにまとめ、自由に動いて自然やアートを感じることのできる居場所をたくさん作り出したというCグループの岬。住民が絵を描くことのできる白い壁、波の満ち引きをイメージしたデザインや干潮時だけ近づくことのできるアートなど、島民や訪れる人の想像や創造を掻き立てる仕掛けが満載です。一方、生活空間は最小限、食事は美術館を中心に移動する屋台で食べることになるそうです。この設計を通して「建築とは、場所をつくること」と言う言葉でプレゼンを締めくくりました。

【講評】「アートは人の心を動かす、と言うことがとても大切なこと。アートを題材に考えたことは素晴らしいこと」とアストリッド先生は評価する一方、「ちょっと大きすぎるよね。高さも高すぎる」とイメージやアイデアが膨らみ過ぎて、スケールをコントロールできなかったことを指摘されました。伊東先生も「島民はどんな人をイメージしているの?アーティストなのかな?三食屋台でいいのかな?屋台が好きなの?」などと言う質問を投げかけて、より具体的に島とアートと暮らしについてイメージを持つことの大切さを伝えて下さいました。

食文化もまた1つのアート、アートと共に生きることとマスタープランをつくることがもっと一体となって重なり合うともっと説得力のある提案になるのではないでしょうか?

D「のんびりものがわり岬」
食糧や物資を交換する「交換所」がテーマのDグループは、隣の岬との関係を意識した提案になりました。広場からまっすぐ伸びた道の両側には屋台が商店街のように並んでいます。屋台の間を通り抜けて岬の内側に進むと図書館や魚屋、馬を移動手段とする運送屋さんなどがあります。Eグループの窯で焼いたお皿を使ったレストランや風景を楽しめる露天風呂などがあるそうです。

【講評】ボリュームスタディでつかんだ全体像を具体的な空間や場所の提案に結びつけるのにとても苦心していた印象があります。「模型はプロセス、考えるツールにしてほしい」と太田先生。つくりながら想像して考えることの大切さについて、伊東先生もお話しして下さいました。一方、屋台のスケールは軽やかでとてもいいから、屋台のようなスケール感で全体を展開していけたら良かったんじゃないかしら、と柴田先生からのアドバイスもありました。

馬による物流、Eグループの窯で焼かれたお皿を使った島料理など、素敵なアイデアがいっぱい!この先が見たいプロジェクトです。

E「みんなのカマどうくつ」
島で暮らすには何が必要なんだろう?そんな問いからはじまったEグループ。土を固めて焼いたレンガで家をつくり、粘土をこねてお皿や器を焼き、パンやピザを焼く「かま」や「かまど」がテーマにプロジェクトを進めることになりました。

大きな洞窟の内部には海の水が引き込まれていて、島民の洗い場となっています。その周囲にはアーチ上の寝室が積み重なって、窓が岬の先端に向いて大きく開かれています。

朝日を浴びて目が覚めたら、洞窟内の洗い場で身支度を整えて散歩がてら朝ごはん。昼はみんなで、ピザ窯でピザを焼き、自分たちでつくった食器で食事。一人になりたい時には東屋がある。食器をつくったり、陶芸教室で生計を立て、夜は洞窟の中で食事をする。

夏は海水が流れ込んで涼しく、昼はかまどの熱でほんわか暖かい。そんな暮らしをメンバーが共有しながら、丁寧に議論を重ね作り上げた力作です。

【講評】「かまどというアイデアがとても素晴らしい」Eグループが「かまど」というコンセプトに至った思考のプロセスについて太田先生が高く評価して下さいました。太田先生は原広司先生の研究室で世界中の集落について研究したことを話して下さいました。アストリッド先生もヨーロッパの古い町では週末にみんなで1週間分のパンを焼くようなかまどがあることを教えてくれました。「どうして洞窟なの?」という質問に「限られたスペースを活用したい」と答えた子どもたち、「洞窟の内部は共同生活の場でそこから、各家族の専有空間にアプローチする」こと「専有空間は岬の先端にあって大きなアーチで外と繋がっている」ことを説明すると伊東先生は「スケールの問題はあるけれど、洞窟と住宅の関係が素晴らしい」と大絶賛して下さいました。

【全体講評】はじめての共同課題と言うことで半年間、毎回反省を繰り返し、次はどのように展開しようか、私たち講師やTAも議論を重ねて来ました。

1つ1つ分割された敷地をそれぞれが担当して最後に合体させる昨年までの取り組みとは違って、一番「みんなと話すことができた」と言う実感があります。一人一人と話すだけではなく、みんなで話す。いいことばかりではないけれど、何度も何度も繰り返し議論して積み重ねていくことの意義を感じる半年でした。(柴田)

はじめて「住む」と言うことについて意識的にいろんな角度から考えることのできた機会で、子どもたちにとってとても良い経験になったと思います。子どもたちは、住む場所について、心地よさや楽しさを大切にしながら、夢を持って理想的な環境に向かっていくべきで、そのファーストステップを踏んだのではないかと考えています。(アストリッド)

いろんな考え方や個性を持った子どもたちが1つのプロジェクトに向かい合う半年はとてもエキサイティングでした。いろいろなリーダーシップや協働の形があり、子どもたちが取り組んだプロセスやグループの個性がプロジェクトに表出しているように思います。
まさに社会の縮図の中にいるような体験、子どもたちのこれからにとってとても良い時を過ごせたのではないかと思います。(式地)

今までにない試みで、課題もまだたくさんありますが引き続き私たちも探求していく価値のあるプログラムだと思います。自分のアイディアの伝え方、他人のアイディアの聞き方、など色々と考え学んだのではないでしょうか。その上で、具体的な課題についてお伝えします。島で水があるという敷地の特性が十分に活かされてないこと、地形を作りたいと言う欲求が強く、具体的な建築や空間のイメージが描ききれていないこと、集落・住宅の集合のあり方についてのボキャブラリーが乏しく、配置計画やマスタープランの要素が弱いことなどです。これらは子どもたちをサポートするTAにとっても課題であると思います。
また、鬼ごっこをする、など「まちであそぶ」発想がなかったことは、「まちに遊び場がない」現代を象徴しているようにも思います。(太田)

グループで1つのプロジェクトに向かい合うことは人生の中でとても大切なことです。
我々の事務所では、4〜5人のチームでプロジェクトを進めることが多いけれど、年齢も。上下関係もなく、僕もチームの一人として、いろんなアイデアを出し合います。良いアイデアであれば、誰のものであっても採用する。自分のアイデアが採用されなくて不満に思っても、他の人を納得させられるアイデアや伝え方は何だろうと、何度も何度も議論していくと、みんなが納得するアイデアに行きつく瞬間があるのです。そういうプロジェクトは本当に良いプロジェクトに育っていきます。そして、こういう積み重ねが成長につながると思います。この塾を卒業して、パルコの「GAKU」に来てくれている中学生の成長には本当に驚かされます。これからも頑張って下さい。(伊東)

講師賞「Eグループ みんなのカマどうくつ」
「かまど」というコンセプトの素晴らしさと、具体的な生活像を思い浮かべながらつくられた楽しさや力強さを評価しました。

伊東賞「Bグループ 湯ったり 湯っくり」
途中経過をつぶさに見てきたわけではないので、純粋にいいスケールで出来ていることと、いろんな場所があって楽しそう、お風呂が好きなので行ってみたい、と言う気持ちにさせられたことを評価しました。

受賞した子どもたちは口々に、「建築の素晴らしさや面白さを知った」「楽しく充実した1年間だった」とコメントしていました。また、今回のような協働を経たからこその言葉もありました。「いろんな意見、個性の人が力を合わせることができてよかった。」グループのメンバー一人一人の活躍ぶりについて話し、感謝を表す子どももいて、感涙極まる一瞬もありました。(伊東建築塾のような場をつくってくださって)「伊東さんにも感謝します。」と言うコメントに「みんな、大人だなぁ。」と伊東さんがつぶやく場面もありました。

講師 式地 香織