塾生限定講座「伊東豊雄の実作から考える|座・高円寺(見学)」

2013年07月02日

5月7日、初めての課外授業を「座・高円寺」で行いました。

伊東豊雄建築設計事務所が設計を行った「座・高円寺」は、地域に根ざした芸術文化活動の拠点として2009年にオープンした施設で、演出家・劇作家である佐藤信さんが芸術監督をされています。当日は、「座・高円寺」館長の桑谷哲男さんと伊東豊雄建築設計事務所の東建男さんの解説を受けながら、館内外の隅々まで見学させていただけました。

5022Photo:Manami Takahashi

高円寺に向かう電車の車窓からも、その印象的な外観は目に止まりました。
駅を出て5分、住宅の中に突如として現れるその建物は、車窓で見るよりも巨大な印象を受けます。夜目には漆黒に見えるこげ茶色の鉄壁には窓がほとんどなく、面で覆われた巨大なオブジェの中で一体何が行われているのか、ここが劇場だと知らなければ不思議に思うであろう外観です。

5029Photo:Manami Takahashi

入ってすぐのホワイエでまず目に飛び込んでくるは、ループ状に天へと伸びる階段に沿って点在する照明と、赤い壁、床の丸い光。

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唯一地上にある1Fのホールは、「舞台人のための四角い箱」でした。
常識破りの正面入り口と並ぶ搬入口は、舞台とフラットの高さ。
客席も照明も舞台も、全てがポータブルで正面も無い造り。すのこからは天井が透けて見え、壁4面を囲うバルコニーを使えば、壁すらも舞台に成り得ます。
公演のたびに自在に創ることができるこの箱は、細部におけるまで徹底して「創り手の創意のための空間」でした。
この可動性の高い造りは、気積量拡大とローコストというメリットも同時にあるとのことでした。

5085Photo:Manami Takahashi

2階の楽屋ゾーンを抜け、3階にはゆったりとしたつくりのカフェがあります。ここも同じ世界観の赤い壁と丸い照明。壁に沿って地域の子供たちのための図書が設置されています。

地下1階の座・高円寺2は、主にアマチュアの方々のための固定型劇場。楽屋が舞台袖と直結した造りになっています。

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同じく地下1階の阿波おどりホールは、外観になぞり台形。ここは阿波おどりの練習のためだけに造られており、地域の方々の文化振興・交流のための空間です。

最後の地下3階は、けいこ場、衣装や小道具の作業場、映像や音響の編集室が並んでいました。公演までの準備の全てが、この階でできるようになっています。

まだオープンから5年。ピカピカの「座・高円寺」。
しかし、ホワイエには多様な団体のチラシがズラリと置かれ、けいこ場には日々練習しているであろう様子が伺える簡易装置があり、小道具部屋は様々な道具で溢れていました。

そして地下2階の区民ロビーの壁一面に絵が展示されており、天井のライトがそれらを照らしていました。
「この照明、実は勝手につけちゃったんだよね(笑)。怒られちゃうね。」と、館長の桑谷哲男さんがこっそり教えてくれました。
たくさんいらっしゃるようになったお年寄りの方たちの足元を見やすくするため、また、壁を利用して展示等ができるような場にするため、桑谷さんが設置されたものでした。

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まさに老若男女、地域の内外の方々が脚を運び、ここに期待し、集っているからこそ起こったことなのだろうと思わせるエピソードでした。

こうしてどんどん「皆のための黒いテント」として、年月と共に育っていく。
それこそがまさしくこの施設が目指した形の大きな一つなのだろうと、今回の見学を通して実感しました。

塾生 遠藤奈々