塾生限定講座「伊東豊雄の実作から考える|座・高円寺(レクチャー)」

2013年07月02日

伊東豊雄建築設計事務所が手がけた「座・高円寺(08年11月竣工)」を題材に、レクチャー・見学・ディスカッションの三度にわたる連続講座を通して建築について考えるプラグラムの1回目を、4月26日に開催しました。

今回は、講師の東建男氏(伊東豊雄建築設計事務所)から、コンペティションへの取り組み方やコンセプトの立て方、設計・施工過程、竣工後のエピソードなどを、時系列に沿ってスライドと共に解説して頂きました。
また、最後におまけとして、伊東事務所が以前に手がけた劇場である「まつもと市民芸術館(2004年3月竣工)」について座・高円寺との関係性を織り交ぜながら説明をしていただきました。

IMG_7583

座・高円寺の敷地はJR中央線高円寺駅から線路に沿って徒歩5分程の位置にあります。
路地状ともいえる細長い敷地形状や、近接する中央線及び環状7号線からの騒音、道路・隣地からの斜線制限等、劇場を建設する上では厳しい立地条件です。

site

設計者選定のためのプロポーザルの際、伊東事務所は「芝居小屋をつくる!」をコンセプトとし、①庶民的な親しみやすさ、②仮設的な軽いイメージ、③秘めやかさ、④フレキシビリティ(どんな演劇にも対応できる許容力)を持った施設を提案することにしました。

鉄の小屋

プロポーザル時の外観イメージは、単純な黒く四角い鉄の小屋でした。外側をあえて素っ気なくつくることで内部の面白さや秘めやかさが際立つようになると考えたそうです。また、地下を最大限に利用し、地上部のボリュームをなるべく抑えることで、高さの低い周辺の建物に馴染むようにしています。当初フラットだった屋根形状は、実施設計の際に、近隣住民の方からの「四角い鉄の箱はちょっとねぇ…」という意見や、芸術監督である演出家・佐藤信氏からホールAの上部に高さを求められたことから変更されました。そして、日影制限や斜線制限、フライタワーの機能面等を考慮した結果、テントのようなシルエットになりました。

外観

「座・高円寺1」の舞台装置は従来の固定式ではなく、ポータブルシステムを採用しています。ホール上部は全てスノコになっており、自由に移動できる16台のウィンチを利用形態に合わせて配置することで、バトンや幕をどこにでも降ろすことができます。座席や舞台も可動式としているため、様々なステージ形式に対応できます。また、この簡易な舞台装置は建設コストの削減にも繋がっているそうです。

座高円寺1

設計には伊東事務所以外にも多くの方々が参加しており、構造設計の佐々木睦朗構造計画研究所や家具設計の藤江和子氏、照明設計の東海林弘靖氏などと協同しています。また、日本の高い技術を持った施工者の苦労によって、難しい工事が施工可能になっているようです。

IMG_7571

レクチャーの中では、設計や施工のことだけでなく、竣工以降に「どのように使われているか」についていろいろな説明をしていただきました。伊東事務所の設立40周年記念パーティーの際には「座・高円寺2」を貸しきって関係者の方々をもてなしたそうです。(オープニングは伊東塾長による北島三郎の「まつり」だったとのこと!)建築が竣工したら終わりではなく、竣工後も深く付き合っている姿に、伊東事務所の建築に対するスタンスを感じました。

塾生 吉田真也