塾生限定講座「建築はどのようにつくられるのか|伊東建築塾恵比寿スタジオ(レクチャー)」
6月28日、伊東豊雄建築設計事務所の古林豊彦さん、近藤奈々子さん、設備設計を担当して頂いた環境エンジニアリングの和田隆文さんを講師にお招きして、先週竣工したばかりの伊東建築塾恵比寿スタジオの講義を行いました。
はじめに伊東豊雄建築設計事務所の古林さんから建築の説明がありました。
恵比寿スタジオは、伊東豊雄建築設計事務所で同時期に進行していた東北の被災地につくる「みんなの家」と関係しているということで、「みんなの家」の説明からはじまりました。最初は、人々が集まり心安らぐ場として木造の素朴な「みんなの家」をつくったが、最近ではまちの復興を話し合うための活動の場として役割を変えつつあることなど、各地の「みんなの家」の紹介を踏まえて説明してくださいました。
恵比寿スタジオは「建築を語り合うサロンをつくる」「自然エネルギーを活用し、自然に開いた建築をつくる」というコンセプトで考えられていて、「語り合う場所」という点や、建築のプロポーション、半外部の取り方も「みんなの家」と共通していることがわかりました。
スタディの段階では、半外部の取り方について色々と検討されたようで、妻側に半外部をとる案、平側に半外部を取る案、あるいは両方に半外部を取りL字型に配置する案など、様々なスタディ模型を見せながら説明してくださいました。
また、環境計画についても細かく考えられており、床下の空気層からは地中の安定した気温によって、夏は涼しく、冬は暖かい空気が室内に送り込まれます。また、切妻型の屋根の上部から換気をしたり、上部に溜まる暖かい空気を空調に利用したりしています。なるべく人工的なものを使わず、自然のエネルギーを用いて快適な環境をつくる工夫が随所に見られました。
同時期に伊東豊雄建築設計事務所で取り組んでいた、新しいライフスタイルを世界に発信していくという趣旨で開催された「HOUSE VISION」展という展覧会で考えていたことも説明してくださいました。
20世紀に代表する白くてモダンな自然から切り離された暮らしから、21世紀では外部空間を活かした健康的な暮らしが見直されているという状況から、HOUSE VISION展では、都市部において積極的に自然を取り込み、省エネルギーな暮らしを提案しました。そういった考え方は「みんなの家」や恵比寿スタジオの考え方と共通していて、提案の中でみられる半屋外の土間や風を通す格子戸などの要素は、実際に恵比寿スタジオの設計にも取り入れられていることがわかりました。
次に、環境エンジニアリングの和田さんが風の流れのシミュレーションを見せてくださいました。敷地周辺の風の流れを解析し、恵比寿スタジオが建つ敷地の上空には通り抜ける風が流れていることがわかり、それを積極的に活用するために様々な屋根の形をシミュレーションにかけて検討していました。和田さんが「自然の力でどこまで快適な環境をつくれるか」と仰っていたことが印象的で、そのために幾つものシミュレーションを行い、検討を重ねて最適な屋根の形を導き出していることに驚きました。最後に、塾生からの質問や、壁面に使われた煉瓦を実際に温めて吸水性がどれくらいあるのかを実験しました。また、地熱を使った地下空気ピットの説明の際も、一部床の点検口をはずして、塾生自ら中に手を入れて、実際に空気が冷えていることを体感したところで、この日の講義は終了となりました。次回は塾生が今回の講義のレポートを持ち寄り、恵比寿スタジオについてのディスカッションを行います。長時間にわたるレクチャーをしてくださった古林さん、近藤さん、和田さんには、心から御礼を申し上げます。どうもありがとうございました。
長塚 幸助