今治市伊東豊雄建築ミュージアム スペシャルトークイベント「音楽と建築」

2012年08月27日

7月28日、今治地域地場産業振興センターにて、スペシャルトークイベント「音楽と建築」が行われました。

この日は、思想家、人類学者の中沢新一さん、音楽家、映像作家の高木正勝さん、そして伊東豊雄の3人が、自然を内部に取り込むような音楽と建築をテーマに語り合いました。

Photo:Manami Takahashi

まずはこの日、進行をつとめていただいた中沢さんから、同日午前中に訪れた伊東豊雄建築ミュージアムについて「これまで写真でしか見たことがなかったが、空間の広がりや柔らかさが非常に良く表れていて、伊東さんの建築の中でも新しい一歩を踏み出したものだと感じました。」との感想をいただきました。
Photo:Manami Takahashi

続いて中沢さんから、高木さん、伊東についての紹介がありました。

「高木君と知り合った当時、僕は多摩美術大学で教えていたのだけど、初めて高木君の映像を見たとき、僕らの世代とはちがって、自然に対してどういう通路をつくっていくかと模索している様がよく見えました。コンピュータは使うけど、コンピュータの中に閉じこもってしまう危険性を察知して、自分の身体を使ってアーティスティックな表現をしている方だと感じました。
伊東さんとは、共著『建築の大転換』でも話していますが、現代の建築は自然を遮断して内部空間をつくることで成立しているが、伊東さんはそのことを問題に思っていて、自然が内側に入り込んでくるような建築を探っています。少し下の世代にあたる妹島和世さんの建築を見ても、内部と外部の境界をいかに透過性の高いものにするか、という探求をしているように見えますよね。自然をどう取り込むかという捉え方もできますが、一方では、心の中のものが身体を通じて世界へつながっていくにはどういう回路を辿ればいいのか、という思考として捉えることもできると思います。」

やがて話題は、本日のテーマである「音楽と建築」へと移行していきました。

高木さんは音楽をつくるとき、建築に例えるなら「家をつくる前に、その場所で使えそうなものを探して、まずは柱を建てる。柱を揺らしてみて、傾きそうならつっかえを入れて、そうやって付け足しながらつくっていく。最終的にでき上がったものは、必ずしもきれいなかたちでなくでもいい。」と語り、「最近では、映画『おおかみこどもの雨と雪』の音楽を担当したのですが、映画の脚本は始めからそこにあるもの、つまり建築で言うところの自然や環境だったりする。それに合わせてまずは基本となる音を決め、それに次々と音を足していきながら、全体をつくっていきます。」と、ご自身の音楽のつくり方について解説されました。

Photo:Manami Takahashi

そして中沢さんは、音楽と建築の共通項を「反復」であると指摘しました。

「ヨーロッパで発達した音楽は、厳密な反復でできています。音階を認識するために、知的な知覚が必要とされ、音楽を目に見えるかたちとして楽譜に起こした。これは建築で言うところの構造です。シンメトリーな建築は左右対称に反復していますが、それではつまらない。現代は、音楽も建築もヨーロッパで発達したものの影響が大きいけど、本来の日本人の音感は全くちがう。浄瑠璃を聴いたとき、これこそ僕が求めていた音楽だと思った。音階が全く安定しないし、反復の度に音がずれる。構造ではなく、響きだけで音ができている、それが快感をつくり出す。そこで建築と音楽はつながっているのではないか。」と、鋭い視点を投げかけました。

また、中沢さんはもうひとつの共通項として「場所との関係」を示しました。

仏像の成り立ちを例に挙げ、「薬師如来は薬草、つまり植物を持っている。また、十一面観音は水を司る仏。両方を見ていると、その場所の植物や水の地霊を呼び起こして、仏像として表したものではないかな、と思うんですよね。つまり、何かものをつくるとき、その場所の力を重要視することが大事になってくる。」と語ります。
そして、人間は元来、移動する生き物であることを前提にした上で「日本列島も、元々人がいた訳ではない。アフリカからイエメンの辺りを経てインドに渡り、インドネシアから移住してきた。同じ場所にいたことは一度もない。でもどこかに居着くとき、その土地に柱を立てて、自分たちが生きるべき空間を大地につなげていく行為を繰り返すんです。沖縄では、疫病が流行る度に村が全滅して、また人がやってきて、その土地の中心となる根(ニー)を見つけてお祭りを行い、自分たちの空間をつくり、街をつくってきた。人間は移動しながら、どこかに場所をつくることを繰り返してきた。そういった点で、音楽も建築も似たことをしている。場所も関係しているし、自然の中に一から立ち上げるところも同じ。現代の音楽はグローバルになっているけど、高木君の音楽は、空間や場所を意識している。」と指摘しました。

その後、中沢さんのリクエストに応え、高木さんの映像作品を古いものから順に解説しながら上映しました。

Photo:Manami Takahashi

映像を見た後、伊東は「これらの映像は、高木さんがつくったというよりも、
外から来たものがそのまま表現になっているようで、人間ってこういうふうに出てきたんだなぁと感じました。」と感想を述べ、中沢さんも「人間とそうでないものの境界の向こう側に踏み込むと、人間を外れてしまう。そういう危うさを高木君は自然に映像化しているんじゃないですか。」と話されました。

トークイベントの後半は、地域と建築についての話になりました。

まずは、伊東が大三島について「去年、伊東豊雄建築ミュージアムがオープンしてから、震災の復興支援で東北ばかり行っていて、なかなか大三島に来る時間がなかった。だから僕は今日、これから大三島をいい街にするために、僕にできることを精一杯取り組みます、と皆さんの前であえて宣言します。地方を結んでいくことが、これからの日本をつくる最大の力になるということを確信しました。」と力強く宣言し、会場からは拍手が沸き起こりました。

Photo:Manami Takahashi

続いて、中沢さんから、島とおいらずの空間についての考察がありました。

「大都市は開かれているから、経済の影響を受けやすく、僕らの暮らしを不幸にしていると捉えることもできる。大三島は橋でつながっているが、瀬戸内海には橋を架けることを拒絶した島もある。しかし閉じているわけではなく、自分たちで人や物の流れをコントロールしている。大三島はもともと古代から続く海の修験道の地だが、そういった場所には、人がみだりに入ってはいけない、植物を採ってはいけない、いうおいらずの森がある。人間がめったに入り込まない場所をつくっておくと、人間同士の関係も良くなるという不思議な現象が起こるんですね。だから僕は、これから大三島に広大なおいらずの森をつくって、そこでいろんなお祭りをつくってみたいと考えています。これから伊東さんと協力して、大三島保守化計画を遂行しようと決意しております。(笑)」

そして、トークイベントの終盤には、高木さんが「この前、西インドに行ったのですが、家をつくるのに土壁に泥を塗ってつくっているのを見ました。結構広い敷地に壁をつくって、泥で塗り固めていくんですけど、壁と床の境目がまったくなくて、全部泥でつくっているんですよ。」と話したことをきっかけに、「土間」についての話が飛び交いました。

中沢さんが「日本の家屋で重要なのは土間とかまど」と述べると、伊東も「どんな家でも面積の半分は土間にできると思うんですよ。」と発言し、「人間って不思議なもので、ちょっと自然を感じさせるところがあれば、寒くても暖房がなくても平気、暑いときでも平気でいられるんです。家の50%が土間なら、冷暖房もいらないんです。」と語りました。

すると中沢さんは「土間は、自然と人間の中間にあるインターフェースとなる。音楽も土間なんです。なぜなら、鳥は歌うように口ずさみ、人間は言葉を使って歌う。その中間にあるのが音楽、つまり土間なんですよ。」と、音楽と建築に共通した捉え方を示しました。

Photo:Manami Takahashi

最後に伊東から「これまでは建築の中に、いかに外部的なものを入れ込むか、ということを考えてきましたが、今日のトークイベントで高木さん、中沢さんとお話して、建築の側から自然に近づいていくのではなくて、自然が近づいてくる家をつくらなければ、と気づいたことが今日最大の収穫でした。」と述べ、幕を下ろしました。

Photo:Manami Takahashi

トークイベントで伊東の宣言にもあったように、これから大三島で何かが始まることに期待が高まりつつ、来場者の方々からもご好評をいただいて、無事にトークイベントは終了となりました。

ご来場いただいた皆様、ありがとうございました。