講座B「建築はどのようにつくられるか|特別講義 FLUX STRUCTURE」

2012年11月06日

10月19日、伊東建築塾 神谷町スタジオにて構造家の佐々木睦朗氏を講師にお招きし、「建築はどのようにつくられるか|特別講義」を開催いたしました。

はじめに伊東塾長より「これまで十数年にわたって、伊東事務所の主な建築の構造を手がけていただいた佐々木先生は、建築家と構造エンジニアという関係以上に、一緒になって作品をつくらせていただいている方です」と佐々木先生の紹介があり、さっそく講義が始まりました。

講演タイトルは「FLUX STRUCTURE」。先日、パリのポンピドゥー・センターで講演された内容をもとに、貴重なお話をして下さいました。

はじめにスライドに写されたのは、1997年にパリのポンピドゥー・センターで開催された「L’art de l’ingénieur」という展覧会のカタログです。19世紀から20世紀の建築や土木のエンジニアリングワークスを集めたこの展覧会は、バックミンスター・フラーの巨大なドーム模型などが展示され、それらの展示作品を掲載したカタログは、まるでその時代のエンジニアの辞書のようだった、とお話されました。

続いて、2005年に開催されたTOTOギャラリー間の展覧会で、伊東豊雄の代表作であるせんだいメディアテークや、SANAAの金沢21世紀美術館、磯崎新氏のフィレンツェ駅舎ビルのコンペ案等の模型を展示したときの会場写真を写しながら、展覧会タイトルである「FLUX STRUCTURE」のコンセプトについて語りました。

次に、少し時代を遡り、1960年代のお話に移ります。佐々木先生は、大学1年生だった当時に東京オリンピックが開催され、丹下健三氏が設計した国立代々木競技場に影響を受けて建築を志したそうです。同い年にあたる建築家の難波和彦氏も似たような動機で建築の道に進んだそうで、丹下建築が与えた影響の大きさを伺うことができました。

続いて、大学卒業後に就職した木村俊彦構造設計事務所で、3つ上の先輩だった新谷眞人氏と一緒に写る貴重な写真を見せて下さいました。また、事務所在籍時に担当していた建築の中で最も思い出深いと語る、沖縄海洋博水族館(設計:槇文彦氏)について、プレキャストコンクリートのパネルを用いた構法を詳しく解説して下さいました。

佐々木先生が33歳で独立した頃は、ポストモダンの建築が中心になりつつある時代で、その風潮についていけないという気持ちもあり、設計の傍ら、三味線や詩、お茶、お花などをされていたこともあったそうです。

そのように過ごしている中で、木村俊彦氏から声をかけられて、梅田スカイビル(設計:原広司氏)の構造設計に携わることになります。連結超高層を空中庭園でつなぐという、テクノロジーが形態を生みだしたとも言えるこの建築では、それまでハイテクな建築に可能性を感じ、勉強してきたことが活かされた、と語りました。

また、90年代に入り、齋藤裕氏がフェリックス・キャンデラの写真集を出版するので、キャンデラにインタビューをしてほしいとの申入れがあったことから、念願叶って当時83歳だったキャンデラに会うことができ、非常に感激した、というエピソードをお話下さいました。

その後、佐々木先生にとって転機となった作品と語る、せんだいメディアテークの設計が始まりました。それを皮切りに、福岡アイランドシティ・ぐりんぐりんや、岐阜の各務原にある瞑想の森・市営斎場など、自由曲面を用いた建築が次々に生みだされていきました。

また、海外の代表作のひとつであるROLEXのラーニングセンター(設計:SANAA)では、
床をRCのシェル構造として、その上に木造と鉄骨の混構造を用いて、波のようにうねる屋根を実現させました。

最新作の豊島美術館(設計:西沢立衛氏)では、自然豊かな場所で、美術家の内藤礼氏の作品と一体となった建築をつくろうと試み、水滴のような幾何学でない曲面をシェル構造でつくるというコンセプトのもとに設計を進めました。ここでは、密な解析に基づく構造と、目地のない美しい仕上げを実現させるため、土盛り構法(土で内部空間のかたちを形成した後、モルタルを流し込む)を用いて、施工時の初期不正を厳密に管理し、現場の精度を高めるように努めたそうです。

講義の締めくくりには、ポンピドゥー・センターで上映した豊島美術館の映像を見せて下さり、最後に聴講者からの様々な質疑に答えて下さいました。

長時間にわたり、構造をとりまく世界について講義をして下さった佐々木先生に、心より感謝申し上げます。