講座B「江戸・東京の海のランドスケープ」
10月21日、東京大学大学院工学系研究科教授の石川幹子氏を講師にお迎えし、講座B「江戸・東京の海のランドスケープ」を開催しました。
この日は見学にふさわしい晴天に恵まれる中、江戸の名園・浜離宮恩賜庭園から、石川先生がランドスケープを担当したお台場海浜公園まで、約3時間半にわたる見学を行いました。
はじめに見学した浜離宮恩賜庭園では、大手門口にて汐留の古地図を見ながら、浜離宮周辺の地形の成り立ちについて解説して下さいました。
続いて庭園に入り、潮入の池の方へ進みます。園内の樹木は、かつてこの地に池をつくるために掘った土を盛り、土手になっている部分に植えられていますが、土手があることで先が見通せなくなるため、様々な風景のシークエンスを楽しむことができる、と解説されました。また、園内に多く植えられているタブノキや、クロマツとアカマツの見分け方など、樹種についても詳しくお話し下さいました。
潮入の池まで来ると、先ほどの解説のとおり、それまでとは景色が一変します。橋の中ほどにある中島の御茶屋付近からは、見事な景色が一望できます。かつては将軍や公家たちも、ここからの眺望を楽しんだと伝えられています。
続いて、富士見山に登ります。山という名がつくものの、小高い丘のような場所ですが、かつてはここから富士山をはじめ、江戸の街を見渡すことができたそうです。日本庭園は、一見すると自然につくられた場所のようですが、実は緻密に計算されてつくられた人工的な場所であり、東京湾の景色を楽しむためのダイナミックな仕掛けが施されているのだと解説されました。
富士見山を下りた後は、東京湾の海岸沿いを歩き、庚申堂鴨場を見学します。鴨場とは、池に飛んできた鴨の様子を覗き窓から伺いながら狭い水路に誘き寄せて、飛び立つ方向に網をかけることでつかまえていた場所です。浜離宮に残っているのは18世紀のもので、今でもその周辺には多くの野鳥が生息しているそうです。
こうして駆け足で園内をまわり、偶然にもこの日行われていた放鷹術の実演を見学した後、水上バスでお台場海浜公園へと移動しました。
お台場海浜公園は、石川先生が大学を卒業後、はじめて手がけたプロジェクトで、当時貯木場だった埋立て地を緑化し、海を市民に開放するというコンセプトで、この地に砂浜をつくりました。
しかしその後、マスタープラン(全体の計画)がないまま開発が進んだ結果、レインボーブリッジが開通して、それまでの見通しの良かった景観が損なわれてしまったり、20年間大切に育ててきた木が伐採されて商業施設が建ったりする等、失望することもあったと語りました。
最後に、ゆりかもめで国際展示場前まで移動し、イーストプロムナードからセンタープロムナードを見学します。ここでは歩者分離がしっかり計画されているため、歩行者も車を気にせず安全に移動することができます。植栽に関しては、維持費にお金をかけられないことから、手入れが少なくて済む低木の樹種を植えたり、常緑広葉樹を中心にする等の工夫をこらしたそうです。
講義の最後に石川先生は、まわりの関係性の中でデザインを決めることが大切であり、色々な人が集まって楽しく過ごせる場所をつくることがランドスケープデザインの役割であると語り、締めくくりました。
長時間にわたり、分かりやすく講義をして下さった石川先生に、心より感謝申し上げます。