塾生限定講座 安東陽子「テキスタイルワークショップ」
昨年10月26日に開催された塾生講座では、テキスタイルコーディネーター・デザイナーの安東陽子さんを講師にお招きしました。安東さんは伊東塾長をはじめ、様々な建築家の設計する公共施設や個人住宅などにテキスタイルを提供され、ご活躍されている方です。
今回は二部構成で行われました。前半は安東さんのレクチャー、後半はテキスタイルデザインの体験ということで、伊東建築塾のスタジオの西側の窓にかけるカーテンを提案するというワークショプを行いました。
レクチャーでは、今までの安東さんのお仕事を紹介しながら、テキスタイルの役割や空間との関係性、製作方法について説明していただきました。また、それぞれの建築に使用したサンプルをお持ちいただき、実際に布に触れながら素材感を確かめることができました。
今回ご紹介いただいたのは、下記の建築のテキスタイルです。
多摩美術大学図書館(八王子キャンパス)/伊東豊雄建築設計事務所
東京マザーズクリニック/伊東豊雄建築設計事務所 ©Kai Nakamura
下関市川棚温泉交流センター 川棚の杜/隈研吾建築都市設計事務所
その他にも、下記の建築やインテリアのテキスタイルをご紹介いただきました。
等々力の二重円環・HOUSE H/フジワラテッペイアーキテクツラボ
360°(納屋新氏の自邸)/納谷建築設計事務所
MUSE SQUARE(シェアオフィス)/SUPPOSE DESIGN OFFICE
高田馬場の住宅(フロリアンブッシュ氏の自邸)/フロリアンブッシュ建築設計事務所
KLOS コイズミ照明オペレーションスタジオ/乃村工藝社
ZOZOBASE/NAP建築設計事務所
安東さんは、カーテンの生地を考えるときに建物のマテリアル感も考えるそうです。マテリアル感が強いものには、それに負けないしっかりとした存在感のある布を選定します。また、通常カーテンが閉まっているのか空いているのか、どういう状態で使われるかという具体的なシーンを考えて選定するそうです。タッセルもあれば良いというわけではなく、空間に合わせた対応を考えているそうです。色を考える際にも、実際の空間にかけられると色味が変化し、雰囲気が変わるので面白いと言います。
薄い生地の例としては、オーガンジーを挙げられていました。オーガンジーには様々な厚さがあり、薄いものは重ねることで多彩な表情を表現することができるそうです。薄い布は一枚置くだけで光を柔らかくし、空間を軽やかに見せたり、空気感を変えたり、生き物のように表情を与えることができるそうです。
新しいカーテン生地の開発では、2本のレールでレースと遮光カーテンをつくるのではなく、1本で成立するカーテンを目指したそうです。厚い布と薄い布をパッチワーク状にして二重に重ね、パーツの組み合わせによって目線をカットしながら空気が通れるように、と考えたそうです。
©Kai Nakamura
また、2013年に今治市伊東豊雄建築ミュージアムで行われた子どもワークショップでは、貼るファブリックを実験的に用いて「すけすけハウス」をシルバーハットに制作しました。
このファブリックは、現在岐阜市に建設中の「みんなの森 ぎふメディアコスモス」でも使われるそうです。
レクチャーに続いて行われたワークショップでは、伊東建築塾のスタジオの西側上部の窓にかける西日対策用のカーテンを提案するというお題のもと、1/20スケールでスタディ案を作成しました。このカーテンは常時使うものではなく、夕方の時間帯に開催されるレクチャーなどのときにさっとかけられるスマートなもの、というイメージをされています。
制作はそれぞれ個人が行い、最後に安東さんや塾生皆の前で、思考錯誤したスタディ案を発表しました。今回は、伊東豊雄建築設計事務所の所員で、スタジオの設計を担当された近藤奈々子さんも飛び入りで参加されました。
塾生の案の中で、良いものがあれば採用されるとのこと。実際にどのようなものができ上がるのか、楽しみです。
個人的な感想としては、このワークショップに参加するまで、テキスタイルというとあまり馴染みがないものでした。一般的なイメージとして、カーテンレールは2本あり、1枚はレースで視線をカットし、2枚目に遮光用のカーテンがかかっているものだと思っていました。しかし、安東さんの作品を拝見し、その概念がくつがえされました。また、布はかけられた瞬間に表情が変わり、周りの空間にも影響を与える力があるということ、つまりテキスタイルは建築の空間を変える大きな要素の一つであるということがよくわかりました。今回のワークショップを通して、様々な素材に触れることができ、カーテンのつくり方まで詳細に指導していただき、貴重な体験ができました。ありがとうございました。
塾生 須永泰由