塾生限定講座 台湾ツアー(2日目)
台湾ツアー2日目は、台北から台中に移動して、台中国立歌劇院の見学を行いました。
朝食後、ホテルを出発し、台北駅へ向かいました。街中はオートバイの数が多く、アジアらしい鼓動するようなエネルギーを感じ、改めて台湾にいることを実感しました。台中への移動は台湾高速鉄道を利用しての移動となりました。
台湾高速鉄道はフランス・ドイツのシステムが導入されているため、自動改札に入るときの切符の方向が決められていたり、搭乗時刻直前までホームまで降りることができなかったりと、少し日本の新幹線とはシステムが異なるところはありましたが、車両自体は日本の東海道新幹線がベースになっているため、とても馴染みがあり快適でした。
台中駅に着くと、台北より南にあるためか、心もち暖かく、南国の雰囲気を感じました。駅は街の中心地から少し離れたところにあるため、再びバスに乗り、歌劇院の近くで昼食をとりました。昼食をとり、エネルギー補給した後、期待に胸を沸かせ、いよいよ歌劇院の見学です。
バスの車窓から外を眺めていると、整然とした直線のグリッド上に並んだ高層マンションの間から、突如としてなめらかな曲線の歌劇場のファサードが見えました。その曲線は伊東氏が提唱するエマージンググリットの力強さを感じさせ、早く内部が見たいとさらに胸が高まりました。劇場前の広場には、休日のためか多くの人が集まり、記念撮影を行う姿が見られ、ちょっとしたお祭り騒ぎのようでした。
一行はバスを降り、地下にある現場事務所に向かいました。道中、歌劇院の裏側から建物をのぞくと楽屋が見え、公演の準備をしている様子が伺えました。
現場事務所到着後、伊東豊雄建築設計事務所の藤江航さんから台中オペラハウスの概要についてご説明いただきました。建物は地下2階、地上6階建てで、大中小の3つの劇場が内包されています。躯体となるカテノイド(三次元自由曲面シェル構造体)の施工方法を動画で見ながら詳しく解説していただきました。説明終了後、さっそく大ホール、5階、6階、楽屋、中ホール、小ホール、屋上、地下のリハーサル室という順序で見学に向かいました。
現場事務所のあった地下から1階に上がると、予告なしに立ち上がるカテノイドの力強さと洞窟のような空気感に驚かされました。
特に内外を仕切るガラスとカテノイドが断面で切られる境界が合わさる部分においては、曖昧性と明瞭性の2面性を持った空間の不思議を感じました。
1階から螺旋階段を上ると、大ホールの手前に大きなホワイエがあります。見学前は、写真で見ていた建設中のコンクリートの荒々しい印象が強く、仕上げをする前の姿の方が魅力的ではないのかと思っていましたが、実際にその空間の中に入ると、カテノイドの曲面の美しさと空間の広がりと迫力に、言葉を失いました。
大ホールは演奏会が始まる直前のリハーサル中で、限られた時間での見学となりました。世界最大の花・ラフレシアに飲み込まれたかのような赤一色の空間でしたが、家具デザイナーの藤江和子氏によってデザインされた座席が並ぶ空間には、オペラハウスという名前から想像する重厚な雰囲気とは一線を画した柔らかさが感じられました。
5階と6階は、床が突如として壁になり、壁がそのまま天井になるような、まるで鍾乳洞の中を進むかのような感覚で、カテノイドの迷宮を歩き進めました。スプリンクラーなど設備があらわな部分もあり残念に感じる反面、建築としての力強さと野性味が強すぎるためか、そこに人工物があることに安心感を感じました。
屋上庭園はカテノイドの森が切り開かれ、うねる波のようなダイナミックな床面があり、外のグリッド的な建築と一線を画していることを感じました。
全体での見学終了後、自由時間が設けられ、塾生達は思い思いに敷地内を散策しました。私は歌劇場の目の前にあるカテノイドのモックアップと、市政府公園からファサードの眺めを楽しみました。カテノイドのモックアップは現在展示場になっており、中には現代アートが展示されていました。その展示の裏で、現場での試行錯誤の跡が展示されており、工事の難しさを感じさせました。
歌劇院から少し離れた市政府公園から歌劇院のファサードを眺めていると、私が日本人であることに気づいた現地の方が話しかけてきて、自慢気に歌劇院について語られました。現地の方々がこの歌劇院というものを受け入れ、そして誇りに思っていることを実感しました。
自由時間の後は、名残惜しくもバスでホテルへ向かい、休憩を挟んで、街中で夕食会となりました。
夕食は街中にある中華BBQを楽しみました。少し肌寒い中、屋外での食事が始まりましたが、建築談義に火がつき、寒さを忘れるほど盛り上がりました。
途中、ツアーに参加されていた遠藤勝勧氏、難波和彦氏、佐々木睦郎氏から、歌劇院についての総評が語られました。遠藤先生は「まるで海の中の竜宮」と例えられ、カテノイドの曲線が美しく、普通の建築ではない、台湾大学の図書館のような柱と梁の建物とは90度異なる、とお話しされました。難波先生は、伊東塾長の菊竹事務所時代の話を取り上げ、システマチックなルールに対して争い、1960年代の実存主義になぞらえた菊竹氏の狂気に対するアンガージュマンを具現化したのではないか、と語られました。佐々木先生は、エマージンググリッドの複雑な3次元的空間を実現可能な形状に閉じさせた、しかし一方で構造的合理性から考えるともう一歩新たな段階に入れたのではないか、と講評されました。
夕食後は自由時間となり、夜市やマッサージに行く人、お酒を飲みながら語らう人など、思い思いの夜を過ごしました。
台中国立歌劇院は、まだ全面的に公開されていないため、多くの人々は内部に入れていませんが、グランドオープン後の使われ方にも興味があり、オペラの鑑賞などの機会があれば再び訪れてみたいと思いました。
塾生 須永泰由
(撮影:中村 絵)