塾生限定講座 台湾ツアー(1日目)
昨年12月に開催された台湾ツアー1日目。この日は、台北市内の台湾大学キャンパス内にある社会科学部の新校舎を見学させていただきました。
キャンパスの北側に位置するこの校舎は、大きく2つに分かれています。ひとつは8層の教室、研究室、会議場を中心とした教育棟、もうひとつは低層の図書館棟です。伝統を重んじる既存のキャンパスに対してのコンテクストが強く問われた結果、外部の大通りに沿って長さ168mの教育棟を配置し、既存校舎と共に囲い込まれた中庭をつくり出し、その中にシンボリックな図書館棟を極力低く抑えることで全体が環境に溶け込んだつくりとなっています。教育棟では、台湾の厳しい夏の環境が考慮された風の通り道が積極的に計画され、図書館棟には蓮の花のような美しいパターンが用いられ、リズムのある大空間が実現されていました。
教育棟は中廊下を挟んで両側に研究室や教員室が配置され、その合間に多くの大きな吹き抜け空間やテラスが配置されています。この吹き抜け空間やテラスにより、大きな建築の中にヒューマンスケールや特徴がつくられ、ある程度まとまった集合体がいくつかあるように感じました。
このテラスは、奥行きが深いために直射日光が遮られ、快適な共用空間となっているとともに、吹き抜けと廊下の組み合わせにより、風が心地よく抜けていく効果もをもたらしています。廊下は室内からの冷房の冷気を溜められるように計画されており、空気の流れを考慮したディティールも興味深いものでした。
図書館棟は、まるで樹木が立ち並んだ林のような空間になっています。約50m四方の平面内に細い柱が林立し、それぞれの柱によって支えられた蓮の葉のような屋根からは自然光が差し込み、さながら林の木陰で読書しているような感覚になりました。
家具もその美しい曲線を生かして配置されており、曲線に沿って奥に行くに従って柱の林立の見え方が大きく変化し、どんどん林の奥へと連続的に引き込まれてゆくような感覚があり、繊細かつダイナミックな、居心地の良い空間が実現されていました。あいにく当日は曇りのため、自然光のみの内部の状態を体感できませんでしたが、それでも柔らかな空気と光が空間を満たしており、形の持つ力を実感することができました。
また、台湾と日本の文化の違いのお話も伺いました。台湾では執務スペースは部外者に見られたくないため、日本のような図書館の事務スペースに抵抗があったお話や、建築費の多くを個人からの寄付でまかなっていること、海外の建築家が国立大学の設計をすることに抵抗があったこと、1階の床スラブ下の駐車場は非常時の防空壕であることなど、日本の建築家が海外で仕事をする上での苦悩や、それを乗り越えたときのある種の一体感も垣間見ることができ、強い思いで共につくることの素晴らしさを体感しました。
塾生 川見拓也