塾生限定講座 北海道大樹町合宿(3日目)

2016年04月07日

2015年8月23日。昨晩も遅くまで続いた熱い夜塾とは裏腹に、静謐すぎるくらいの霧雨が舞う森の朝を迎えました。どこまでも続く薄いグレイに染まった空と深い緑の風景が広がっています。朝食の時間まで「メム メドウス」内を散策していると、数頭の馬たちが厩屋からそれぞれ決められた場所に移され、牧草を食べながらのんびりとした時間を過ごしています。大自然が一面に広がる風景、そして緩やかな時間が流れる場所での合宿もいよいよ最終日を迎えました。この日は、大樹町の方々や食物に触れた2日間を通して感じたこと、そして、今年の講座のテーマであるこれからの大三島について議論を行いました。
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©Kai Nakamura

何気ない会話から
8時半、レストランでの朝食を終え、食後のデザートにサークル(旧屋内走路)の中庭にあるブルベーリーを摘みながら、塾長を囲み、数人の塾生たちで立ち話をしました。夜塾に引き続き、この場でも話は盛り上がり、柳澤先生の提案でサークル内をぐるっと一周歩いてみることに。
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©Kai Nakamura

このサークルは、約400mトラックがそのまま室内化されたような建物で、床は木製チップが敷き詰められていて、馬だけではなく人間にとっても歩きやすい設えになっています。「White U」(伊東塾長が設計した「中野本町の家」)の空間に似た、ぐるりと一周できるサークル内はがらんどうで単調ではあるものの、その先に何があるのだろうかと思わせるような空間でした。先に見える光や聞こえてくる声を追いかけて行きたくなるようなワクワク感がありました。
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©Joyce Lam

話の中で、暑い夏には大樹町で子ども建築塾の合宿をやってみてはどうか、あるいはサークル内にテーブルをぐるりと一周並べてみんなでBBQや流し素麺をやってみてはどうかなど、ギネス記録にも挑戦できるような、そんな楽しい提案もありました。伊東建築塾ではいつもこういった何気ない会話からいつの間にか自然に人の輪ができて、フラットな議論の場へと変わっていき、そんな柔らかい雰囲気がとてもいいなあと思います。伊東塾長をはじめ、みんな次のスケジュールが近づいていることを忘れるくらい、「メム メドウス」の有効活用についてのイメージが風船のようにどんどんと膨らんでいきました。

塾生ミーティング「大三島に自分が住むとしたら?」
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©Kai Nakamura

9時半からは「スタジオ メム」で塾生ミーティングを行いました。「大三島に自分が住むとしたら?」というテーマをもとに、合宿2日目に提出したエスキースを発表した後、伊東塾長をはじめ柳澤先生や内部講師から講評をいただきました。この合宿で、都会では感じることのできない気候や風土に触れたこと、大樹町の方々と対話したことを踏まえながら、もし大三島に暮らしたらどんな生活をしたいのか、どのように生計を立てていくのか、どんな建物に住むのか(またはシェアするのか)など、テーブルを囲んで議論しました。提案の中には、ライフステージごとに島とのつながりを考えてみたり、農業に従事しながらカフェを運営してみたり、美しい海を眺められる山の頂きのような場所に自宅やレストランを計画するなどの提案もありましたが、(私の提案もそうなのですが)まだまだリアリティさに欠けているように思います。大三島の方々に喜ばれ、そして島を訪れる方々が楽しめる場所について、さらに考えを深めていくのと同時に、大三島の美しい風土や流れる時間に自分が暮らしているイメージを重ねながら、よりリアリティのある提案へとつなげていきたいと思いました。今回のミーティングを通して、とても大事な気付きを得たような気がしています。
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©Kai Nakamura

大樹町シーフードカレーを堪能
ミーティングが終わる頃、キッチンの奥の方からおいしそうなカレーの匂いが漂ってきました。合宿最後の昼食は、地元で採れる魚介類がふんだんに入ったシーフードカレーでした。今振り返ってみても、今回の合宿は、食べる、作る、そしてまた食べています(今回の合宿は「食べる合宿」と言っても過言ではありません)。フードファイターかのように2日間食べ続けていたのにもかかわらず、カレーライスとなると不思議です。自然とお腹が空いてきます。北海道でしか味わえない新鮮な食との出会いに感謝しながら、大樹町のおいしい食材や人の優しさにぎゅっと胃袋の辺りを鷲掴みされたような、東京に戻った今でもそんな感触がしっかりと残っています。
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©Kai Nakamura

ここで古川さんから、なんとも嬉しい提案があり、急遽午後の予定を変更して、帯広空港に近い「六花亭 六花の森」へ寄り道をすることになりました。

「六花の森」へ
マルセイバターサンドやチョコで有名な六花亭が運営する「六花の森」は、森の中は花柄包装紙に描かれた草花たちが咲き誇り、クロアチアからの古民家を移築した美術館や広大な土地にふさわしいくらいの緩やかなランドスケープが広がっています。また、森の中を札内川からの支流が流れており、水の流れは今まで見たことがないくらいに透き通っていて美しく、その水の恵みを受けているせいか、水の中に生息する植物や動物たちがとてもいきいきと振る舞っているかのようです。
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©Kai Nakamura

「六花の森」を堪能し、お土産をたくさん買い込んだ一行は急いでバスに乗り込み、どこまでも広がっていく地平線とそれを遮るように高くそびえ立つ防風林の風景を眺めつつ、北の大地のおおらかさに後ろ髪を引かれながら、とかち帯広空港へ向かいました。

フライトまでの時間、さらに豚丼を食べに走るもの、お土産コーナーに駆け込むもの、地元限定の生ビールを人影に隠れてこっそり味わう私。時間の許す限り、三々五々余韻を過ごしました。17時半、羽田空港着。充実した3日間の合宿も無事に幕を閉じました。

大樹町合宿を終えて
最後に、合宿の全行程を無事に取りまとめてくださった事務局の古川さん、鈴木さん、伊東豊雄建築設計事務所の高塚さん、そして3日間お世話になった公益財団法人LIXIL住生活財団のみなさん、本当にありがとうございました。私たちを快く受け入れてくださった大樹町のみなさんや美味しい食との出会いはどれも一期一会の忘れがたい経験になりました。またいつか訪れたいと思える場所に出会えたこと、大樹町を元気にしたい!というエネルギー溢れるみなさんと出会えたことすべてに、この場をお借りして感謝申し上げます。

塾生 小迫欣弘