子ども建築塾 「渋谷川とまちの建築」公開発表会
会場正面には、大型スクリーン。舞台上には長さ10mにも及ぶ巨大な渋谷川の敷地模型。映し出される自分の模型の映像を背に、マイクを片手に発表する子どもたち。
2016年3月12日、渋谷川沿いにある渋谷区地域交流センター新橋にて、はやる期待が伺われる手短な伊東塾長の挨拶ののち、大勢の人に見守られる中、堂々と子どもたちの発表が始まりました。
「今の渋谷川はあまり楽しくないので、みんなで楽しいところにしよう!」アストリッド先生は半年間よくそう口にされていました。渋谷川と仲良くする建築とは何でしょう?
Aグループ
■ 鈴木海翔くん「渋谷川ワイワイストリート」
地上と水面のレベル差に着目し、切立つ護岸沿いに明るい地下のまちを構想しました。「どうして護岸が深くなっているかわかる?」現実に即した提案に、更なる認識を問う高度な質問が向けられます。雨量が多い増水時でも浸水しないようガラス面で覆っている、と説得力ある答えが返ってきました。
■ 杉保名美ちゃん「リラックス川」
元々ある古い倉庫を色鮮やかなキッチンにリニューアルした気持ちの良い案。風を通すために開けた壁の波のような形に伊東塾長は注目しました。保名美ちゃんは優しい感じにしたかったと言います。水辺の浮遊感もうまく表現されています。
■ 中浜瑛理香ちゃん「緑と水のベール」
樹々に囲まれたプールには、頭上から涼しげに水しぶきが降りそそいでいます。「水のベールっていうタイトルがいいね」と伊東塾長がコメントしました。当初のタイトルは目玉ハウスとしていたが「それではかたいもののように感じます。柔らかいものにしたかった」と考えの経緯を抽象表現で説明してくれました。
■ 及川美友斗くん「水中館」
不思議な光景、と講師を一様に唸らせた神秘的な水中世界。川のそばにあるという池の中は、人と水の生物、内と外もなく全てが解け合っているかのようです。その類稀な魅力に引き込まれます。
Bクループ
■ 松坂麻央ちゃん「魚食堂」
水中のガラス張りの食堂には細いトンネルが飛び交います。そこは小さい魚たちが回遊し、人も魚の気持ちになれるという提案。後期の「まち」というテーマを考える課題で一番考えてほしいまなざしだと田口さんは賞しました。
■ 松崎柚ちゃん「ホタルドーム」
水に浮かぶガラスのドーム。中の間接照明は水面に反射し、ホタルのように淡くまちを灯します。川面に大きいものから小さいものまで、あちこち瞬く光景はさぞかし幻想的でしょう。
■ 笹目美煕くん「川の博物館」
切立つ護岸のコンクリートを取り除き、地層を露に見せる川の歴史博物館。「ただ掘り放した地層の前にガラスが張られている空間が不思議でいいね」と伊東塾長。「不思議」は伊東塾長の賛辞です。「化石や浸食の経緯も見て取れ、まさに川の歴史がわかる」と村松さんも納得の様子です。
■ 森悠くん「フィッシュウオッチングトンネル」
水を浄化するための3つの条件とは、太陽の光にあてる、植物がある、砂利がある、とエスキースの際に伊東塾長は説明しました。なだらかに傾斜させた川岸でそれらを実現し、自ずと水中のトンネルにも誘い込むというおもしろい仕掛けです。
Cクループ
■ 尾形太緒くん「てんとくびじゅつかん」
「ここはきれいな音がして、光がきらきらして、ふわふわ浮いています」弾けるカラーのフレームで包まれた鞠のようなものが水に浮かびます。そこは天国のような場所だとも。音や光やふわふわというような体験、現象と向き合うのは誰でもできることではないです。気持ちよさそうだとアスリッド先生は心の底から微笑みます。豊かな内面的な世界が表れています。
■ 落合真悠さん「小さなHAPPYタウン」
川沿いの建物、垂直な護岸をなだらかな曲線で欠き取り、川のパノラマを広げます。「固い街並みの風景を柔らかくしたかった」とその理由を端的に説明しました。両岸を川底でつなげる新たな「橋」の発想にも驚かされます。
■ 久枝ミアンさん「チャプチャプ憩い場」
子どものための船の児童館。筒型をしたガラス張りの船内にはダンスルームもあり、見え過ぎを気にする伊東塾長。中でダンスをする光景が水上を往来するのは楽しげ、と前向きなアスリッド先生。見解の差は建築と船の差か、その境界は果たして何なのか考えさせられます。
■ 平本大智くん「タウントウーリバーボートステーション」
大きく広げた川幅を繊細な橋がつなぎます。ボートの船着き場。大きく架けられた屋根は伸びやかで、川の流れがゆったり感じられる雄大な場をつくっています。都心の喧噪を忘れられる静かな時間が流れています。
Dグループ
■勝方正宗くん「クリーンマングローブ」
機械をつくるのが夢とはっきり語る勝方くんの提案する「クリーンマングローブ」とは、川にダイビングできるジャンプ台のある豪快な木。川の水を浄化するのが本来の機能です。「絵がいいね」と伊東塾長が賞する勢いのある枝振りはとても力強く描かれています。
■ 穴井蒼一郎くん「水を楽しむスマイルパーク」
川岸をなだらかに傾斜させた憩いの広場を提案。「ここに来てぼ〜っとし、次へのエネルギーを蓄える」という。川の流れの傍らで確かに感じられるゆったりとした感覚を素直に大事にしています。
■ 新谷優太くん「玻璃」
美術館のドームは幾重にもクロスしたフレームで構成され、玻璃の名にふさわしい精緻な光が差し込むことでしょう。まとまりのある意欲的な作品を踏まえ、今後更に新たな展開も伊東塾長らは期待しています。
■ 山本杏奈さん「リバーフィッシュロード」
アイスクリームや自転車の車輪の形をモチーフとしたカラフルなお店の数々が、遊歩道を賑わせています。どれも丁寧につくり込まれ魅力的です。「何のお店なのか一見わからないようにしてみてもおもしろいかも」とアスリッド先生がイメージを膨らましました。
Eグループ
■ 石原令大くん「水を生かす建築」
フナムシの歩脚には水を吸上げるしくみがあると言います。そのかたちを模したフレームが川を覆い、エネルギーを使わず上部に水を汲み上げ浄化するという環境回復を目指す建築です。「このような生き物のしくみが将来建築に生かされることがあるといいですね」と村松さんはじめ、伊東塾長らを感心させました。
■ 川上祐衣さん「光が溢れる街」
コンクリートの護岸の壁面に部屋を並べ、窓辺の明かりが川面を照らすという趣ある提案です。現地を夜に歩いた際に気づいたという、その鋭い観察力から実効性が感じられ、アスリッド先生も当初から評価しています。
■ 杉田幸穂さん「サイクリンゴ」
川沿いでサイクリングを楽しむ人のための船「サイクリンゴ」。疲れたらそれに乗り、帰途に着くことができます。目にした人は幸福になるとか。みんな、乗りたい!と思わせるストーリーテラーの才能ありと田口さん。村松さんも物語りの発想、構成力を大いに賞しました。
■ 辰巳悠真くん「ビルと川が仲良くできる道」
今にも動き出しそうな躍動感あふれる「木」のビルがそびえ立ち、川の上をロープウェイが行き交います。丹下健三設計の「静岡新聞ビル」(新橋)を見るといいと伊東塾長。巨匠の作品を彷彿させるパワフルな景色が広がっています。
発想豊かな案が多かったのは、テーマの舞台が川だったからでしょうか。川を水上の移動手段とした船のような案。地形を再構築する土木的な案。水の植物、生き物を見つめたランドスケープ、環境的な案。ふと前期に好きな動物として、両生類をあげる子が多かったことを思い出しました。陸だけでも川だけでも辿り着けない地上と水中の境は、解釈が広がる余地がありそうです。「この塾では学校や他のところで教わっていることを、統合していくようなことをしたい」とする伊東塾長のコメントにもあるように、境を知るとともにそれを凌駕する発想力も磨いてゆきたいものです。
またこの1年間を振り返ると「カラフル!」とよくアスリッド先生は口にされていたのを思い返します。最終発表会で所狭しと並べられた模型たちはみんな嬉々として色鮮やかでした。黄の水玉模様に包まれる太緒くんと、隣に並びそれに同調するTAの平馬くんの服も、田口さんは褒めました。子どもたちの見渡す景色も色彩豊かになっていると嬉しいです。
伊東塾長は講評の際に「大人になるにつれ発想が固まっちゃうんだよ。我々もそうだけどもっと自由でいよう」と言われました。そして、「やりたいことがよりストレートに出ていた」と最年少の4年生たちの頑張りを讃えました。思い切り全力疾走する姿は強く美しいです。
発表会では、かつての塾生だった卒業生が懐かしい顔をのぞかせてくれました。新年度の準備も進行しています。卒業後も胸に何かを携え、また訪ねてくれる子たちから、4月から新たな眼でやって来る子どもたちと、少しづつではありますが、確かな広がりをみる子ども塾を、今後も応援どうぞよろしくお願い致します。
子ども建築塾助手 柴田淑子
(写真:高橋マナミ)