子ども建築塾 前期第10回「みんなの家」の発表会

2017年10月13日

みなさん、こんにちは。9月30日に行われた子ども建築塾前期第10回「みんなの家」の発表会の様子をお伝えしたいと思います。

これから子どもたちが発表する「みんなの家」は、設計する敷地が具体的に与えられているという点で、前年度までの課題よりも難しい出題でした。どうして難しいのかというと、「みんなの家」という抽象的な言葉と敷地という具体的な情報を同時に考えなければいけないからです。さて、大人でも難しいこの課題を子どもたちはどのように考え、どのような「みんなの家」を発表したのでしょうか。

発表開始時刻に近づくにつれ、プレゼンボードを片手に持った子どもたちが元気の良い挨拶とともに続々と集まってきました。よく見るとみんなはいつもより何だか少しそわそわしていて、緊張していることがTAにも伝わってきます。

全員が集まり、発表開始時刻の13:30になると、発表がD→E→A→B→Cの順で進めることがアナウンスされました。不意の発表を受けたDグループの子どもたちは、「え!うそでしょ!緊張してきた!」「いつも俺のいるグループからじゃん~」という何だかにぎやかな声がスタジオ内に響き渡ります。

そうこうしているうちに、早速Dグループから発表が始まりました。

■ Dグループ

琉月ちゃん「みんなで紡ぐストーリー」
琉月ちゃんは、2年目の塾生として発表会の先陣を切ってくれました。提案したのは、訪れた人が読んだ本の一部をエピソードとして吊るすことで、ストーリーがだんだんと生まれていく「みんなの家」。伊東先生からは「ストッキングの素材感を生かしてつくった大きなドームの中に小さなドームを設け、緩やかに本を読む場を仕切っているところが素晴らしい」と褒められていました。

賢仁くん「光のフルーツランド」
賢仁くんは、少し緊張しながらもこれまで考えてきたことを分かりやすい表現で伝えることができていました。提案したのは、敷地全体を温室にして中心部で果物を育てながら、その周囲をスロープがぐるりと回る「みんなの家」。柴田先生からは、「なんだか建築のような道のような空間で楽しくジュースを飲める場所ができているのが良いね」と褒められ、太田先生からは「天井から果物の樹がぶら下がっていても良いかもね」とアドバイスされました。

にこちゃん「森とスープの家」
にこちゃんは、とっても素敵なイラストを描いてプレゼンテーションしてくれました。提案したのは、具材を持ち寄ってスープを一緒に作り一緒に味わえる「みんなの家」。伊東先生からは、「自分の外側からでなく内側からイメージを考えているところが素晴らしい。これからもこの感覚を忘れないでね」と講評されました。

響くん「MUSICドット恵比寿4-7-8」
Dグループ最後の発表の響くんは、2年目の塾生として堂々と発表してくれました。提案したのは、演奏したい人が集まり音楽を生むことで、人がだんだん集まってくる「みんなの家」。全体がグランドピアノのかたちを模しており、ダイナミックな屋根と周囲の環境を映し出す金属の柱が特徴的です。伊東先生からは、「にこちゃんとは対照的なアプローチで建築的、構築的で力強くて良いね」と褒められました。

■ Eグループ

壮介くん「いろんな屋根の家」
壮介くんは欠席だったため、TAの平馬くんが代わりに壮介くんから預かった原稿を代読しました。提案したのは、赤ちゃんからお年寄りまで誰もがうきうきして一緒にいられる「みんなの家」。アストリッド先生からは、「ダイナミックな屋根で勢いがあって良いね。その想像力が素晴らしい。もっと敷地に合わせて一回りコンパクトでもよかったかもしれないね」とアドバイスされました。

時子ちゃん「水辺のひととき」
時子ちゃんは、1年目の塾生ですが、そんなことを感じさせないくらい落ち着いて発表してくれました。提案したのは、水辺を中心にして釣りをしたり、ハンモックに寝転がったり、思い思いの時間を過ごせる「みんなの家」。太田先生からは、「ここには色々な場所があって、それをちゃんとつないでいるところが素晴らしい。階段も1段1段デザインが違うのがおもしろいね」とコメントをいただきました。

瑠花ちゃん「ホッコリハウス」
瑠花ちゃんも2年目の塾生として、落ち着いてみんなのお手本となるような発表をしてくれました。提案したのは、足湯を中心につながる「みんなの家」。伊東先生からは「模型の1、2階のつくり込みがすごく良いよ」とコメントをいただき、アストリッド先生からは「足湯というアイデアはおもしろいけど、みんなというより1人1人の印象が強いからもっとみんなで楽しめる場を考えてみてほしい」とアドバイスされました。

周平くん「だんだんだがしや」
周平くんは、遠くにいる人にも伝わるような大きな声で発表してくれました。提案したのは、敷地にアプローチする続きとなって周りの風景に溶け込み、子どもと大人が駄菓子でつながる「みんなの家」。太田先生からは、「建物のかたちが道に沿うようにできていて、おもしろいね。ただ、駄菓子とみんなのいえについてもう少し考えるともっとおもしろくなるよ」とアドバイスされました。

■ Aグループ

知優ちゃん「百鬼夜光」
知優ちゃんはやや緊張していましたが、発表が始まるといつもの調子で発表できていました。提案してくれたのは、全体は花びらの外形をしていて下階は花屋で上階が自由に使える「みんなの家」。特徴的なタイトル名のため、柴田先生が「どうしてこのタイトルにしたの?」と聞かれた際、自ら持参した懐中電灯を取り出し、模型に当てて提灯のように光らせたので、スタジオではどよめきがおこりました。

士惟くん「放課後の螺旋」
士惟くんは、いつものように明るく発表して時にみんなを笑わせてくれました。提案してくれたのは、本を読む場所と育児所が同時にあり、ぐるぐると螺旋のかたちをした「みんなの家」。伊東先生からは、「プレゼンボードに大きく描かれた螺旋の断面図がすごく良いよ。社会性というものは、誰かがそこにいるという理由でそこに行こうと思えるものだけでも、十分社会性のある施設になりうるんだよ」と講評されました。

佑飛くん「グルグルダンダンガーデン」
佑飛くんは、プレゼンボードを本に見立てて分かりやすく発表してくれました。提案してくれたのは、みんなが自分の家から色々な本を持ち寄ってつくる庭園のある「みんなの家」。アストリッド先生からは、「プレゼンテーションが素晴らしいよ」と誉められ、太田先生からは、「建物にわざと暗い部屋を取り入れて、こもれる場所をつくったところが良いね」とコメントをいただきました。

■ Bグループ

美波ちゃん「花びらやねの仲よしハウス」
美波ちゃんは欠席だったので、代わりにTAの岡安くんが発表してくれました。提案してくれたのは、ばらばらでも一つにつながっている「みんなの家」。アトリエやリビング、さらにキッチンがあり、そこに行くだけで色々なことをしている人が一緒に過ごせる家です。アストリッド先生からは、「屋根がカラフルで良いね。プレゼンボードも写真に人が入っていたり、スケッチがあったりして、自分の考えていることがよく伝ったよ」とコメントをいただきました。

涼太くん「希望の芽 SPROUT HOUSE」
涼太くんは、2年目の塾生ですが、去年よりもさらに堂々と自分の考えていることを発表してくれました。提案してくれたのは、壁にゴーヤ、ハヤトウリ、いちごが植えられており、全体が芽のかたちをした「みんなの家」で、子どもからお年寄りまで楽しめます。伊東先生からは、「この提案は完成度が高いね。プレゼンボードの真ん中の写真がすっごく良いよ」と褒められていました。

ミアンちゃん「PANO HOUSE」
3年も子ども建築塾に通っているミアンちゃんは、自分のやりたいことを完全にかたちに落とし込んで発表してくれました。提案してくれたのは、自然と一体になったような布が揺らいだかたちをした「みんなの家」。伊東先生からは「自分のやりたいことをかたちにしていて素晴らしい」とコメントをいただき、小森先生は、「シーンによって細かく素材を切り替えているところがとっても良いね」と褒められていました。

道人くん「みはらしのいいアミアミハウス」
道人くんは、いつもの授業以上に元気よく発表してくれました。提案してくれたのは、壁がなく緑があふれていることで自然に触れ合える「みんなの家」。伊東先生からは、「プレゼンが分かりやすくてとってもよかったよ。自分で描いたスケッチも素晴らしいね」と講評されました。

■ Cグループ

友寛くん「ジャングルハウス」
友寛くんは、自分の考えてきたことをハキハキとみんなに発表してくれました。提案してくれたのは、ダイナミックな枝がつながって子どもから大人まで自由に使える「みんなの家」。太田先生からは、「いる場所によって透過度が違っていて良いね。歩いていて楽しそうな空間がしっかりとできあがっている」と褒められていました。

惇晴くん「植物の家」
惇晴くんは物怖せず落ち着いて発表してくれました。提案してくれたのは、りんごをみんなで育てて食べる「みんなの家」。伊東先生からは、「おもしろい提案だね。りんごをどんなふうに食べるのかな」とコメントされました。太田先生からは、「どんなテーブルで食べるのかもう少し細かいところまでイメージできればもっともっと良い提案になるよ」とアドバイスされました。

瑛理香ちゃん「青空にうかぶHAMON」
瑛理香ちゃんは欠席だったので、TAの高橋くんが代わりに発表しました。提案してくれたのは、子どもたちが実を摘み、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に調理して、みんなで食べられる「みんなの家」。伊東先生からは、「テーマである開放感が、メッシュや半透明な素材で上手に模型に表されているところが良いね。すごくバランスが良い案だと思う」と褒められていました。

来歩ちゃん「いすの家」
最後の発表者である来歩ちゃんは、ラストバッターとしておもしろい発想で会場を沸かせてくれました。提案してくれたのは、さまざまな大きさの椅子が時にはテーブルになったり、時には屋根になったりする「みんなの家」。伊東先生からは、「発想がすごいおもしろいね」と褒められ、アストリッド先生からは「椅子の脚の部分だけでなく座面も大きくなるともっとおもしろい案になるよ」とアドバイスをいただきました。

これにて無事に全グループの発表が終わり、最後に助手、講師の方々から全体講評がありました。

まず助手の小森先生から。「授業が進むにつれ、みんなの模型がだんだんと進化して積み重ねとして目に見えたことがおもしろかったです。それができたのもTAとよく話し合えた結果だと思います。後期も引き続き頑張りましょう!」

続いて助手の柴田先生から。「今回の発表会は、もっと話を聞きたくなるような提案が多かったです。つまりそれがどういうことかというと、みんなの家という抽象的なテーマに対して一人ひとりが個人の体験や思いから考えられていたからだと思います。」

そして後期からまちの授業を担当する講師の太田先生から。「今回の課題は、三角形で周囲に閉じた敷地の中でみんなの家を考えるというものでした。敷地が閉じた性格を持っていた分、案の中身が濃いものが多かったような気がします。後期は今回の課題とは正反対で周囲に開いた敷地で案を考えなければいけません。楽しみにしていてください!」

続いてアストリッド先生から。「みんな想像力があって素晴らしい発表でした。みんなの発表を聞いていると、建築の可能性ってまだまだあるんだなと思えました。後期もワイルドでクレイジーな案を期待しています。」

最後に、塾長の伊東先生から。「今回は、具体的に敷地を設定したのがやっぱりおもしろかったですね。今回の課題でみんなに考えてもらったことは、実は建築を考えるときに一番大切な根っこの部分なんです。人はやっぱり自然の中にいる方が気持ち良いと感じる。自然の中にいるときの気持ち良さをアイデアの根っことして大切にしながら、建築としてどうやって現実の条件に当てはめて完成させるかが重要なんだよ。だから、今回根っこの部分を考えられたのは本当に良かった。後期も根っこを大切にして頑張ろうね!」

伊東先生の講評が終わり、2時間30分にも及ぶ前期第10回「みんなの家」の発表会を無事に拍手で終えることができました。

今回の課題を振り返ると、TAやグループ内のコミュニュケーションがより求められた課題でした。「みんなの家」を考える上で抽象的に「みんな」を考えるのではなく、まずは隣にいるTAや友達を「みんな」の中のはじめの一人として考えてコミュニュケーションを取ることができた結果、イメージがだんだんとふくらんでいき、発表会ではみんなで共有できるものになりました。

後期のまちの授業は、個人だけでなくグループ内でもイメージを共有しなければいけません。前期のようにたくさんの人とコミュニケーションをとることで、グループ内で描いたイメージを、最終的にたくさんの人と共有できる建築へと成長させていってほしいです。

工学院大学大学院修士2年 関野雄介