大三島建築スクール 2日目

2020年04月21日

みなさん、こんにちは。
2019年8月5日,6日に行われた大三島建築スクール2日目の様子をお届けします。(1日目の様子はこちらからご覧いただけます。)
今回は『空き家をつかって大山祇神社参道をにぎやかにしよう!』というテーマで、OPEN Aの馬場正尊さんを講師としてお招きし、大三島を舞台に建築スクールを行いました。

1日目の終わりにみんなでBBQや花火をして、前日より打ち解けた雰囲気で朝から作業がスタートしました。
午後には発表会が控えているので、午前中に模型やプレゼンボードを終えなければならず、ラストスパートです!
それぞれのグループで、模型の仕上げ、模型写真の撮影、プレゼンボードの作成を進めていきました。

今回のワークショップはグループでの提案のため、地元の学生と子ども建築塾の卒業生でそれぞれ得意な部分を生かして発表の分担も考え、短い時間でしたが練習を行いました。

お昼ご飯を終えると、発表会の始まりです!
今回の建築スクールの会場である大三島公民館には続々と島の方が集まり、満席に。
子どもたちも大勢のお客さんを前にして少し緊張した様子です。

まず最初に今回の建築スクールの講師である馬場正尊さんから課題の説明がありました。
今回の課題は「ぼくらの未来の場所と仕事をつくる」です。

中高生の課題は「空き家のリノベーション」。
子どもたち自身が5年後の未来を想定して当事者となり、大山祇神社の参道沿いの空き家のリノベーションを提案します。

小学生が取り組むのは「参道マーケットの屋台づくり」です。
毎年5月に参道で行われる参道マーケットに自分たちが出店することを考え、その際の屋台をみんなで考えます。

二つの課題に共通することは、自分たちが「当事者」となることです。まちの理想の風景を考え、そこで自分は何ができるかを考えてほしい、と馬場さんから改めてコメントがありました。

いよいよグループごとの発表が始まります!

【空き家3チーム】
トップバッターは空き家3チーム。

空き家3_外観


空き家3_内観

このチームはもともと銀行で後にスナックに改修された「スナック純」のリノベーションを提案します。スナック純から頭文字「J」をとって、サイクリストが多く訪れ、大三島に多世代の人が集まる使われ方を考えました。

サイクリストが気軽に食事できる場所ーサイクリストでも入りやすいよう、自転車置き場や椅子に工夫がされた「J土間」。
地元のおばあちゃんが料理を振る舞い、多世代の人が触れ合う「Jキッチン」。
将来介護の仕事に就きたいと考える学生のアイデアで、カウンター内には畳敷きのスペースを設け、壁も暖色にし、おばあちゃんが休めるような工夫が。

芝生の床でゆっくり休める2階の「リラックスJスポット」は、吹き抜けから自分たちの自転車を眺めることができます。
他にも、サイクリストが疲れをとるための「Jマッサージ」や「Jシャワー」が設けられています。
この建物の大きな特徴でもある吹き抜けも「J吹き抜け」と名付け、カーテンを開閉することで建物全体を明るくします。

馬場さんからは、この建物の特徴である立体的な吹き抜けが活かされた上で、”結節点”となる空間の特徴を活かして“訪問者であるサイクリスト”と“地元のおばあちゃん”という関わりを持たなかった人たちが出会う場をつくっていることが素晴らしいと、コメントをいただきました。

カウンター内におばあちゃんの休めるような空間をつくるなど、大人には思いつかないような優しいアイデアにほっこりしました。

この班は、名前を付ける際に元のスナックの頭文字を取ったり、看板を残したり、と以前の使われ方を大事に考えているのが伝わってきました。
その中で「J」を多用したネーミングにも遊び心があって、聞いていてとても楽しい発表となりました。

 

【空き家2チーム】
続いて、空き家2チームは古民具が展示されていた「侍屋形」を「みんなのひろま」にリノベーションする提案をします。

空き家2_外観


空き家2_内観1階


空き家2_内観2階

「みんなのひろま」は島の人が気軽に訪れることができる、家とは別の居場所になります。
島の人々の活動を支えるコミュニュケーションの取れる場として、広い空間・中庭・家具など様々な面で工夫が凝らされています。



カフェと工房がある1階は畳敷きなので、参道を見ながらゆっくり座ったり、子どもが自由に遊ぶことができます。
イベントスペースはレンタルや教室の使い方に合わせて、ふすまで部屋の大きさを変えられるようになっています。
大三島の魅力や侍屋形の特徴を生かした古建具や廃材を使った現代アートのギャラリーもあります。ガラスには雰囲気のある昭和時代のポスターを掲示し、カフェからも見えるようになっています。

2階には座布団のある和室があります。中庭に面していて自然を感じながら本を読めるスペースになっています。家具や建具も自然の明るさを利用できるよう、ふすまを使っています。

「大三島みんなの家」に続く“みんな”シリーズで島に根付きそうな雰囲気があったり、模型写真の雰囲気がとても良い、と馬場さんからコメントがありました。中庭の緑が参道から見えることで「誰でも入っていいんだ!」という雰囲気が出て、島の人たちを中に導けるようになっていると先生方も分析をして下さりました。

 

【空き家1チーム】
3軒目は、空き家1チームが「ぐだっと」という名前のレンタルスペースを考えました。

空き家1_外観

5年後、自分たちが大三島で何をしたいのか、何があると良いかを考えたときに、「自分たちがやりたいことが始められるような場所があったらいいね」という学生たちの考えから、レンタルスペースにリノベーションすることにしました。
チームのみんなそれぞれ自分がレンタルスペースを借りるとしたらどのように使いたいかを考え提案します。


島には映画館がないので、週に1度開館し、みんなで集まれる「たまに映画館」。


図書館とは違い、お菓子や飲み物を食べて話をしながら勉強のできるオープンな場所。


既存の囲炉裏を生かして、島の食材を使った料理を振る舞うごはん屋さん。


夏祭りや花火大会のときには着付けやヘアアレンジを行うサロンスタジオ。
地元の人が情報を持ち寄り、観光客との交流が深まる案内所。

上記のように、たくさんの魅力的な使われ方が提案されました。

レンタルスペースの他にも、「島マップ」「小鳥の遊び場」「土間カフェ」を設けています。

参道から建物に入ってすぐには、大三島の観光地図「島マップ」があります。ご飯の美味しいところ、イノシシが出るところ、景色のきれいなところなど、島の人しか知らないような情報を書き込んで、みんなでここだけの観光マップをつくり発信します。

レンタルスペースの奥には「小鳥の遊び場」という名前の中庭があり、ベンチでゆっくりと休むことができます。

レンタルスペースの用途に合わせて食べ物や飲み物を提供する「土間カフェ」は中庭を通り抜けた奥にあります。ここではレンタルスペースの貸し借りの管理・受付を担います。

これらの使われ方をオーナー目線でタイムスケジュールにして発表してくれた子もいて、現実味のある発表となりました。

馬場さんからは「地方都市ならではのレンタルスペースの発明だね!」とコメントがありました。
レンタルスペースの役割はとても曖昧で、だからこそ個人のアイデアでどんどん可能性が広がることが魅力的で、夜に中庭で映画を上映することで参道に光が漏れ出たり・・と想像力を広げてくれました。

新居浜南高校の田村先生からは、「島には観光案内所がなく、地元学生の参道ガイドだけでは大変な中で、地域の人が支える案内所があることはすごく島のためになりそう」と、かつて大三島分校に勤務していた先生ならではの感想が伺えました。

 

【子ども屋台チーム】
最後の発表となる小学生チームは、参道マーケットに出店できるような屋台をそれぞれ考えました。

前日の自由時間に海で集めたシーグラスを使ったアクセサリーや、分校の先生が制作している大三島の島ストラップ、大三島名物のみかんジュースなど、売るものも考え、それらを上手に魅力的に売るためのかたちを考えてくれました。

前日の参道ガイドの説明にもあった大三島のシンボル、鳥居のかたちを生かした屋台。
シーグラスの水色とみかんのオレンジを中心に使った明るい色使いの屋台。
屋台全体をみかんに見立てて、一番上にはみかんのヘタにモチーフがついた可愛らしい屋台。
名物のみかんだけでなく、みかん箱まで利用する屋台。
低い台が設けられている小さい子にも優しい屋台。
みんなが大三島に来て数日で見つけた魅力が存分に詰まった屋台ができました!

中高生に続いての発表でしたが、色やかたちに全て理由があったり、売るモノとの関連があり、すごく丁寧に自分たちの情熱が伝わるプレゼンの準備がされていた、と先生方からもコメントがありました。

馬場さんからは、シーグラスやみかん、みかん箱など大三島にあるものばかりでできていて「地産地消」がかたちにまで表れている点に地域性が出ていて、参道マーケットにぴったりだとコメントをいただきました。

最後に4つのグループの発表全体に対して、講師・ゲストの皆さんから講評をいただきました。

馬場正尊さん

小学生から高校生、島の学生と東京の学生が混ざり合ったワークショップで最初はどうなるかと思ったけど、想像以上の提案が出てきて驚きました。

中高生の提案は全体として、地域の人にもハッピーでありつつ外からもポッと関われる、ただ一緒に居られるゆるやかで優しい場所が多く見られました。そのゆるさをつくろうと思わせることが大三島の地域の魅力だと感じます。

小学生チームは、とても想像力が豊かだった。2日間で見せてくれたみずみずしい感性を持ったまま大人になってほしいです。

伊東建築塾自体のゆるく地域とつながる活動、地元の先生方の優しくも情熱的な子どもたちへの接し方、どちらもこれからも大事に続けていってください。

 

柳澤潤さん

どのチームも、①地域のこと②観光客のこと③自分のやりたいこと、というプロジェクトに必要な3点を欠かさずに考えられていたと思います。
「やりたい!」という気持ちを外に出すのは大学生などにとっては意外と難しく、それを素直にやっていることに感動しました。

東京から来た子どもたちのエネルギーをぜひ地元の小・中学生にも伝えて、さらに巻き込んで面白い活動ができることを期待し、このような活動を伊東建築塾でも継続していきたいと改めて思いました。

 

田村先生(新居浜南高校教諭)

初日にはなかなかアイデアが浮かばなかった新居浜の生徒たちが、2日目には黙々と作業をして進めていたので、伊東建築塾の子どもたちやTAの人たちと一緒にやることでうまくアイデアが引き出せたのではないかと感じました。

4つのチーム、どれも本当に素晴らしく、本当に実現してほしいと思いました。考えたことをどうやって相手に伝えるのか、というプレゼンテーションもこれからは大事にしてほしいです。

 

阿部先生(大三島分校教諭)

大三島はたくさんの魅力がある場所だけど、課題もたくさん抱えています。地元の協力もまちまちで、ワークショップを開催しても参加者が多く集まらないという現実もあります。今回のような取り組みを島の人たちにももっと幅広く知ってもらわなければいけないと感じました。

今回参加した子ども・学生たちは、何か得るものがあったはずなので、こういった機会を大事にしてほしいです。また、自分が楽しむことを大切にしてほしいです。

 

伊東史子さん

小学生や中高生のタイミングで馬場さんから直接お話を聞いて、物事に取り組む機会があることが羨ましいなと思いました。5年後、10年後にこのワークショップで植えた種から芽が出たり花が咲いたり、ということがあるんじゃないかな、と思います。

大三島から様々な種が育っていく瞬間に立ち会えて光栄でした。

 

川上純子さん

大三島を訪れるのは3回目。月日を経て、島には面白いものや活動が少しずつ増えてきています。これは移住した方や地元の方々の努力によるもので、苦労もあると思いますが、いい流れがあると感じました。

自分の地元の地域おこし協力隊の活動と、大三島での伊東建築塾の活動とをパラレルに見てきたところがあり、子どものときに海や山など豊かな自然に触れる体験があることが、どちらにも共通しています。そういった体験が今日の発表につながっていたのだと気付かされました。

東京から来た子どもたちもすごく刺激を受けたと思います。

 

大三島分校 二神分校長

今日の活動を通して感じたキーワードは「持続可能な目標」(SDGs)。

今回のような取り組みを持続可能なものとしていくためには、伊東建築塾と大三島分校が核になっていかなければならないと改めて感じました。

小学生から高校生だけでなく、大学生のTAや講師の方々まで色々な世代の交流を通して気づくことがあると思います。どうしても大人になると柔軟な発想が出てこなくなり、すぐに答えを導き出そうと、じっくり考えることができなくなってしまう。けれど、今の時代だからこそ、じっくり考えて、地域をなんとか良い島にしていくという視点が大事なのかなと感じました。

大三島は神の島と言われており、自然が豊かで人間も優しく、都会から来ても魅力のある島だと思います。こういった島の良さ、そして分校が、いつまでも残り続けていくことが大切だと思うので、今回関わってくださった方々には今後も大三島のことを広めていただいて、今日の提案が1つでも2つでも現実となるようにがんばっていきたいです。


 

今回のワークショップでは、2日間を通して実際に大三島で過ごし、参道を見学した体験から感じた島の魅力と課題に、参加者全員がそれぞれの視点で向き合っていたように感じます。課題の「自分が5年後に何かするとしたら」という設定が、自然と自分が当事者となるものだったのではないかと思います。

また、東京から訪れた生徒たちが見つける新鮮な大三島の魅力と、地元の学生から聞く島のリアルな生活や課題がうまく共有されることで、新しい提案がたくさん出てきたのではないかと思い、東京と大三島の学生が一緒に課題に取り組むことも、すごく意義があると感じました。

夏休みの2日間、タイトなスケジュールで大変なこと、慣れない発表で緊張したこともあったと思いますが、密度の濃い他では経験ができない時間になったのではないでしょうか。
このワークショップで終わらずに、ここで得た経験や楽しさが、今後も島の活性化や伊東建築塾の活動にそれぞれ生きてくることを期待しています!

東京工業大学大学院 塩田佳織