子ども建築塾 後期第4回

2011年12月20日

この日は麻布十番に子ども達が自分で選んだ敷地上にどんな建物を建てるか、計画をたてました。
子ども達はそれぞれ、対象敷地の1/100スケールと1/200スケールの図面を手渡され、その上に自分のなんとなく思い描くプランを重ねていきます。前期までは敷地という拘束がなく、好きなように建築をそれ単体として設計するだけでしたが、今回は敷地という条件の中で設計することに苦心している子も多いようでした。

一番驚かされたのは、敷地決めです。前回のまち歩きのときに、各々麻布十番の街を歩き、自分の設計したい敷地を選定しました。みんな好き勝手に敷地を選んでいるので、当然人気の敷地というものがでてきます。倍率が高い敷地は、この広い麻布十番の中で、3人もの子ども達に選ばれていました。
敷地がかぶった場合はしょうがないので話し合いで決めるということになっていました。正直に言うと、小学生の子ども達が話し合いなんかで物事を決められるはずがないと、私は思っていました。しかし、いざ話し合いを始めると譲り合いが始まり、またある子ども達は重なり合った候補地を二つに分譲し、共同で設計を行う計画までたてはじめます。
話し合いの中で徐々に、敷地同士の関係性が生まれ始め、そこに建つ建物の機能によりいっそうの深みが増していきます。
その日たまたま私は、サリンジャーの”The Catcher in the Rye”という小説を読んでいました。有名なので読まれた方も多いのではないでしょうか。体制的なものに批判的な小説などというのが一般的な見解ですが、云々以前に物語として非常に面白く、読後になんだか無性に寂しくなる、すてきな小説です。その小説の主人公にはPhoebeという小学生の妹がいるのですが、これがとても良い子なのです。子どもらしい気質の荒さも持ち合わせているのですが、人の感情に寄り添おうとする限りない優しさを持ち合わせている少女として描かれている。私はこの小説がとても好きなのですが、読んでいてそのPhoebeというキャラクターにだけはなんだか疑問を抱いていました。というのも私には妹がおり、彼女はPhoebeからはほど遠い。だからなんだかPhoebeというキャラクターそのものに感情移入できなかったのかもしれません。
支離滅裂になりましたが、なにが言いたいかというと、今回の子ども建築塾を終えて、そんなキャラクターもいてもおかしくないのかなと思い直したということです。


話がずれてしまいましたが、もう一つ、子ども建築塾が疎かにしていたあることを少し後悔した出来事がありました。それはスケール、縮尺についてです。
ある一人の男の子が、それなりに広い敷地を選んでいたにも関わらず、それですら小さいと言い出しました。どういうことだろうと、話を詳しく聞いてみると、2000mタワーを計画したいから、下層部がどっしりとしている必要がある。だからもっと大きな敷地に変更したいというのです。世界一高い建造物でさえ1kmにも達していないのに、いきなりその倍を目指すわけです。彼の設計テーマは「待ち合わせ場所」でした。だからなるべく高くして、目立つようにしたいわけです。2kmもあったら間違いなく待ち合わせの目印にはできそうです。彼が描いてきたスケッチはとても魅力的なものばかりですし、豊富なアイデアも持っている。しかし今回、みんなには模型を1/100スケールで作ってきてもらうことになっていました。2kmの1/100というと20mです。これではエレベーターどころか、塾の内部にもはいりません。
さすがにそれは無理だと思ったのか、次にでてきた案は200mタワーです。いっきに縮みましたが、これでも1/100で作ると2mあるわけで、私の身長すら超えてしまいます。
まあこれは極端な例ですが、みんなこのように実際のスケールと1/100スケール、それを実際の敷地の大きさに連動させながら建物の大きさを考察することに苦心しているようでした。逆にそのような計算をすいすい行えている子はどうも、頭の中で敷地そのものがイメージできているようで、この図面上にこれだけの大きさでこの絵を描いたら、実際の敷地にはこんな大きさで建ちあがるんだという連動が行えている。
建築においてこのスケールという概念は嫌になるくらい重要なものですし、もう少し時間をかけてもいかもしれません。

今日は最後にいつも伊東建築塾を手伝ってくれているボランティアの学生の皆さんと懇親会を行いました。慶応義塾大学、昭和女子大学、千葉工業大学、東京大学、東京理科大学、法政大学などなど。いろいろな大学の方々が毎度活動に参加してくださっています。
懇親会には東京大学の太田浩史さんの研究室の学生達も参加し、伊東さん、村松さん、太田さんを囲んで楽しい会となりました。
ボランティアの皆様にはいつもお世話になっております。この場で改めてお礼申し上げます。これからもよろしくお願い致します。