講座A 特別講座「アキッレ・カスティリオーニの展示デザイン」

2012年09月21日

9月13日、伊東建築塾神谷町スタジオにて、講座A 特別講座「アキッレ・カスティリオーニの展示デザイン」を開催しました。

今回は、現在ローマを拠点に、演出家、アーティストとして活躍中の多木陽介さんを講師にお迎えし、アキッレ・カスティリオーニの『誘導の科学』に基づいてデザインされた展示空間について、写真や動画を交えながら、レクチャーを行っていただきました。

はじめに多木さんは「最近、印象に残った展覧会は?」と会場に問いかけました。

伊東塾長は「もちろん、ヴェネチア・ビエンナーレですよ!(笑)」と答え、続いて最前列に座った数名の聴講者が、過去に観た展覧会名とその印象を答えていきました。

質問の後、多木さんは本日の主題である展覧会の目的について、「一過性である展覧会の印象を、観た人の記憶に永遠に残すこと」と語りました。

イタリアの建築家・デザイナーであるアキッレ・カスティリオーニ(1918〜2002) は、展覧会を映画に例え、どのようなシナリオで、いかに効果的に演出するか、ということに重点を置いていたそうです。

一般的な展覧会は、あるテーマに沿って専門家がキュレーションし、建築家やデザイナーが空間をつくりますが、カスティリオーニは、展覧会場における観客の振る舞いを分析した上で、あらゆるタイプの鑑賞者を退屈させずに楽しませるため、様々な方法を用いて演出を仕掛けました。

まず、演出のポイントとして一つ目に挙げたのが「合理的配慮」です。

見やすく、分かりやすい展示構成を心がけ、展示物と目線の高さの関係にこだわったり、壁面に貼られたキャプションの流れ(左から右へ書かれている文字の方向)にそって、展示の順路を敷きました。

また、他者による優れた配慮の例としてスイス・ベルンにあるパウルクレーセンター(設計:レンゾ・ピアノ)を挙げ、絵の正面に立った人に照明が当たらないようにすることで、絵を保護するガラスに影が写りこまないように設計されていた、と解説されました。

続いて、二つ目に挙げたポイントは「変化」ですが、ビジターの経験に刻一刻変化があることが注意力を引き続けるためには大事なのです。

例えば、カスティリオーニは「光と影がないと音楽にならない」と言ったそうですが、これは光によって単調な空間にリズムをつけ、抑揚をつける手法を喩えた言葉です。

また、日本の回遊式庭園のように、連続する空間の先まで見えないように空間を構成することで、
その先に続く空間への期待を高める効果を用いた、と動画を見せながら解説されました。

三つ目に挙げたポイントは「驚異」です。

広大な展示空間では、あえて天井高を2m程度の低さにおさえることで、より水平方向の広さを強調したり、別の事例では、鏡を対面させ反復を仕掛けることで、空間に奥行きを生み、人が驚くような見せ方を見事に表現した展示を紹介しました。

また、80年代にフィレンツェで開催されたファッションの展覧会では、グラフィックを大胆に活用し、カタログを巨大に拡大した壁面をつくることで、キャプション等の文字情報で語らなくとも、グラフィカルに伝えることを意図していたそうです。

こうした展覧会をつくるノウハウは、一時は消費空間のデザインに吸収されてしまいましたが、
現代では再び文化空間に取り入れられている、と多木さんは指摘します。

具体的な事例として、かつて証券取引所だった建物をリノベーションしたボローニャの図書館を挙げました。一般的な図書館は、入口を入るとすぐにカウンターがありますが、ここではカウンターは奥まった場所に位置しており、入口付近にはカフェがあり、待ち合わせの場所など、図書館を利用しない人にも気軽に訪れてもらえる場所となっています。

このように、人々がフィジカルに出会い、コミュニケーションをとる場所が街に戻りつつある、と多木さんは語り、レクチャーを締めくくりました。

その後は、伊東塾長や聴講者から、カスティリオーニのデザイン論についての質問も飛び交い、活発な議論がなされる中で、本講座は幕を下ろしました。

長時間にわたって熱心なレクチャーを繰り広げて下さった多木陽介さん、最後までご清聴いただいた来場者の皆様、ありがとうございました。