会員公開講座 平田晃久+山下保博「新しい集住体と暮らし方」

2014年03月01日

2014年最初の公開講座が、2月15日恵比寿スタジオにて開催されました。前日には関東甲信地方に今季2度目の記録的な大雪が降り積もり、この日も足元が大変悪かったにもかかわらず、講師のお二方はもちろん、多数の会員の方にご参加いただいたことを感謝しております。

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この日の公開講座は、釜石で一昨年の11月から行われている「かまいし未来のまちプロジェクト」の災害復興公営住宅のプロポーザルにて最優秀者として選定された、建築家の平田晃久さんと山下保博さんにお越しいただきました。しかし残念なことに、この2つの公営住宅の計画、現在はほぼ御破算になりかけているそうです。そのことも踏まえ、お二方には被災地で設計をするということ、それにともなう諸問題など、実際に経験したからこそ感じられた様々な想いを語っていただきました。

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まずは平田晃久さんからお話いただきました。平田さんが手がけたのは釜石市天神町の公営住宅+子ども園の計画でした。そこで平田さんが挙げられたコンセプトは次の3つです。

1.道によって地形をととのえる
2.みんなの場所に屋根をかける
3.流れをモデレートする。

1つ目のコンセプトは、震災以降どのような建築がありえるかと考えたときに、自然とからみ合うようなまちをつくっていけないかというところから着想されたそうです。その際に目に留まったのが、この地域の道の成り立ちでした。谷筋沿いにかたちづくられた道、そこにまとわりつくように建てられた諸建築。その関係を本計画に投影し、道から地形を再構成するという発想に至りました。そこに寄り添いはまるように設計された建築は、集合住宅というよりも集落に近いかたちをイメージされたといいます。

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2つ目の「屋根をかける」というコンセプトは、抽象的な建築よりも“そこに家がある感じ”を目指して生まれたもので、それは「みんなの家」の経験から来たものだったそうです。ただ屋根をかけるといってもその造形に終始するのではなく、そこで起こっていることに対して屋根をかけられないかというのがテーマでした。それはコンペの条件であったリビングアクセスに対してふさわしい建築を提案するということでもあり、無味乾燥な仮設住宅の住まい手が、自分たちの手で庇をつくったり、干し柿や盆栽を並べて必死につくろうとしている家としてのクオリティーを引き出せないかという想いが込められていました。

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そのようにして生まれた屋根のコンセプトでしたが、さらに風をガイドするものとしても屋根をとらえられないかという考えから、3つ目のコンセプトにつながっていきます。しかし現地での住民説明会を通して、釜石の自然環境に対する認識の足りなさを痛感させられたといいます。その意見を持ち帰り、アラップと共同でより詳細な環境面の検討を行いました。再び現地に持っていった際には、住民の方も理解を示してくれたそうです。

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そのような作業を通してつくられた最終的な案は、合理性も考慮し、計7種のユニットを少しずつずらしながら組み合わせる建築となりました。

一方、子ども園は、廊下をなくして要求面積を最も効率よく解きながら、素朴な中にもまちのような楽しさや様々なスケールが共存する建築として計画されました。

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このようにして実施設計を終わらせたまでは良かったのですが、いざ入札に入ると途端に雲行きが怪しくなってきました。計3回の入札にかけるも折り合わず、結局デザインビルド方式に変更して再募集、つまり平田さんはこの公営住宅から一旦手を引かないといけなくなったそうです。このような建築は、今の被災地の状況ではどうやっても難しいというのがひとつの現実のようです。もっとできることはあったのかもしれないと、平田さんも頭を悩ませたといいます。子ども園の計画はまだ進行中とのことです。

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次に、山下保博さんがお話をしてくださいました。山下さんはまずご自身を3つの立場から紹介されました。1つはアトリエ天工人を率いる建築家として、2つ目はN.C.S(ネットワーク・コンストラクション・システム)という阪神大震災をきっかけとして発足した復興支援NPOの理事長として、最後は山下保博さん・水上健二さん・松野勉さんの3つの建築事務所の連携によるTeMaLiアーキテクツとしてです。

次いで山下さんたちは、移築をテーマとした笑顔の再生「モバイル・すまいる」プロジェクトや、津波をかぶった土を建材とした戸倉備蓄倉庫などの特徴的なプロジェクトを紹介してくださった後、本日の主題である公営住宅のお話に移られました。

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山下さんたちが手がけられたのは、釜石市唐丹町の公民館と災害復興公営住宅の計画です。これは先ほどの平田さんのコンペに次ぐ「未来のまちプロジェクト」第2弾として実施されたものでした。TeMaLiアーキテクツとして設計を担当されたこの計画は、残された石蔵を活かすという条件から「蔵とくらす」と名付けられました。しかしそれは、決して残っている“物”だけに着目しているわけではありません。この唐丹町では、海側の約1/3が津波で流されてしまったそうです。そのような中で建築をつくる者として何を残してあげられるかと考えた末に行き着いたのは、物が持っているかたち以上にその“記憶”を引き継いでいけるのではないか、人々の記憶をつなげる場所でありたいということでした。

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それを実現するために山下さんは、この土地の特性として豊かなコミュニティを指摘し、大中小という3つの大きさのコミュニティスペースを想定しました。大きなコミュニティは公民館を中心とし、日常的に使われることで土地のシンボルとなります。中くらいのコミュニティは住民が憩う共有の広場、また海際の町に特有の、濡れた物を外でさばく場所としても機能します。小さなコミュニティは小津安二郎監督の「東京物語」を彷彿とさせるような隣近所の関係性です。山下さんはコミュニティをキーワードとし、住民の方と何度もワークショップを重ねました。意識されたのは、絵や写真をふんだんに使いながら、できるだけ分かりやすく伝えることだといいます。2013年3月に実施された第1回目のワークショップでは、写真を貼り出して具体的なイメージを持ってもらいながら要望を聞き取り、その翌月に行われた2回目のワークショップでは体育館に原寸大の模型を製作しました。このワークショップを通して出された小さなコミュニティに対する「通路に面した窓はできるだけ大きくして欲しい」という要望は、山下さんを驚かせるものであったと同時に、この地域のコミュニティの豊かさを再確認させるものでもありました。

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このようにして住民の方とも親交を深め、充実したものとなっていたこの計画でしたが、またしても立ちはだかったのが入札の壁でした。昨年末に行われた施工入札は不調に終わり、今春には買取方式への変更が予定されているそうです。山下さんは、住民の方々とも仲良くなり、この土地にいい建築を残せるのは自分たちだという想いを抱きながらも、なかなか実現に至らないそのはがゆさを吐露されていました。

 東北の復興はまだまだです。そこからは、改めてまちづくりというものに要する年月の長さが感じられます。山下さんは最後に、これからも震災を意識に残しながらできることをやっていきましょうと述べて、レクチャーを締めくくられました。続いて伊東塾長との対談や質疑応答へと移り、この日参加者としてお越しくださった建築家の難波和彦さん、遠藤勝勧さん、柳澤潤さん、水上健二さんなども交えながら、たくさんの興味深い議論が交わされました。

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伊東塾長はこの「かまいし未来のまちプロジェクト」の経緯について説明されつつ、誰が手がけてもこんな小さなプロジェクトでさえ実現が難しい現状の不可解さを訴えられました。このような状況を踏まえた上で、デザインビルドの可能性や、建築家に求められる役割、あるいはもっと大きな社会の枠組みなどについて様々な意見が飛び交いました。

その中でも共通した見解として挙げられたのは、少しずつでも部分的でも計画を実現させていくということでした。何か見えるかたちとして、建築ができれば、他のまちも変わるのではないか、事態は動いていくのではないか。はっきりとした答えはまだ見えませんが、その希望を捨てないことが、建築家の役割なのかもしれません。

 冒頭にも触れましたが、この日は前日からの積雪により大変足元が悪い状況でした。そのような中、足を運んでくださった参加者の皆様、ならびに貴重な講演をしてくださった平田さん、山下さんのご両名様に、厚く御礼申し上げます。

 石坂康朗