塾生限定講座 東海林弘靖「光の空間デザイン」

2014年08月13日

7月4日、照明デザイナーの東海林弘靖さんによる講座が行われました。前半では照明デザインの方法や光の基本的な考え方についてのレクチャー、後半では実際に模型を触りながら、様々な光を出す装置を用いて簡単なワークショップを行いました。

はじめに伊東塾長より東海林さんの紹介がありました。最初の出会いは、横浜駅西口にある「風の塔」のプロジェクトだったそうですが、東海林さんは当時、ヤマギワの照明デザインセクションに在籍していたそうです。

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東海林さんのレクチャーが始まると、まずは光の空間デザインについての話となりました。照明デザインとは、設備設計として照明器具の照度計算等を行うのではなく、光を使って空間をデザインすること、また、照明デザインは感覚的に行っていると思われがちですが、かなり科学的に数字を調整しながら進めていく、とお話されました。

ここから、光の基本的な話が始まりました。朝・昼・夕方・夜の太陽の色温度と照度、それらの光の違いを数字を示しながらの説明がありました。特に印象的だったのが、夕方から夜に移るときに起こるブルーモーメントという現象でした。これは光の中のオレンジと青の成分の関係により起こる現象とのことですが、北欧の方だと数時間、日本でも晴れているときは十数分間観測できる、言わば地球規模の間接照明です。北欧の写真を見せていただいたのですが、何とも言えない美しさを感じました。

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次に、いくつかの自然現象の光の写真を見せていただきました、アラスカのオーロラ、モロッコの満月のサハラ砂漠、満月の写真にちなんで暗順応の話がありました。東海林さんいわく、都会の生活だと、夜になっても暗闇にならないため、そのうち暗順応の機能が低下するかもしれないとのことでした。

そして、東日本大震災の話題に移ります。震災の後、電力をなるべく使わなくしようと世の中の風潮がありました。そのとき、東海林さんは照明デザイナーの存在価値について色々と悩んだそうです。

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そのような折に、パプアニューギニアにある蛍の木を見に行くというTVの企画がありました。電気が通ってない離島に住む人々は、自家製のランプの灯りで生活しています。そこで村長さんに『皆にとって照明とは何ですか?』と質問したところ、『我々にとって照明とは命のシンボルである。ランプが灯っていればそこに人がいる。火が灯っていれば安心する。』と答えられたそうです。
私は震災後、東北に通っていた頃、夜に福島県飯館村を通ったときのことを思い出し、胸が熱くなりました。

そして、東海林さんが「ここで死にたいと思った」という程すばらしい光に包まれた、夕方のラグーンの写真を見せていただきました。

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続いて、光の原理についての話題に写ります。光とは電磁波の一種で、人間の可視化できる領域は380~760ナノメーターで、他の動物は見える範囲が広いそうです。また、光の三原色が赤・青・緑であることを説明した上で、簡単な実験を行いました。懐中電灯にそれぞれの色のセロファンを巻いて、白い紙の一点をめがけて三色を投影すると、重なった部分は白くなります。また、そこに鉛筆を立てると、その影が三色に写るという、単純なようで驚きのある結果となりました。

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そして次は、実作を見ながらのお話となりました。風の塔、フランクフルトのオペラハウス、ホテルP、せんだいメディアテーク、イタリアと日本 生活のデザイン展、まつもと市民芸術館、TOD’S表参道ビル、MIKIMOTO GINZA2、瞑想の森 市営斎場、座・高円寺、東京マザーズクリニック、伊東豊雄展、ヤオコー川越美術館などの実例をご紹介いただきました。
中でも私が印象に残ったのは、ホテルPでした。ガラスブロックのキューブが発光していて、とてもきれいでした。今は営業していないそうで、とても残念です。

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実作を説明していただいたときの印象的な言葉は「建築の隙間からにじみ出る光」「光らせたいところに光を当てるのではなく、こらえながら当てる」「設計者とシンクロしながら物を考える(イタコのように)」「模型でスタディするときでも、光と影は本物である」「CGより模型の方がアナログだけど発見が多い」等でした。

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ひと通りレクチャーが終わると、今度は伊東塾長との対談が始まりました。

東海林さんからは、「建築をつくる人の頭の中に入っていくと良いものがつくれる」「建築ができてから照明を考えても良いものができない」「建築と不整合な照明が一番良くない。例えば白い天井は反射板になるのだから、照明デザイナー抜きで塗装の仕上げとして艶が決められてしまったときはどうしようもない」「できればコンペの段階から一緒につくっていくのが理想的」といったたくさんの興味深いお話を伺いました。

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そして後半のワークショップが始まりました。
瞑想の森 市営斎場、川口の斎場、ヤオコー川越美術館等の模型が用意され、3つのグループに分かれて、様々な照明装置を使いながら、実験を行いました。実際に試してみた後に東海林さんから「頭で考えるよりも、やってみて発見できるのが一番良い。頭だけだと経験の限界を超えられない。偶然かもしれないけれど、模型で発見したことを後から頭で考える、というつくり方が一番面白い」と解説がありました。そして、「照明は最後まで出来映えが分からない。だから照明デザイナーは、心配させないというのがまず必要で、信頼関係を築いて、先導する。ときには良い意味でだますということも必要。それで責任を自分に課し、その重圧に耐えるという仕事。途中の手順や実験を怠らずに、信念と技術をもとに進んでいくのがプロである」とおっしゃっていました。

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最後に、伊東塾長から「模型は頭で考えたことをかたちにするのではなく、頭で考えて分からないことを、模型をつくる作業過程で考え、かたちにすることに意味がある。体で感じてつくる―つまり、模型をつくったら自分が模型に入りこんでいくことが大切で、その気持ちをどう持てるかが設計では重要」とのお話がありました。

私も日々の仕事の中で、東海林さんや伊東塾長には及ばなくとも、この講座で聞いたお話のように、頭と体の中を行き来してものをつくるように努めようと思いました。

塾生 木平岳彦