会員公開講座 山崎亮「地域の人びとと一緒につくる明日の暮らし」

2016年04月14日

2015年9月12日、恵比寿スタジオにて会員公開講座が行われました。今回お招きしたのはコミュニティデザイナーの山崎亮さんです。伊東塾長は、山崎さんの手法はこれからの公共建築でも広がっていくべきやり方だと言います。今回、山崎さんはこれまでに関わってきたさまざまなプロジェクトの事例を紹介して下さいました。その中からいくつかご紹介させていただきます。
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最初に山崎さんは、今日の一言として「早く行きたいなら一人で行きなさい。遠くまで行きたいならみんなで行きなさい」ということわざを紹介しました。まちづくりにあたっては、みんなで知恵を出し合って時間をかけて決めてゆき、そのうちにお互いのことを分かっていく、というプロセスが大事だと言います。一人で物事を構築する方が効率的で意思決定も早いかもしれませんが、持続的な地域づくりをするためにはこちらの方が可能性があると山崎さんは感じています。
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まず一つ目の事例として、講義の前日まで滞在していた北海道の黒松内町の話をしてくださいました。黒松内町では「車庫焼き」という習慣があるそうです。「車庫焼き」とは、車を外に出して車庫の中でバーベキューをするというもので、長く寒い時期にも楽しもうという発想から生まれたものだと思われます。山崎さんは、それならばまちづくりの話し合いの場として、車庫焼きのワークショップを企画してはどうかと思いつきました。今後5年間のまちの総合戦略をつくる目的のため、将来のまちづくりに力を発揮してくれる45歳以下の若い世代を80人集め、ワークショップを行いました。
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ワークショップでは、ワールドカフェという話し合いの手法を使いました。ワールドカフェとは、10個ほど用意されたテーブルごとに話し合いを進行するファシリテーターがおり、参加者は各テーブルの周りに集まって、カフェで話すように20分ほど議題について話をします。20分経過すると別のテーブルへ移動します。そうやって、色々なテーブルを行き来しながら話をすると、なんとなくみんなが話を共有することになる、というものです。今回は農協から大きな倉庫を借りて、ワールドバーベキューと名づけて、バーベキュースタイルでこれを行いました。
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各テーブルのファシリテーターは、コミュニティデザインの知識を学んだ役場の職員や有志の町民にやってもらい、「町で実現したいこと」「私ならではの黒松内の楽しみ方」などのテーマについての議論が行われました。話し合いの方法を変えてゆき、どういう情報を伝えるとみんなの話し方が変わるか、また、どんなツールを使うとみんなが話しやすくなるかを意識していると山崎さんは話します。

次に駅前が寂しくなってきたことから始まった「延岡駅まちプロジェクト」を紹介されました。山崎さんが提案したのは、駅の周辺の空地や空き店舗、アーケードの下を活動の場として、市民にいろいろなプログラムをやってもらうことでした。訪れた人は活動に参加してもらってもいいし、ちょっとお茶をしていくのでもいい。気軽に人が集まる場がつくれたらいいなと感じていました。この提案では、もし空き店舗が増えたとしても、そこをコミュニ ティの活動する場としてポジティブに考えられるようになります。そこでは場を活用してくれる人の存在が大事になるので、どこでどんなことをしたいかを明確にするため、ワークショップを行いました。Exif_JPEG_PICTURE
また、JR九州が駅舎を含めた駅周辺を再整備することも決まり、プロポーザルで決まった設計者の乾久美子さんからは、交通利用者と市民活動と商業が入り混じっている駅前複合施設が提案されました。駅周辺再整備計画の市民への説明会では、批判よりもむしろ、自分たちがどうやって使いこなしていくかということが市民の間で積極的に話されていたそうです。駅前複合施設は古い駅舎に大きな屋根をかけたようなかたちで、駅前の屋外だった空間が屋内になり、商業やコミュニティの活動の場となる屋内と屋外の空間が混じり合います。
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駅前複合施設など駅周辺はまだ未完成ですが、完成したらどうなるかという社会実験を、約30団体の参加のもと、周辺の商店街の空き店舗や路上などを使って試みたところ、大きな盛り上がりを見せました。現在、駅周辺再整備に向けて工事が進められており、ワークショップに参加した人たちは、まちなかで活動する取り組みを広げてくれています。

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次は富岡製糸場の事例てす。富岡製糸場を世界遺産にするタイミングで、世界遺産まちつくり課から声かかかりました。世界遺産は今や毎年のようにどこかで登録されるようになり、登録から3年ほと経つとブームが去るという状況がわかっていきています。そこで、1年間に100万人来る観光地ではなく、1年間に10万人が10年来続けるまちにするべく、住民の方々と一緒にアイデアを考えるワークショップを行いました。長きに渡って人が通い続けるまちというのは、リピーターがいるまちです。リピーターを生み出すには、「あの人に会いにまた会いたい」と思ってくれる人を増やすことが大切です。ワークショップを重ねることで、市民団体「スマとみ」が誕生。富岡らしいちょっとおせっかいであたたかい、そんな人柄で多くの人たちをもてなし、繋がっています。2014年、無事に世界遺産登録されましたが、スマとみは、ブームに流されることなく、着実に今も活動を続けています。

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また、兵庫県明石市にある譜久山病院を移転するプロジェクトでは、まずスタッフ同士で新しい病院のコンセプトを話し合う場をつくりました。その中で、あるスタッフから「また来てねと言える病院」にしたいという意見が出されました。一見すると病院にはふさわしくない言葉のようですが、何かあったときだけでなく、何もなくても気軽に来てほしいのが病院ですから、山崎さんはとてもいいアイディアだと考えました。そこで提案したのは、開放度合いに段階をつけるプランです。
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病院の周囲に地域との「関わりしろ」となるカフェや本が読めるスペースなどを配置して、そこでは病院の中の人と外の人と会うことができる。入院患者からみれば、内側のプライベートな空間から徐々にラウンジやショップを介してパブリックな空間に広がっていく空間を提案しました。その上で、具体的な建築プランを検討するために、約50人の病院スタッフが3回に分けてワークショップを行いました。まず院内で働いている人たちがどんな課題を持っているのかを提出してもらい、それが整理できてから、新しい病院でどんなことがやりたいか、そのためにどんな空間や設備が必要かを話し合いました。ここでは、設計事務所が作成した平面図をもとにシールのように貼り替えられるワークショップツールをつくり、医療の専門家である病院のスタッフがプランの組み替えをしていくという試みを行いました。そうして設計事務所とやりとりしてゆき、建築法規や構造等の建築的な条件を加味しながら落とし所を決める、という方法をとったのがこのプロジェクトの特徴です。

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最後に、2015年度公開講座のテーマにもなっている「楽しく地域をつくっていく」ということについて話をされました。楽しさについて、まず受動的な楽しさに対して能動的な楽しさがあります。パチンコや飲みに行くような、受動的で消費的な楽しさは賞味期限が短いと言われています。

それに対して富岡の例で見たような活動に参加して得た能動的な楽しさは長く持続するものです。また、楽しさには、個人で楽しむ方法と集団で楽しむ方法がありますが、せっかく楽しむならみんなで楽しんだ方がいいと山崎さんは言います。例えば、みんなでご飯を食べた方がおいしいと感じるように、集団で楽しむとその楽しみは倍増します。それならば、より長持ちで、より大きい「真の楽しさ」をいかに生み出していけるかが大切です。そのためには、自分で楽しさを生み出す技術を高めていかなければならないのです。

最後に、みんなの持っている技術を活かして地域を楽しく元気にしていってほしいという思いを伝え、講義は締めくくられました。
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質疑の時間に移り、伊東塾長から「真の楽しさ」を実現するには大都市よりも地方の方が可能性を持っているのではないかと疑問が投げかけられると、山崎さんもそう感じていると答えました。大都市は消費的な楽しみが多い一方で、地方の人たちは限られたもので楽しみをつくり出すことに長けていることに驚くそうです。彼らが感じている楽しさを都会の人々は感じられていないのかもしれません。

山崎さんが紹介して下さった事例からは、地域ならではの工夫により、地域の住民が主体的にまちづくりに参加している様子がうかがえました。お忙しい中講義をしてくださった山崎さん、ならびにご清聴いただいた参加者の皆様に心より御礼申し上げます。

生沼幸司