会員公開講座 平林聡一朗さん「VEGEO VEGECO ー宮崎発、九州の農業を守るIT時代の三河屋」

2019年02月19日

2019年2月2日、今年度の最後を締めくくる会員講座が、宮崎県東諸県郡綾町に本社を構える株式会社ベジオベジコの代表取締役・平林聡一朗さんをお招きして行われました。VEGEO VEGECO(ベジオベジコ)というネーミングには、「野菜を食べる男の子、女の子を増やしていきたい」という願いが込められています。企業理念は「農家さんをもっとハッピーに」、経営理念は「食の流通革命を起こす」。これらの理念は、講座中に、平林さんが特に強調されていた言葉です。

当初、スムージ用青果宅配専門店として2013年に発足したVEGEO VEGECOは、卓越したマーケティング手腕により知名度を上げていき、2017年には青果を中心としたフードデリバリーサービスVEGERY、2018年には農業法人VEGERY FARMにまで活動範囲を広げてきました。講演では、株式会社ベジオベジコの設立・活動経緯や、業界内で唯一無二の立ち位置を確立していく展望について、お話ししてくださいました。

“宮崎嫌い”から一転、「宮崎を盛り上げて、日本全土を元気にしたい!」という気持ちの変化
「宮崎は、テレビで見る情報から圧倒的に遠い場所。とにかく宮崎が嫌い」。他地域とのアクセスが不便な宮崎県で農材屋に生まれ育った平林さんが、宮崎で生活する中で胸に抱いていた気持ちだそうです。この気持ちに後押しされるように、高校時代にはアメリカに1年間留学したり、大学進学を機に上京し、国連機関で働くことを夢見ながら勉学に励んだりしていました。

このような“都会・海外志向”の平林さんの転機となったのは、2011年の東日本大震災です。友人が陸前高田で行っていたボランティア活動に参加し、地元の人々が培ってきた産業を継続するためのお手伝いをしました。「東北の人々を助けたい」という思いから奔走する中で、「日本のため、地元宮崎のためにできることは、何かないだろうか?」と、考えるようになったそうです。



宮崎を盛り上げるために試行錯誤した期間
宮崎を盛り上げるために、最初に平林さんがされたことは、東京にいる宮崎ルーツの人を繋げる活動でした。さらに、宮崎で一番勢いのある会社でインターンをしたいと、当時宮崎を拠点にウェブ制作を行なっていた株式会社アラタナの門戸を叩きました。平林さんが描く「宮崎をはじめとする日本の“地域”を元気にすることで、結果的に日本全土が活気づく」未来ビジョンとその熱意に共感した株式会社アラタナの社長から、グループ会社の中で農業に関する活動をしていた株式会社あらたな村を紹介されます。そして、大学3年生の時に株式会社あらたな村を引き継ぎ代表取締役に就任し、遂にVEGEO VEGECOブランドを立ち上げるに至ったのです。

宮崎の農業を盛り上げる活動の本格始動
こうして、平林さんは、インターン活動を通して知り合った“かっこいい大人たち”に背中を押されて芽生えた“勝手な使命感”を原動力に、VEGEO VEGECOと共に宮崎の魅力である農業を盛り上げる活動を本格的に始めることとなりました。
活動内容を具体化するにあたり、平林さんが解決すべきと考えた農業界の問題点は、以下の4点です。



1.流通コストの上昇
-九州の食材が関東に届く際の販売価格の最大7割が流通コスト
2.農業従事者の高齢化と農業人口の減少-農家の平均年齢は65歳
3.後継者不足-農業は大変そうで儲かるイメージがないため就職の選択肢でない
4.新規参入ハードルの高さ-就農しても初期費用や販売先の確保など課題が多い

まずは、1を解決するために、“農家さんが出荷する際の一つの選択肢としてのVEGEO VEGECO”を掲げました。生産者と消費者の間をVEGEO VEGECOが取り持ち、他の流通業者を介さないことで、“流通コストを1/3”にまで減らせただけでなく、“鮮度を1.5倍”、“農家さんの収入を2倍”に上げることが出来ました。

また、美味しい野菜を求める新たな市場を開拓することを目標として、ただ野菜を売るのではなく、“ライフスタイルを売る”という戦略を打ち出しました。当時、“健康志向で野菜を食べる”層は存在していたものの、“美容のために野菜を食べる”概念が強固でなかったことに注目し、VEGEO VEGECOを美容に特化した“スムージーブランド”として確立させました。VEGEO VEGECOを利用することで毎週消費者の元に届くのは、スムージー・ぬか漬け・グラノーラのレシピと、そのレシピに用いる1週間分の野菜キットです。このアイデアが高付加価値の野菜を求める消費者に刺さり、芸能人らがSNSに取り上げたり、女性誌を中心に50紙以上の媒体に紹介されたりすることで、一気にブランドの知名度が上がりました。こうして、1年程で業績は黒字化し、スタッフも2名から10名に増やすことが出来ました。

VEGEO VEGECOの活動が多様化する
スムージーブランドの成功を受け、高付加価値野菜を求める消費者層の存在に自信を持った平林さんは、野菜を中心としたフードデリバリーサービス“VEGERY”を、2017年に開始することにしました。これは、スマートフォンアプリを用いて、根津と渋谷にある販売拠点店舗から“今日使いたい野菜が1時間以内に届くサービス”です。サービスの簡易性・便利性・幅広さ・安心の九州野菜が届くシステムが好評で、顧客の約58パーセントがリピート、継続率も8〜9割という驚異の数字を誇ります。さらに、“間引いて廃棄”されるはずだった野菜を特別に仕入れ商品化することで、農家さんの純利益を拡大させることにも成功しました。

このサービスで平林さんが実現したい理想像は、“IT時代の三河屋”です。野菜を中心とした食材を手渡しで消費者に届けて温かいコミュニケーションを生み、「VEGERYさんなら信頼できる」と野菜搬入のために裏口を開けておいてもらえるような、ユーザーとの関係性を作ることを目指しているそうです。

さらに、農業界の問題点2〜4や、綾町で深刻化している“耕作放棄地の増加”を食い止めることを目的として、2018年に“農業法人VEGERY FARM”を設立しました。これは、耕作放棄地という“空間”、若者の“時間”、農家さんの“スキル”をシェアすることを目的とした、農業のシェアリングエコノミーです。このサービスによって、綾町で農業に従事する人手が増えただけでなく、新規参入者は色々な農家さんから多様なスキルを学ぶことが可能になりました。今後は、このモデルが全国の各地域で展開されていくことを望んでいるそうです。

また、綾町とは、農業分野における連携協定を結び、今の農家さんを100年後にまで映像で残し伝える“aya100”活動や、綾町産の野菜につける“綾町マーク”の制作、生産者と飲食店などを繋ぐ“ベジステーション@綾町”の設置など、野菜をもっと食べてもらうための活動を幅広く行っているそうです。

生まれ育った人のみならず、それぞれの目的を持ち上京してきた多様な人々によって構成される東京は、本記事執筆者の地元・九州と比べると人との関係が希薄に感じます。ここでは、他人はあくまで“他人”、スーパーに並ぶ食材も同様に匿名性が高いと感じます。“地域”との繋がりを感じる食材を、“人”同士の繋がりを重視しながら提供するVEGEO VEGECOは、「地域でしか食べられないものをすぐに食べられるという差別化ポイントにより、独自の市場基盤を今後も固めていく」という平林さんの展望通り、都市に漂う匿名性に対抗する手立てとして人気を博していくのだろうと、強く感じました。

岩永 薫