会員公開講座 祁答院弘智さん「神山塾の10年とこれから」

2020年01月09日

2019年11月23日、人材育成を通して地域の新しい暮らし方を実現する「株式会社RELATION」の代表を務めておられる祁答院弘智さんをお迎えして、今年度4回目の会員講座を開催しました。今回の講座では、地域滞在型人材育成・起業家育成プログラムである「神山塾」の活動を中心に、“地域と世代を超えた地域交流の場を創出し、地域から世界をつなげる人材の育成と、地域から世界に発信できる価値”を創造し、“地域の新しい暮らし方、新しい働き方の実現”を目指す祁答院さんのビジョンについてお話を伺いました。


また、今年度より、「大三島を『護る=創る』活動」を行ってきた「大三島ライフスタイル研究所(島研)」の協力のもと、全公開講座を通して大三島の再活性化の問題を考えるという、新たな試みが開始されます。本年度、公開講座で取り組むのは、『大山祇神社参道:みんなの家とその周辺の活性化』『今治北高等学校大三島分校:継続的な活動・カリキュラムの計画』『大三島みんなのワイナリー:醸造所の建設』という3つのテーマ。第4回となる今回も、講座の後に、今回の講座と絡ませた簡単なディスカッションが行われました。

株式会社RELATIONの設立経緯と取り組み
株式会社RELATION(以下、RELATION)は、“未来を共に創る人を地域と共に育む”、“地域企業や自治体と人材育成を通してまちづくりを進める”ことを目指し2008年に設立されました。会社設立のきっかけとなった問題意識は、日本の社会の変化にありました。「日本の人口減少や労働力不足が叫ばれる昨今、必ずしも社会が衰退に向かわないまでも、確実にこれまでとは違う時代、新たな仕事や人生観と向き合わねばらならない時代になる」、「これからの日本には、基礎学力・専門知識を生かす力『社会人基礎力』(経済産業省)が求められていく」といった問題意識から、「人材育成力の不足」が根本的な課題であると考えた祁答院さんは、“競争から共創へ”というヴィジョンと、“未来を共に創る人を、地域と共に育む会社”というミッションを掲げ、徳島県徳島市で会社の設立に至りました。

このような問題意識からスタートしたRELATIONは、「地域の新しい産業、新しいビジネスモデルを地域資源(ヒト・モノ・コト)と共に創り出し、次世代に確かな仕事と暮らしを手渡す」という取り組みを行っています。次に、実際の地域で行っている具体的な活動について見ていきたいと思います。

「神山プロジェクト」×RELATION: 神山塾の10年
神山塾の舞台は、徳島県名西郡神山町。ここは、人口5242人、高齢化率50.6パーセント(二人に一人は65歳)という農業を中心とした地域です。この地域は、施設や制度ではなく、“神山に関わる人々のやりたい気持ち”から始まった地方創生・まちづくりプロジェクトで全国的に知名度が高い地域でもあります。
そもそも、神山町が抱える地方特有の課題とはどのようなものなのでしょうか。祁答院さんは、「①空き家の利活用の必要性、②担い手不足、③地域産業衰退という田舎の課題を神山は抱えている」と、おっしゃいます。祁答院さん率いるRELATIONは2008年に「神山プロジェクト」に参戦し、これら3つの課題を通して神山のまちづくりに関わってきました。

まず、①の課題を解決するために、古民家をリノベーションし、ゲストハウスやサテライトオフィスとして再生させました。東京都渋谷区の株式会社プラットイーズの事案では、築90年の農家を購入して「えんがわオフィス」・「蔵オフィス」というサテライトオフィスを建築家とともに作り上げました。結果的に、徳島県内の雇用18人(町内6名、県内雇用12名)を生み出すことに成功しました。

また、②③の課題を解決するために、2010年から地域滞在型人材育成・起業家育成プログラム「神山塾」をスタートさせました。神山塾では、神山町への滞在経験・棚田での米作り経験といった実体験を基盤に、キャリア理論や行動理論といった人材育成を支える理論も導入することで、地に足のついた若者と社会との繋がり創出・人材育成を目指しています。



今年で12年目を迎える「神山塾」ですが、神山塾が続いている理由として、祁答院さんは「神山町に多様性を認め合う寛容性があり、それぞれの居場所がある。そして、塾生同士の『多様性』と移住者の『創造性』が計画的無計画に機能している」ことを強調されました。

「うらほろスタイル」× RELATION
RELATIONが活動をしている地域は他にもあります。北海道十勝郡浦幌町は、人口4735人・高齢化率40.2%という地域です。ここでは、廃校になった旧常室小学校の再活用実証事業をRELATION主導のもと行っています。TOKOMURO Labと名付けられたこの施設には、サテライトオフィス・コワーキングスペース・カフェ・イベントスペースが設けられており、「中の人と外の人が混じり合い、この町の新しい風土を創り出す」ことが目指されています。このコンセプト通り、TOKOMURO Labは、栗栖良依さん等のクリエーターが利用者に名を連ね、地域おこし協力隊の三村直輝さんによる株式会社KIZKIの起業等、RELATIONのヴィジョンにある“共創”がまさに実践される場となっています。

さらに、浦幌町では、「旅をするように、学ぶ」をコンセプトに、若者や地域への移住希望者などをターゲットとした「Learning Journey」という地域滞在・研修型ツアーも行っています。この活動は、地域の一次産業やコミュニティ、その地域で暮らし働く人々から学びながら、新しい働き方や暮らし方のきっかけとなる機会・体験を得るというものです。この活動は、日本国内だけでなく、海外にも目を向けていることが特徴です。株式会社BOUNDLESSのSosei Partnersと提携し、海外の留学生と日本の田舎をつなげ、留学生が持つ新鮮な視点を地域活性化に生かすことを目的としたプログラムも行っています。

「INACA Original Japan」×RELATION: これから
このように、日本の各地で華々しく活動されてきた祁答院さんは、これからの活動に関してどのような構想を抱いているのでしょうか。「RELATIONのつなげる力と地域人材育成の見える化を活用することで、RELATION単独の人材育成プログラムから人材育成コミュニティへ発展させること」を目標に、全国の田舎をフィールドとして、2019年7月から人材育成コミュニティINACAの企画準備を開始されたそうです。INACAが掲げるミッションは「若者の挑戦を支える仕組みづくり」・「クリエイティブ&グローバルネットワークをいかした知見の共有」・「社会貢献活動のきっかけづくりと推進」。地域と若者による、日本の田舎を護るための新しいアプローチを支える、地域企業・経営者ネットワークとして構想されています。そして、RELATIONが活動してきた地域での実体験や、事業推進のための知識を学ぶ講座など、多様な学びと実践のプログラムを通して、「自分のモノサシで、未来と共に、今を生きる人材」・「常識の壁を超えて、常にアップデートできる視野の広い、視点が柔軟な人材」・「やりたいことのために、やらなければならないことを見極め、行動できる人材」の育成を目指しているそうです。

RELATION–Styleとは
最後に、祁答院さんが大切にされている、RELATIONのモットーについてお話ししてくださいました。

(1)RELATION-Styleの5カン
・関……信頼関係を育む
・間……居心地の良い距離間
・観……自分のモノサシ、本質を見極める力
・感……直感と論理の間で揺れ動く感情
・歓……愉しむこと、歓ぶこと

(2)計画的無計画力: 偶然をコントロールする力
予期せぬ出来事がキャリアの8割を形成するという「計画的偶発性理論」に基づき、偶然を作りそれを活かしてチャンスに変えることができるように、行動をデザインする。

(3)“知る”・“わかる”・“できる”の違いを理解し、自らの状況にあった適切な課題を見極める現状観察力を養い、行動に移す。

日本の田舎を護るために、地域創生のための事業にとどまらず、将来的に地域を支えうる人材をも育て上げる事業を行い、着実にネットワークを拡大されている祁答院さんの活動。「子どもたちに、年に1回食事と寝床を用意してくれる全国の友達を残したい」とおっしゃっていた祁答院さんのお気持ちが、着実に日本の田舎を護るためのノウハウと各地の繋がりを生み出しています。祁答院さんの活動は、日本の社会の変化をポジティブに捉え直し、まさにこれからの時代の“共創”を支える素晴らしい活動であると感じました。

岩永薫