塾生講座 ショートレクチャー①

2020年06月02日

5月13日、2020年度塾生講座の初回のレクチャーが行われました。

塾生講座は、昨年度までの大三島ライフスタイル研究所の呼称を元に戻し、今年度から新たな受講生が加わりました。
今年はコロナウイルスの流行により、恵比寿スタジオに集まることができず、オンラインでの開講となりました。

まずは、塾生と講師の先生ひとりづつ自己紹介。慣れない画面越しの自己紹介に苦戦しながらのスタートになりました。

次に、塾長の伊東さんよりコロナのこの状況下で考えるべきことについてのお話がありました。

そして、今回の担当講師3人から自己紹介を兼ねたショートレクチャーが始まりました。

はじめに、建築家の柳澤潤さんのレクチャーです。
伊東豊雄建築設計事務所から独立して最初の作品「みちの家」と「えんぱーく」について、設計のときに考えていたことや作品の特徴についてご説明いただきました。

みちの家

えんぱーく

次に、南相馬市で作られた「みんなの遊び場」についてのお話があり、2011年の東日本大震災を境に公共建築のあり方が変わったこと。そして今回のコロナウイルスによるパンデミックでは、人が集まることに意義があるのかを考える良い機会だとのお話がありました。

みんなの遊び場

2番目は、家具デザイナーの藤江和子さんです。
伊東さんと一緒に仕事された「多摩美術大学図書館」「台湾大学社会学部図書館」「ぎふメディアコスモス」について、苦労した点やデザインした家具の特徴についてご説明いただきました。

3番目は、ランドスケープデザイナーの山﨑誠子さんです。
都心における緑地の占める割合や特徴、東京駅周辺は意外に緑地が多いことやオススメの場所の紹介がありました。
都市に緑をつくることで人が集まることや、建築と関係の深い庭について、屋上庭園や壁面緑化など、庭の種類が増えていること、そして植物にこだわるのは日本独特の文化という興味深いお話もありました。

ショートレクチャーの後は質疑応答を行いました。まずはデザイナーの石井海さんより「人が集まる場所についてどうあるべきか」との問いがなされました。

藤江さんは「公共の場に人が集まることで重要なのは、1人でも居心地の良い空間が確保されているかどうかではないか。全員がどれだけ一人一人で居られるかが重要である」と意見を述べられました。

次に、柳澤さんが千葉学さんの「人の集まり方をデザインする」を引用され、「建築、コミュニティーにとって幸せな集まり方がある。人が集まる場所の意味を考え直す良い機会で、このことについて考えるべきでは」と提起されました。

山﨑さんは、逆に人が集まらないようなランドスケープのデザイン案を述べられ、人が集まらないような気候、風土をつくれば人は集まらないと逆説的に述べられました。

石井さんは過度に密集した都市位において適度な密度があるということ、山﨑さんは密度が高くないことは贅沢な印象だと感じられたそうです。

これに対し、塾生の生田さんが先日の伊東さんのビデオメッセージを見て同じような感想を持ったと言い、公園と都市の面積から人口1人あたりの緑地の割合を算出した独自のデータを示してくれました。

 

これらの意見に対して伊東さんからは、「公共ではやはり人が集まることに社会的価値がある。1人でも居心地の良い空間はその前提で議論されるべきでないか。」と仰りました。

コロナ禍による都市の分断を見ていると、人間と自然の共生、地方の方が自然と共に暮らしている東京が自然に対して鈍感であると述べられました。

また、日本におけるコロナウイルスの流行が欧米ほど感染拡大しないことは、都市の成り立ちが違うことが関係してるのでは、と考察されました。

 

山﨑さんは、別の視点から「水」が関係してるのではとの指摘されました。スペインなど降水量の低い地域ほど感染が拡大していると考えられるようです。

また、柳澤さんがコロナウイルスの感染拡大で感じた自然と建築のあり方について、考察されたことをスケッチにして示してくださいました。

その中で、自然に対する距離感の喪失と、家族を描いた映画の変遷を通して家族のあり方の変遷を指摘されました。
2019年放送の「昨日なに食べた?」という同性カップルの日常を描いたドラマでは、現代社会の家族が擬似的に集まっていることが表現され、この中では料理が「自然」として現れているそうです。こういった現代社会において建築に何が可能か考える必要があるのではないかと指摘されました。

編集者の川上純子さんからは、都市に人が過度に密集していることは事実だけれども、田舎に行くと人はそれほど集まりを必要としていないのでないかとコメントがありました。

最後に、伊東さんから都市部に人が過度に密集したことが今回のコロナウイルスの感染拡大を招いたのではないかと指摘され、近代主義の思想に基づいてつくられてきた現代社会における建築のあり方について、この現状を前提として新しい建築は可能なのか議論していかないと意味がないとのお話がありました。

今回のようなオンラインでのレクチャーは対面よりも集中力を使うせいか疲れるので、早くみんなで集まりたいと意見が一致したところで、第1回のレクチャーは終わりました。

塾生 安部剛司