塾生講座 ショートレクチャー④

2020年07月01日

6月6日、第4回塾生講座のショートレクチャーが行われました。塾生や講師陣もだんだんzoomでの議論に慣れてきたようです。本日も3名の講師より自己紹介を交え、今回のコロナ騒動によって感じていることを共有していただきました。

最初は、モビリティエンジニアの三好健宏さん。 テーマは、「モビリティの挑戦・コロナ後の世界」。三好さんは、普段から海外との業務が多く、以前からテレワーク対応もあったため、実生活においてのコロナ影響は少ないようです。

自動車エンジニアとしての挑戦について、移動する価値は、生きるため・ビジネスのため・出会うためのツールという視点から「移動価値」のお話をいただきました。自動車は進化し壊れにくくなりましたが、大量に普及しすぎて事故や渋滞など問題になっています。CAEの技術を用いてネガを極小化しようというのが業界の方向性だそうです。

今回、モビリティの見直すべき点として「公共交通」を提起されました。公共交通は、環境に良く、ローコストですが、必然的に密集環境をつくってしまいます。一方、自動車はハイコスト、自由な移動を担保し、密集環境を避けることができます。感染拡大予防における車と電車のメリット・デメリットを把握し、「公共交通と自動車バランスを考える必要がある」と話は展開しました。
「モビリティは、まちづくりの観点からも最も考え抜かなければならない分野。自動車のかたちは、性能の可視化を望まれているので、ブラッシュアップすればするほど自然から離れたSF風デザインになる傾向が強い。しかし、モビリティの概念は、自然観と繋がると思う」と興味深い議論でしたが、タイムオーバーとなり、今後モビリティについては、大三島を舞台に議論できればということになりました。

続いては、プロダクトデザイナーの石井海さん。「仕事で感じていること・最近気になっていること」をテーマに伺いました。石井さんは、プロダクトデザインを行う中で、合理性の先には四角い形状にたどり着くこと、また、AIを用いてユーザー体験やモノとモノの関係は視覚化する必要があること、様々な「シカク」に対する気付きを得ながら、現在は企画~設計まで、コンセプトのビジュアライズ化も含め、一人でできる工程を増やしながら働いておられます。さらに自粛期間中に、石井さんが読書を通して現在気になっていることを参加者の皆さんに質問形式で行っていきました。


(以下、一部抜粋)

流れとかたち/エイドリアン・ベジャン&J・ぺター・ゼイン
「すべてはより良く流れるかたちに進化する」これは、人工物も自然、また社会構造にも当てはめることができるではないか。

生物と無生物のあいだ/福岡伸一
「内部の内部は外部」外部から異物を取り入れたときに、どうやって安全な空間ができるのか。

[伊東豊雄塾長へ質問]
台中国家歌劇院のような空間を発展させていくと、非接触な「内部の内部は外部」のような建築もあると思いますか?(最後にまとめて回答)

続いてはワイングラスを片手に、フランス留学中の監物拓さんによるレクチャーです。テーマは、「ワインで自然観を身に付ける」。現在、フランスのブルゴーニュ在住の監物さんは、現地でワインの勉強をしています。土地固有の文化についても興味があるとのことです。

実際、単身で異国の地にいると孤独で、家族の存在の有り難みなどを感じたとお話しくださいました。
「東日本大震災とコロナ騒動の共通項として、私たちの暮らしに多大なる影響がある点に着目している。震災は生活基盤(ハード面)が壊滅状態となり、コロナは生活基盤下の我々自身が脅かされている。今回の件で、生活基盤と自然について再考する必要がある」と提起されました。前者は手触り感のある暮らし、後者は自然全体系の中でどう生きていくべきか。監物さん自身は、自然について考えていきたいと述べました。

また、建築と自然の間には距離があること、それらの距離をワインを通して自然観への理解を深めていきたいと仰っていました。
近代化から始まった「輸入されたワイン造り・輸入された建築・輸入された自然」この3点は、明治以降から始まったにも関わらず、日本伝来の概念が奥底に追いやられているのではないか?フランスでワイン造りを学びながら、疑問に感じていることをお話しいただきました。

後半のディスカッションにおいては、今回のメインテーマになりつつある「自然観」について、古来からの日本人の自然観と今回のコロナ禍が関係していると考えていると、伊東さんは明言されました。「私たちは自然に親しみをもって生きていた。近代主義の思想のその先の思想をどのように創造すべきか、これが重要だと考えている。今回のロックダウンで感じたのは都市や街は人間がいなくなると風化する。人間が活動することによって建築も有機体として成り立つのではないかと」一同、納得の眼差しでした。

建築・自然・人間との関係性については、今月27日に行われる公開講座でさらに議論を深めていくこととなりました。27日は恵比寿スタジオからLIVEでレクチャーを配信予定です。乞うご期待ください。

塾生 石崎いくみ