子ども建築塾2021年度 後期「百人島」発表会 後編

2022年12月23日

前半クラスに引きつづき、後半クラス計21名の発表、講評です。


【Fグループ】 ー島の南西ー
大崎 朝さん 「プラネタリウムと展望台」


手作りパンとあわせて近くの果樹園の新鮮なフルーツも楽しめるカフェ。となりの修理屋にきたお客さんが暇をつぶしたり、犬づれもOK。湖上の空の景色がボールト状の屋根の下、画面いっぱいにひろがります。
ボールト屋根について「朝日や夕陽の入る方角もよく考えられていて、気持ちいい」とアストリッドさん。
放射状に広場から湖へとひろがるボールト形状の表現を伊東さんも評価しました。

青柳 ルークくん 「いらっしゃいテレビ局 」


情報発信をになう新聞社とテレビ局。島民はみんな家族!という青柳くん。となりのパン屋さんからパンを届けてもらい、誕生日会などよく集まる場になっています。一方、住居部分はプライバシーも保てるよう半分閉じたようなかっこうです。
「みんながそこに集まって逆にテレビを見るのをやめよう、という発想が面白い」と、新たな視点にアストリッドさんは喜びます。
伊東さんは「屋根の両サイドが小さくなって虫みたいになるともっといい」と、面白い平面をより引き立てる方法をアドバイス。

「何かを変える」
2021年に開館10周年を迎えた今治市伊東豊雄建築ミュージアムの企画展タイトルは「もうひとつのユートピア」。その図録の冒頭で伊東さんは次のように記しています。
「島の高齢者達は『何も新しいことをしてくれんでもええ、わしらは今のままでじゅうぶん幸せなんやから』という言葉が私には重く響きます。- 中略 – この島に来ると、つくらないことの幸せもあるのだという言葉に戸惑いを思えてしまいます」とその胸中をあらわします。
今回の課題、百人島は小学生の塾生が考案しますが、前半でアストリッドさんはこう話しました。
「新しい建築を考えるだけではなく、新しい生活を考えて、こういうふうにあるべきではないか、と提案しているところに感動した」と。
また、先の文章はこう結ばれています。
「私はこれからもささやかであっても人々が幸せを感じる建築をつくりたいと願っています。人々が幸せの笑顔で満たされる社会、それが私にとっての建築をつくることの夢であり、そのような建築で埋まる社会をユートピアと呼ぶことができるかもしれません。
他方で私はワインづくりであれ、『みんなの家』の再開であれ、何かを変えることによって『大三島を日本で一番すみやすい島にしよう』という夢に向かっても挑戦したいと考えています。それは私にとって、『もうひとつのユートピア』なのです」
変わる、変わらない、変えていく、がまだ同じくらいの重さの子どもたち。そのやわらかさに気づき伸ばすことは塾の目的の一つです。

大貫 彩葉さん 「OPEN!自然牧場」


動物とも触れあえる果樹園。牛舎のイメージカラーで彩られた建物の大きな窓からは牧場の景色もよくみえます。家の寝室のトップライトからは朝陽がまぶしく、毎日素敵な一日のはじまりを迎えることができます。
「牛や馬には島中を歩いてもらい、あき地の草を食べてくれてもらえるとよい観光名物にもなる」と循環的な効果に期待する太田さん。
いろいろな多角形をデザインに取り入れているものの、「それぞれの建物の素材や規模などを変え、何が何なのか分かるといい」とアストリッドさんはアドバイスしました。

土城 龍之輔くん 「波打ち際に、二そう」(当日は欠席たっだため、TAが代わりに発表)

島に欠かせない船の修理をする船大工の家。湖に向かい船がいざこぎ出す瞬間を底からとらえたような大胆な造形で、湖上の船からもよく目に止まります。
「取り組んだテーマが難しかったかもしれない」とねぎらいながらも、よいランドマークだと太田さん。
湖際に船を寄りつけたまま修理ができるように工夫されていることに対し、「入りやすいようにしてるのは面白い」とアストリッドさんはうなづきました。

【Gグループ】 ー島の東ー
馬場 天馬くん 「おばあちゃんと友だちの家 」


写真館のある老人ホーム。「みんなで一緒に〇〇したい」という馬場くんのおばあさんの一言から、みんなの部屋を中心に通りぬけが自由なプロムナードや部屋がかこむ構成を発想。湖の景色をバックにした撮影は心にも残ります。
たくさん描かれたスケッチに「夜のきれいな屋根などのイメージがよかった」と伊東さんは評価すると同時に、とてもよくできている完成度の高い模型を前に考えを巡らすシーンもありました。

目黒 龍一郎くん 「九回来ると馬九いく !!」


大仏もある島を守る神社。お祭りの時には屋台でにぎわう参道の先には、鳥居が湖畔にそびえます。馬の鞍のかたちや「瓢箪から駒」のことわざから発想した建物の配置は、となりにある学校の誇りにもなるよう考案しました。
太田さんは巣鴨の「とげぬき地蔵」や四日市の「諏訪神社」を例にあげ、「アプローチは曲がったり、途中に公園があるなど、真っすぐじゃない方がいい」と可能性をしめしました。
「小さなヒューマンなスケールのものが、敷地全体に散らばっていた状態はすごくよかった」と制作途中を伊東さんは振り返りますが、最終形は大き過ぎたのでは、とスケールの大切さを指摘します。

佐々木 絵馬くん 「The・Open 」


水陸両方の生きものに出会える動物園と水族館。「やりたいことが多すぎて入りきってない」との制作途中での伊東さんからの指摘で軌道修正し一体化。「自由」というテーマのもと解放感にこだわり壁や垣根などありません。
上下階をつらぬく水族館の構成に「それがどうやってつかわれるのか。間にもっとおもしろい場所が生まれるはず」と、アストリッドさんはポイントを示しました。
「まとまりすぎちゃって僕のコメントがまずかったのかもね」と、伊東さんは以前の自身のコメントを振り返りましたが、「自由っていうはオープン。僕もいつも自由にしたいと思っていてる」と強く共感します。

「自由」
子ども建築塾の初回は伊東さんのレクチャーで幕を開けます。例年、その際によくみせる一枚の写真、代表作である「せんだいメディアテーク」のとあるワンシーン。2Fのライブラリーのフラワーチェアに座るある女性は、となりのスペースで遊んでいる子どもの声に耳をそばだてながら雑誌に目をやっているというカットです。
そして「このように大人と子どもの空間を壁で区切ってしまわない、仕きりのない建築を目ざしている」と言葉をそえます。
このクローバーのようなイスをデザインした妹島和世さんは、メディアテークのニュースレターに次のような文章を寄せています。
「せんだいメディアテークが開館してから1年と数カ月が経ち、smt letter (※) を読ませていただくと、1つの大きな空間の中でぶらぶらしている人がいたり、子供が走っていたり、建物がまるで公園のようにのびのびと使われているのが伝わってきます。」
(smt letter「野原に広がる花畑のように」2002年, ※ smt letter:せんだいメディアテークのニュースレター)

以前の発表会(2017年度 後期)でも
「いつもいかに自由でいられるかということをいちばん考えながら設計している」と、語気をつよめて話されたことがありました。それから数年。すでに中高生になった青年に、その言葉はどのようなかたちで残っているでしょうか。

桝谷 眞里奈さん 「hundred space 」


見晴らしがよく明るい気持ちになれる学校。「三角形」をデザインに多用したのは、大人にも興味を持って利用してもらうためですが、教室の机はみんなのことを先生がよく見えるよう、丸くアレンジしています。
「どんどん人間のスケールに近づいてきた」「いろいろな面白い場所が生まれてきた」と、スタディの過程をアストリッドさんは振り返ります。そして「ここにいたらどういう雰囲気になるのか感じながら考えていけばいい」と後押します。
伊東さんも「模型がすごくきれい。とてもいいです。そういう風に考えるとすごくいいと思う」と納得します。

【Hグループ】 ー島の北ー
小島 歩果さん 「ワクワク色のリサイクル」


みんなの仲を深めるリサイクルショップ。ふわふわでカラフルな棚にはとなりの修理工場でステキにリメイクされた物たちがならび、楽しい時間につつまれます。リサイクルによってさらに100人がつながるきっかけに。
「となりの広場に『色』をあたえる忘れられない建物になっている」と太田さん。「夢のような風景でみたことがない」とも。
伊東さんも「やわらかくて全体がふわ〜っとしたイメージがきれい」と微笑みました。

府川 昇平くん 「修理と発明」


「良いものはいつまでも。足りないものはつくりだす」をモットーに、人々の暮らしをささえる修理工場。となりのリサイクルショップへリメイクしたものを届けるときは便利な橋を渡って参上します。
直径2mほどのとても細い筒が重なるたたずまいに、「とてもきれい。船がくるときみんなによくわかるランドマークになっている」と太田さんはその造形に興味深い様子。内部についても「すごく狭くて面白い。狭さを利用した方がいい」とアドバスしました。

小林 千紗さん 「しずくキャンプ 」


木の枝にぶら下がってキャンプが楽しめます。まるで果物がたわわに実るようにつり下がるしずく型のテントでのキャンプは、動物とも出会えます。林の中で自分の好きな木をみつけるところから冒険ははじまります。
「鳥の巣のようでよかった」とアストリッドさん。
「しずくが次から次へとたくさん折りかさなっているイメージがいい」と、伊東さんは模型以上にスケッチでの表現を評価しました。

「模型より絵の方がいい」
これまでも発表会でこのようなコメントは数多くありました。一定の時間をさいてつくった模型を目の前に、一瞬塾生たちの心情もしのばれますが、見学者の方から寄せられたアンケートには次のようなものもあります。
「子どもたちの表現したい内面や本質をアドバイスくださり – 中略 – 、心情が厳しく感じることもありましたが、それも含めて子どもだましではない活動がありがたかったです」
「先生方のコメントが、厳しく、優しくてよかったです(両方必要だと思いました)」
「講師陣も子どもだから甘くみるのではなく、厳しくするどい指摘をしてくれて、大人扱いして接してくれるのも良いと思います」
評価と否定は別のものですが、果たして塾生たちはどのように受けとめているか。こちらが気にするかたわら、いつの間にか前に向き直る子どもたちに驚かされることもあります。大人の姿勢が試されているともいえます。

猪尾 芽生さん 「湖の上のステージ」


客席から湖側を望むとそこにはステージとスクリーン。船上のスクリーンは夜ふけの暗い湖面に浮かび上がり光を放ちます。日中はスクリーンを乗せた船はいずこ、水平に視界の広がる湖上でのステージライブも一興。
「絵がきれい。波の音が聞こえるライブはいいね」と伊東さんはイメージをふくらませます。
ステージの両側にある建物について「大きいかも。一番大事なステージやスクリーンをきれいに見せたほうがいい」とアストリッドさんは助言します。

東谷 晴之助さん 「平和の象徴」


警察、消防、探偵、数々の任務を背負い島をガード。変な人が近寄りづらいようにと、そのかたちは大きな自然石のような異彩をはなちます。訓練用のボルダリングや、瞬時の出動にそなえたすべり台も完備。
断面をあらわしたスケッチに「面白い。ケーブ(洞窟)的な模型は大変でも頑張った」とアストリッドさんは微笑みつつ、内部は「1・2階とわかれなくてもいいかもね」とトータルでイメージすることをほのめかしました。

【Iグループ】 ー島の南ー
笹木 縁さん 「人と人をつなぐかけ橋」


郵便や銀行もある区民館。ピーナッツ型の建物の上に大地が隆起したような大屋根がおおいます。屋上の広場には小さな穴がいくつか開かれているため、下にいても明るくまるで木漏れ陽が降りそそいでいるよう。
島の広場へとつながる屋上広場に「設計が大きくていい」と太田さん。広場の反対側の「ライブハウスも見える」と眺めの良さも発見。
屋上広場の勾配について「登りっぱなしではなく、もういっかい水平にすると建築的になる」と伊東さんはアドバイス。「ランドスケープを建築的にしているのは面白い」とその進化を評価しました。

守田 慎ノ助くん 「 島にそびえ立つ かがやくレストラン ONE HUNDRED」


オーシャンビューのレストラン。となりのパン屋や果樹園から食材を調達し、レシピ企画室で料理を考案。広場でのイベント時には屋台を出し、100人に美味しいと言われるよう日々腕を磨いています。
高さが階段状に変化する特徴について「螺旋状に建築がのぼっていく構成はいい」と伊東さん。
「雨でも外で食べれられるとか、シェフはオーストリア人とか、細かく考えられている」とアストリッドさん。「そうすると居心地よくなる」と納得します。

長井 敦雅くん 「いつでも行きたくなる病院 Gwen House」


ハーブ研究家が営むドラッグストアと病院。散歩をしながらスロープをのぼっていくと、ハーブガーデンごしに虹が出むかえます。楕円の空間をスロープが巡るイメージは、長井くんの飼い猫・グエンがしっぽをまいている様子だとか。痛みをやわらげたい想いが伝わります。
「面白いね。ネコの頭とからだを建築にしてよくまとめた。スロープもみんなのぼりそうだし、楽しい建築」と伊東さんも感心です。

今北 優衣さん 「ファッション・スイートピー 」(動画での発表)


注文もできるデザインの最先端をいく洋服屋。季節のおすすめの帽子、アクセサリー、バッジのガチャガチャもあります。円形スペースではファッションショーも。家のリビングは全面ガラス張りで湖側からの光で充満します。
「やりたいことがはっきりできている」と太田さん。まちとの関係を考えて「ファッションショーはどちらに向けてやるのか考えるといい」とアドバイスをおくります。

「TA」
授業ではもの静かな様子でも、発表会でとてもしっかり発表し私たちを驚かせることが多くあります。
作家の吉本隆明さんは著書「15歳の寺子屋 ひとり」(講談社, 2010年・15歳の青年たちとの1年間にわたった対話の記録)にて、自身の回想をふくめ次のように話しています。
「子どもの頃、人と話すのは苦手でした。でも、届かなかった言葉こそが、自分にいろんなことを教えてくれた」
「あの人は何もいわないけど、本当は気持ちの中で自分によく問いかけ、自分でよく答え、それを繰り返している。それは言葉に表さなくても、行動に表さなくても、心の中でそういうふうにしてるってことがある。人は誰でも、誰にもいわない言葉を持っている。沈黙も、言葉なんです」
「樹でいったら、地面の上に見えている枝葉じゃなくって、根っこの部分が言葉にもあるんですよ。地面の下の見えてない部分がね」
特に前期の授業ではたがいの意思の疎通すら難しいと感じることも少なくありません。またすらすらとうまく話すからこそ本当のところが見えづらいと感じる子もいます。
そして吉本氏の文章はつづきます。
「沈黙に対する想像力がついたら、本当の意味で立派な大人になるきっかけをちゃんと持ってるといっていい」
声をかけたり、聞いたり、待ったり、そばにいたり、子どもたちのいちばん近くにはいつもTAがいます。8年もの間TAをつとめ、この発表会で卒業を迎える者もいます(2013年から2022年までつとめた坂田達郎さん)。
「 子どもとしっかり向き合ったり、考えたりすること… TA続けてきたのって、それが面白かったからなんだな」
と、いろいろな個性の子と伴走してきた彼のその言葉は基本そのもので、決して忘れることはないだろうと思う言葉の一つです。
TAの彼らもみなそれぞれの課題と向き合いながら、子どもたちとともに悩みともに喜びます。沈黙にも口達者にも頭が下がるほどの想像力をもって臨む姿には、子どもたち同様の未来を感じます。

【Jグループ】 ー島の西ー
長谷川 果和さん 「家族商店」


ブルーベリーのミキサージュースなども振る舞うファーマーズマーケット。どこからでも入りやすいよう配置が工夫され、雨の日でも濡れないようテントの屋根もかけられています。落ち着く囲み型の椅子もお待ちかね。
マーケットを囲む路地が「商店街っぽくちゃんと考えられている。アーバンデザインとして優れている」と太田さん。狭い路地は「小さい子がほっとする場所でいい」と評価しつつ、「お地蔵様がいるとかネコがいるとかイメージできるとさらに…」と想像力をかき立てられました。

本田 理くん 「島生博物館」


島に生きる博物館。敷地内には人口の川がひかれ、その横で砂浜を見たり貝を拾ったり本を読んだり寝たり…。プランは元々四角いかたちを切り取り並びかえたというもの。
「湖の方にも広場側にもエントランスが開いたかたちが面白い」とアストリッドさん。
伊東さんもプランを評価するとともに「断面のスケッチとか面白いね〜」。屋上の家のたたずまいについては「唐突なので考えた方がいい」とアドバイス。

長谷川 和希くん 「陸の波」


波のかたちをイメージした水族館と魚屋。「急にはじまって静かに終わる」のが波のイメージ。壁には小さい穴が開けられ好奇心をそそる仕組み。獲った魚はとなりの博物館で調べてもらい、高い魚は展示します。
日本人にとって「お魚屋さん」は特別な存在だと太田さんは嬉しそう。
中間発表の時を振り返り「はじめのスケッチは魚のプランだったけど、今はちゃんと建築になっていて進化したね。よかったです」と伊東さんは強調しました。

「シンボル」
以前、伊東さんは長谷川くんの魚のかたちを模したスケッチに、「飽きちゃうよ」とコメントしました。
伊東さんの編書「みんなの家、その先へ HOME – FOR – ALL and Beyond」(LIXIL出版 2018年)にて「『シンボル性』とは何か」というトピックがあります。
そこでは「こういうものをシンボルというのだろうか」「シンボルとはデザインで実現するものではないのではありませんか」と問いかけています。
あるモチーフを発想のきっかけにする例は多々ありますが、その造形をそのまま太田さんいわく「直喩」することには疑問視します。
先の妹島和世さんの引用文(smt letter「野原に広がる花畑のように」)にはつづきがあります。
「せんだいメディアテークが開館した時にとても印象的だったのは、ギャラリーがオープンし、モニターが置かれて、棚の中身が入って、人々がいろいろな場所でいろいろなことをやりはじめたときに、建物が消えて人の多様な集まりだけが浮かび上がってきたように感じたことなのですが、その多様さは開館後も建物とともに育っていっているのだなと思います」
前半クラスで伊東さんが話した「人があつまることでかたちが生まれる」とは、まさにそのようなことと通じる発言ではないでしょうか。
(恐れず言うならば)ここでのシンボルは「多様な集まり」という状況そのもので、それは建物とともに「育っていく」と個人的に解釈しています。

高木 香怜さん 「つりみなSIZEN 」


おいしいコーヒーにリラックスできるつりカフェ。西陽がさす草むらの上で寝ころび解き放たれる時間が。港で釣った魚やとなりの牧場からもらうお肉などで休日はバーベキューができます。
「窓から太陽が見えるスケッチが一番いい」「自然の額縁のようだ」と伊東さん。
「島の玄関として最初に見えるものとして、湖から見た絵を描いた方がいい」と表現方法を太田さんはアドバイスします。

以上で後半クラスの発表がすべて終了し、早速、それぞれの講師による特別賞が発表されます。

柴田淑子賞:守田 慎ノ助くん「島にそびえ立つ輝くレストラン ONE HUNDRED」
根気強く模型づくりに専心し、作品としての完成度の高さが評価されました。

アストリッド・クライン賞:笹木 縁さん「人と人をつなぐかけ橋」
2年間たくさん悩みながらも最後に何かをつかんだのでは、と感動を口にしました。
また全体について、「もっとこんな感じでいきたい、という新しいことに気づいた。それはとても大事。どうしたらもっと楽しくなるのか考え続ける」ことの大切さを伝えました。

太田浩史賞:目黒 龍一郎くん「九回来ると馬九いく !!」
「伝統」という難しいテーマに取りくみ、ありきたりでない自分のかたちを提案できている、と評価。
また全体について、「笹木さんの大屋根がさがり、広場をまたいで小島さんのリサイクルショップへとフワッとつづく」など、みんなで合わせてまた別のことが生まれることを「忘れないで欲しい」と。

伊東豊雄賞:桝谷 眞里奈さん「hundred space 」
「模型が動いている感じがして、生き生きしてとてもいい」と改めて感心しました。
また全体について、「こんな病院だったらいいな、とか気持ちになってるところがすばらしい」「そんな気持ちを忘れないでつづけてほしい。大人ではこうはいかない。こちらがありがとう」と頭を下げる姿に、また子どもたちの心に何かが灯ったことでしょう。


「動いている感じ」とはいったいどういうことでしょうか。
桝谷さんの模型に「こういう風に何か考えてつくって、また発展させていくような、そういう筋道がみえそう…」と伊東さんは話しました。「これ以上ないという完成した模型よりいい」ともつけ加えます。
アストリッド賞を受賞した笹木さんが、「いっぱい悩んだところがあったけど、最終的にこういうことになって悩みがいがあった」とこぼしたように、その道のりは決して容易なものではありませんが、見えない先があることを信じ動きつづけ、伊東賞を受賞した桝谷さん当人は、まだこの状況が把握できていないような表情なのは、まだ走っている最中だからかもしれません。

ながらくこのような立場で子ども建築塾にかかわっていると、言葉のちからというものを度々感じさせられます。
後期のカリキュラムの担当である太田さんの師、建築家、原広司さんは、その著書「集落の教え 100」(彰国社, 1997年)にて次のように記しています。
「集落はいつ何時発生するかわからない場面に対するより、明日必ず発生する場面を頼りにして計画されるであろう。- 中略 – しかし、集落に対してそうした解釈をもって十分であるとは、だれしもが考えないだろう。必然様相に対するばかりではなく、可能様相に備えている構え、つまり様相に依拠するからこそ集落にさまざまな漠然とした意味が対応しているたたずまいが現象するのである。空間という言葉は、都市、建築を出来事として語るために用意された。しかし、空間を語るための言葉の発見に私たちは努力をしてこなかった。今日、言葉の不足が、私たちの活動のうえでの大きな障害になっている。」
原氏が不足しているという「空間を語るための言葉」とは、とても広い意味を含むものと思われますが、塾で探そうとしているのは、その言葉ではないかとも感じることもあります。
機能や技術といったいわば共通認識下で言語化しやすいところから生まれる建築、都市ではなく、出来事から生まれる「いえ」、「まち」を全員でさがす道のり。その行程には失敗も難局もある、未踏をいくいづれも前進です。

「難しければ難しいほど、乗り越える意味がある」と昨年口にされていたアストリッドさんでしたが、今年は「難しいは『ない』」と断言します。そして「失敗も『ない』」とさらにつよく背中を押してくれました。

柴田淑子