塾生限定講座 台湾ツアー(3日目)
2014年12月14日。台湾入りしてからずっとどんよりとした曇り空でしたが、ようやく晴れ間が見え始めた台中の朝。日本よりもずっと南に位置しているはずなのに、未だに信じられないくらいの肌寒さを感じつつも、3日間の台湾ツアーはいよいよ最終日を迎えました。
さて、合宿最終日は台中から新幹線で再び台北へ移動し、世界貿易センター広場と松山台北文創ビルを見学しました。
Provided by International Trade Building Corp. / Photographer: Jeffrey Cheng
台北世界貿易センター広場
最初に向かったのは、台北世界貿易センター広場(2011年3月竣工)です。旧広場を改修したこの広場は、白御影石のプロムナード(遊歩道)によって、一輪の白い牡丹の花をモチーフにした、軽快で、かつ、シンボリックにデザインされており、広場の外の歩道へゆるやかに繋がれています。寒空と休日のオフィス街だったためか、人の気配は少なく、バスの車窓からは広場の姿形ではなく、基壇上のセットバックするセンタービルの背後に高く聳え立つ台北101が、真っ先に目に飛び込んできました。
伊東事務所の古林さんの説明を受けた後に、各自広場内を散策しました。広場の外側に置かれたベンチに座って寛いでいる人、牡丹の花びらを模した通路を一歩一歩確かめながら歩いている人、三々五々散策しているその様子は、日常の振る舞われ方と異なった風景で、普段とは違う面白さを感じました。
20分程度の見学でしたが、広場内を散策するだけで物足りなかった私は(建物の上階からのその広場のシンボリックなデザインや人の動きを確認したかった)、勇み足でセンタービルの中へ。ビルの中央部には台北駅にもあった大きなアトリウム空間があり、そこでは大規模な見本市が開催されていました。ブースの密度感、アトリウムのスケール感に圧倒され、上階へ繋ぐ長いエスカレーターで呆然と立ち尽くのみで、目的が全く果たせず、再び広場へ。残った数分間で家具デザイナーの藤江和子さんがデザインしたベンチに座って、道路を挟んだ向こう側の建物群をじっと眺めていると、古くからあるその雑多な風景と、それらを嫌うかのように綺麗に整えられた近代的な建物との間を、一輪の牡丹の曲線によって対話をしながら緩やかにつないでいるようにも感じました。
松山台北文創ビル
世界貿易センタービルを後にし、向かった先は、旧煙草工場跡地の再開発計画であり、オフィスやホテル、コンサートホール、リテイルの複合施設である松山台北文創ビルです。ル・コルビュジェのユニテを連想させるような格子状の外観、建物の構造を担うその格子の内側には、赤、黄色、緑などの6色で彩られたSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造の地上14階地下5階建ての、とてもシンプルな表情をした建物です。
伊東事務所台湾事務所の方さんと、構造設計を担当した佐々木構造計画の犬飼さんの説明を受けながら、最上階のイベントスペースと屋上テラス、そして7階にあるディベロッパーのオフィスを見学しました。格子状の外観は、夏の厳しい日差しを遮るためのブリーズソレイユ(日よけ)としての機能を持ち、また、建物の南側の外観は敷地の中央にある自由広場や緑地広場を取り囲むように緩やかに湾曲し、かつ、上階へ行くにつれて階段状にセットバックしているところが特徴です。それはよくある平板状で無機質な建物に比べると、広場に対する包容力や優しさのようなものを感じ、その構造の美しさや施工精度の高さ、そして、その姿形を生み出した想像力に、ただただ感動するばかりでした。
最後に、オフィスのエントランスから広場に繋がるプロムナードをくぐり抜け、建物をバックに記念の集合写真を撮りました。その後、昼食を兼ねた自由行動となりました。
早速、ビル内の飲食フロアに向かいましたが、日本と似たような混雑具合で、フロア全体が活気づいていたため、たまらず塾生の木平さんと川見さんを敷地の外に連れ出して、ようやく見つけた台湾ラーメン屋で坦々麺をいただきました。
その後、2人と別れた私は、巨大なスケールの國父記念館や、ビルの敷地の周辺の古い街並みを見ながら、古くから残る街並みと新しく生まれた近代化の建物との対比を確かめるように、時間の許す限りひらすら歩き回りました。文創ビルの東側にある水池に差し掛かったところで出会った、古い建物の窓に映り込んだ文創ビルの外観に愛らしさを感じつつ、再開発によって新しく生み出されたものと周囲に残る変わらない風景との対話がそこで行われているようにも感じました。
筆者撮影
14時半、再び集合してバスで松山空港へ向かいました。搭乗フロアでツアー最後の台湾ビールを堪能した後、16時50分発の羽田行きの便で無事に帰国し、3日間の充実した台湾ツアーと塾生講座の1年が幕を閉じました。
最後になりましたが、今回のツアーを欠席された伊東塾長の代役を務めてくださった伊東事務所の古林さん、ツアーをサポートしてくださった伊東建築塾スタッフの古川さんや伊東事務所台湾スタッフの方さんをはじめ、伊東事務所の現地スタッフの皆様、そして、ツアーに参加された皆様、本当にありがとうございました。普段実際に見ることできない現場のリアル感、そして、担当者のものづくりへの情熱など、貴重な体験をすることができました。この場をお借りして、感謝申し上げます。
また、3日間を通して、今まで見たことのないエネルギッシュな作品に出会うことができました。夜塾で自分の言葉で建築について語り合うことの大事さに触れたこと、そして、現場の方々の建築に対する熱い情熱を肌で感じたこと、合宿での出来事のすべてが、これからの私の血肉となる刺激的でエキサイティングな体験だったと思います。立ちはだかる様々な壁を乗り越えてきた先に生み出された、多くの人に愛され続ける心の拠り所として存在し続けるのだなと実感しました。
明るい未来へ向けたメッセージ性のあるものづくりにはきっと、未だ見ぬ新しい世界が広がっているのだと思います。だから建築は夢があり、人々の心をつなぐ面白さや未来があるのだと思います。
筆者撮影
塾生 小迫欣弘
(記載のない写真:撮影=中村 絵)