HIROSAKI DESIGN WEEK「こども・まちづくり塾」第4回目
弘前の朝のひんやりとした心地の良い空気に包まれて、発表会当日を迎えました。
2016年10月9日、モダニズム建築の巨匠、前川國男が設計した弘前市民会館で、第4回目の「こども・まちづくり塾」が行われました。二週間にわたり開催された「こども・まちづくり塾」も今日の発表会が最終日となります。
「いつも東京で教えている小学生とは違う、中学生、高校生はどんな提案をしてくれるのか楽しみです。」という期待のこもった伊東塾長の挨拶と、「他人の意見をもらって、また考えることが大事です。みんなで楽しく頑張って発表しましょう。」という大西さんの激励の言葉から、それぞれの班が描く弘前の10年後の姿の発表が始まりました。
■Aグループ 「わんだいの枡形」
Aグループは、弘南鉄道の始発駅である中央弘前駅の改修と駅前広場の整備を行いました。「わんだいの枡形」(「わんだい」とは津軽弁で「私たち」という意味だそうです。)というタイトルの通り、駅前にある「枡形」に着目して提案していました。「枡形」というのは江戸時代の城下町に設けられた外敵の侵入を防ぐために二度直角に曲げられた街路のことで、歴史的に重要であるとされ、今まで保存されてきたのですが、見通しが悪く、危ないということからAグループは、歩車分離にして枡形は残しつつ、安全で人が集まる駅前広場を提案しました。駅前広場にはねぷたの窓や展望台があり、みんなを迎えるような楽しげな駅前広場となっていました。
また、それに伴い駅舎も建て替え、雪溶けの川をイメージしたダイナミックな屋根をかけ、雪を川へ流すようなシステムを考え、駅舎のデザインも外観は煉瓦でありながらも内部は今まで通りの中央弘前駅と同じようなつくりにし、新しい、それでいて馴染みのある弘前の10年後の景色を提案しました。
駅という人の移動の起点となる場所を楽しく迎えるような空間にするという都市計画的な考えを高く評価され、影や空間を考えるという建築の造形的な面白さも伝わってきました。しかし建築を考える上で大切なのは、そこに人が入り、利用するということを意識することです。建築的なスケールをつかむために、模型をのぞき込んで中に入った自分を想像して考えるようにアドバイスをいただきました。
■Bグループ 「あずはし」
Bグループは、公園から土淵川、線路を越えてCグループの緑地までかかる大きな橋「あずはし」を提案しました。草木でうっそうとしている土淵川を整備し、ガラスの床や飛び石を設けて川の生き物と触れ合えるようにし、弘前らしい金魚ねぷたやりんご型のくぼみのベンチを設置し、人びとが集まれるような川沿いにしました。現在、公園の近くの居酒屋で行なわれている楽器の演奏会を公園にまで広げ、橋と一体化した屋根の形を工夫し、さまざまな人が思い思いの過ごし方をできるような素敵な公園となりました。
橋は波をモチーフとしたデザインで、電車を見られる場所や、川の景色を一望できる場所、隣の緑地まで眺めることができるやぐらなど、ここに来た人が好きな場所で楽しめるようになっていました。土淵川の軸でAグループやDグループとつながり、橋でCグループとつながる。そんなあずましい橋(「あずましい」とは津軽弁で落ち着く、安らぐという意味だそうです。)「あずはし」のある弘前の10年後の姿をBグループは提案しました。
しっかりと「伝える」ことを意識したプレゼンテーションと、大きなスケールの橋と小さなスケールのストリートファニチャーをデザインしたことでイメージしやすく、それぞれみんながどうしたいか分かる愛情のある提案になったと評価していただきました。一方でCグループの緑地との繋げ方を、もっと人びとの振る舞いを考えたデザインをするとさらに良くなるというアドバイスもいただきました。建築の「際」のデザインは悩ましく難しいものですが、そこがうまくいくと他の敷地との関わり方がぐっと豊かになりますね。
■Cグループ 「紫の“和”と“輪”と“わ”」
Cグループは、「恋人の聖地」というラベンダー畑の緑地を活かし、ラベンダーをモチーフとした提案をしました。大きなラベンダーのドームを架け、内部には椅子やテーブルを設置し、みんなが集まれるような緑地となっていました。さらにこのラベンダーのドームに疎密をつくることで、ドーム内部はラベンダーの香りに包まれると同時に木漏れ日の中にいるような感覚にもなれると言っていました。
緑地の部分も工夫が施され、丘のように地形を隆起させることで、人びとが好きな場所を見つけられるような地形にし、植栽もラベンダーだけでなく、桜などの様々な植物を植えた楽しい空間となっており、隣接する倉庫は植物園と美術館に改装し、植物園ではラベンダーを加工できるようなスペースを設け、ラベンダーであふれる10年後の弘前の姿を提案しました。
ラベンダーという敷地の特徴的な要素を捉え、それを建築とうまく結びつけてダイナミックなドームを架けたこと、地形を利用した人びとの振る舞いのコントロールを評価していただきました。「ラベンダーのドームの内部空間が気持ちよさそうでいいね。」と伊東塾長も楽しそうに仰っていました。建築で大事なのは、その建築が敷地内で完結するものではないということです。全体を見ると全グループの敷地の中心に位置するこの緑地は、広場であり、人びとの交差点となるように、敷地内だけではなく、全体を見た配置計画ができるととても良いというアドバイスもいただきました。
■Dグループ 「りんごの下で一日中」
Dグループは、吉井酒造煉瓦倉庫のコンバージョンを提案しました。案を考えるにあたり、まず周辺の住民の方にアンケートを取り、どんな建物が欲しいか聞いて回りました。その答えは、勉強する場所や落ち着ける場所が欲しいという答えが多く、倉庫を図書館、カフェ、レストランにコンバージョンする案が出てきました。大きな倉庫の内部空間を活用するために、空間を壁ごとに仕切ってしまうのではなく、本棚により緩やかに空間を分割し、カフェやレストランのにぎやかな空間から、図書館の静かな空間をグラデーショナルに結びつけていました。さらにりんご型のライトや、みんながイラストを描いた横断幕を架けるなど、インテリアにもアイデアが施されていました。
そして倉庫の外部には、植物が巻きついた建物があり、その中はまるで木陰の中にいるような気持ち良い空間が広がっていました。中には大小のキューブ状の家具が置いてあり、使い方によって椅子や机にできるようになっていました。吉井酒造煉瓦倉庫という伝統ある建物を、みんなが集まるような空間にし、その場に1日中居たくなるような、そんな10年後の弘前の姿をDグループは提案しました。
建築の用途をアンケートから考えることにより、何が必要かを知ることは重要で、そこから考えることができたのは素晴らしいと評価していただきました。しかし、今回の提案は新築ではなくコンバージョンということで、吉井酒造煉瓦倉庫という広くて暗いドラマチックな内部空間を持った歴史的な建築をどう活かすかを考えることができるとなお良かったとアドバイスをいただきました。
4グループとも、全て熱意のこもった楽しそうな発表で、1時間があっという間に過ぎていきました。総評では、成果物に大変満足した伊東塾長がインタビュアーとなって子どもたちに感想を聞いてまわっていました。「今まで住んできたまちも、こうして改めて特徴や10年後の姿を考え、かたちにすることで、見方が変わったと思います。何気ない日常の風景も同じように気にしながら過ごしてみると良いかもしれません。」と、大西さんから建築家としてのまちの見方を教えていただきました。
全4回と短い時間でしたが、各グループ一丸となって本当に素晴らしい10年後の弘前の姿がかたちとなって表れていました。TAとして参加した私も弘前のまちの魅力を垣間見ることができ、また訪れたくなるような素敵なまちと人びとに出会えました。この「こども・まちづくり塾」をとおして、少しでもまちの見方が変わり、建築に興味を持ち、10年後の弘前の姿を子どもたちが実現してくれることを楽しみにしています。
芝浦工業大学 平馬 竜