講座B「大震災から未来のまちを考える|三陸まちづくりの近況と問題点」

2013年03月05日

2月16日の講座Bは伊東建築塾神谷町スタジオにて、東北大学教授の小野田泰明氏を講師にお招きし、「大震災から未来のまちを考える|三陸まちづくりの近況と問題点」を開催しました。

冒頭で伊東塾長から「建築家と自治体のパイプ役となる唯一の人」とご紹介があり、「東北大学にはおられることはほとんどないのでは」と指摘されるほど、被災地を駆け回る多忙な日々を送っておられる小野田先生。大震災から間もなく2年となりますが、その間被災地で何が行われ、そして現在どうなっているのかを、総括的かつ具体的にお話ししていただきました。

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小野田先生のご職業は「建築計画者」。デザインの前段階である、建築の条件をセッティングする、調査と計画が一体となったお仕事です。映画に例えると、建築家を監督とするならば、ライターに当たる職業だと説明してくださいました。

先ずは東北大学の震災被害に始まり、小野田先生が取り組まれてきた復興支援の大きな流れについてお話ししていただきました。大学内や周辺地域での活動、津波への対策や被災した町の再生モデルなどを含む復興関連事業の実際について、スライドを用いながら説明してくださいました。

ただ線を引いたり絵を描いたりするだけではなく、その活動がどういう事業のどういう枠組みの中で実行されるのか、それを抜きにして復興は成り立たないという言葉は重みがあり、様々な事業を組み合わせて現実に復興活動を行うということの難しさを教えてくださいました。また、結果として進んでいる枠組みが正しいのか疑問を抱きながら、しかし誰かがやらなければいけないので恐る恐るやっているという正直な気持も話して下さり、その上で「今何が起っているかをしっかり記録することが大事、そしてそれを後世に判断を委ねる」とおっしゃっていました。

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次に、小野田先生の持ついくつかの立場について紹介してくださいました。

第一の立場は、アーキエイド(=東日本大震災における建築家による復興支援ネットワーク)の支援者です。2011年夏に実施された『半島“へ”出よ』と題したワークショップでは15チーム111人が参加し、およそ10日間で詳細な報告書を完成させ、それをベースに復興計画もつくられたそうです。それほどの短期間で非常に高い完成度の報告書ができたことに、小野田先生も驚かれたといいます。またここでは、土木と建築の作法の違いについて言及されました。建築家の考える案と土木コンサルの考える案に、その距離を思い知ったといいます。土木の世界は建築以上に施工の標準化があるそうですが、その中でも建築家の案を飲み込みブラッシュアップできるコンサルと、全く自分たちの意見を譲らないコンサルなどその態度も様々で、どのようなコンサルが担当するかによってその集落の運命が決まるということをおっしゃっていました。

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第二の立場は、東北大学災害科学国際研究所(IRIDeS)の復興実践学者です。こちらでは建築と土木の混成チームとして活動し、地域に根差した減災、防災まちづくりの研究とその実践を行っています。そこで最初に取り組んだ十八成浜での、防潮堤建設をめぐり砂浜を残すため地山を利用した代替案を提示したエピソードを語っていただきました。実際に被災地で展開される活動の中では、様々な対立関係や危機的状況もあるということに言及され、その中で冷静に事業化する必要性、メディアとの距離感などを話された上で、語られることと語れるべきことの差は大きいとおっしゃっていました。

これら二つの立場を使い分ける小野田先生。現在は後者の方が多いといいます。

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最後に、2011.03.11以降の被災者の生活についてお話ししてくださいました。居住意向調査の結果から、住宅が全壊か大規模半壊か、災害危険区域に入っているか、また家族構成や仮設住宅に住んでいるか否かなどの要素が、被災者の震災後の動きに影響していることを統計的に分析され、結果として居住域ごとに階層の純化が進んでいくこと、そして特に厳しい状況の人々が集まり易い災害公営住宅の問題に触れられました。具体事例として七ヶ浜町や雄勝などの復興まちづくりの例を紹介してくださり、それぞれの町に応じた復興戦略について説明してくださいました。居住意向が絶対の復興事業に疑問を呈し、そのようなご自身の活動について「おせっかいなんですけど、後世の人に断罪されるのは嫌なのでやれることはやろうかなと。勿論正しいかどうかは分かりませんけど。」とおっしゃって、講義を締めくくりました。

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その後質疑応答に入りましたが、今回は伊東塾長に加え、太田浩史さん、難波和彦さん、妹島和世さん、ワークステーションの髙橋寛さんなど著名な建築家の方々もお見えになられ、とても興味深い議論が交わされました。民意調達至上主義の壁や、ポリティカル・エンジニアリングの問題、復興における平等性やマスタープランの存在など、これからも考え続けていかねばならないテーマが次々と飛び出し、参加者一同熱心に耳を傾けていました。

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小野田先生のお話の中には、東日本大震災をきっかけとしつつ、それに留まらない現在の日本が抱える様々な問題について考えさせられるキーワードが散りばめられていたように思います。長時間に渡って貴重な講義をして下さった小野田先生に、心より御礼申し上げます。

石坂 康朗