会員公開講座 西畠清順さん「植物って何だろう」

2024年07月30日

4月27日、世界中の珍しい植物を集めて街や人を元気にする活動で知られるプラントハンター・西畠清順さんをお招きし、本年度第1回目の公開講座が開催されました。連休初日にもかかわらず、大人から子どもまで多くの参加者が集まり、皆さんの関心の高さが伺えました。西畠さんは、150年続く植物屋さんに生まれ育ち、現在は植物に関わるありとあらゆる可能性を事業化する会社を経営されています。今回の講座では、「植物って何だろう」というテーマで、植物の歴史や特性、そして人間との関わりについて、参加者との対話を交えながら語っていただきました。

プラントハンターとは
西畠さんは冒頭で、プラントハンターという一見“怪しげな”職業について説明されました。実はこれ、17~18世紀のヨーロッパで貴族や王族が雇っていた伝統的な職業だそうです。彼らの“豊かに暮らしたい”という欲求に応えるために、遠い国から美しい花や珍しい植物を持ち帰る役割を担っていたとのこと。日本でも、遣唐使や遣隋使が同様の役割を果たしていたと指摘されました。現代では、街の緑化や施設の植栽、イベントの演出など、植物が必要とされるあらゆる場面で活躍するのだそうです。

現在は、プラントハンターの代名詞ともいえる西畠さんですが、なんと21歳まで植物にほとんど興味がなかったのだとか。野球と格闘技しか頭になく、桜と梅の区別もつかなかったとのこと。しかし、21歳の時に東南アジア最高峰のキナバル山に登った際、そこで出会った食虫植物に衝撃を受け、植物の世界に魅了されました。この経験が、西畠さんをプラントハンターの道へと導いたのです。

植物の起源と特徴
講演は、植物の起源や特徴についての、会場の皆さんとの対話で進んでいきます。西畠さんからの最初の問いかけは、「植物はいつ、どこからやってきたか」というもの。博識な子どもたちとのやりとりを交えつつ、植物が約4億5000万年前に海から川を経て陸上に進出してきたことを説明しました。

次の問いかけは、「植物と動物の違い」とは。これは、エネルギーの作り方、移動方法、コミュニケーション方法の観点から解説されました。植物は光合成によってエネルギーを生産し、風や動物を利用して移動し、根を通じたネットワークでコミュニケーションを取るのだそうです。これらの特徴は、私たち人間とは全く異なる生存戦略だと言えそうです。

さらに、西畠さんは植物の“最強ぶり”について言及しました。地球上の生物量の90%以上を植物が占めていること、最大4000トンの重さに達する個体があること、最長5000年以上生きる個体がいることなど、驚くべき事実が次々と明かされました。

植物と人間の関わり
講演の後半では、植物を通じて人間ができることについて議論が展開されました。西畠さんの会社での取り組みを例に、商業施設や公共空間の緑化による集客力向上、ホテルや寺院などの空間デザイン、まちづくりや工場の環境改善、個人邸宅の庭園設計、イベントや芸術作品での演出など、多岐にわたる植物の活用例が示されました。例えば、神戸国際会館の11階にある屋上庭園「そらガーデン」は、オリーブの木をシンボルに神戸の楽園をコンセプトとした庭園です。この庭園のシャワー効果によって、客足がまばらとなっていた周辺店舗にも、人々が集まるようになりました。さらに、シンガポールと日本の国交50周年イベントでは、桜を利用した演出が行われたほか、イギリスのウィリアム王子からの依頼でチャリティイベントの演出も出がけられたのだとか。本塾との関わりもあります。塾長・伊東豊雄が手がけた福岡県の《アイランドシティ中央公園中核施設 ぐりんぐりん》(2005年)に植物を提供し、魅力的な空間づくりに一役買っています。

参加者との対話では、植物が人間の生活に果たす役割について、さらに多くの意見が出されました。食料の生産、衣類や建材の原料、薬や毒の原料、紙の原料としての役割に加え、空間の温度調節、海の生態系の維持や地球温暖化の防止にも貢献していることが説明されました。

植物とは
講演の締めくくりとして西畠さんから投げかけられた問いは、「『植物は◯◯である』の◯◯には何が入るか」というもの。参加者からは「王様である」「多才である」「祖先である」「生活に必要なものである」「先輩である」「支えてくれているものである」「力である」「バランスを保ってくれるものである」「柱である」など、さまざまな意見が出されました。

「植物がいなかったら、今日のこの日もない。何もかも、私たちの存在すら何もない」という言葉とともに、西畠さんが提示した答えは、「植物はすべてである」。この言葉からは、植物に対する西畠さんの深い愛情と敬意が感じられました。

この講座を通じて、参加者たちは植物の奥深さと、人間の生活との密接な関わりについて新たな視点を得ることができたようです。西畠さんの熱い語りと、参加型の講演スタイルにより、子どもから大人まで幅広い層が植物への興味を深める機会となりました。

岩永 薫