伊東子ども建築塾 福岡 第4回授業 イメージをふくらませよう②

2025年06月26日

5月24日(土)、九州産業大学では学園祭が開催され、小雨が降る中でも多くの人で賑わっていました。そのキャンパスの一角で、伊東子ども建築塾 福岡の第4回が開催されました。
今回の授業は、いよいよ中間発表前のラスト授業です。

◆ 授業の主な流れ
・前回の続きと、お友達とのアイデア共有
・レクチャー「足し算のデザインと引き算のデザイン」:四ケ所高志先生(福岡大学)
・中間発表に向けた作業「テーマを伝える」
  選んだ3つのオノマトペは?
  どんな場所で、どんな環境?
  どんなことができる?したい?どんな気持ちになる? など

前回の続きとアイデア共有
まずは、前回に引き続き、小さな紙にオノマトペの表現を描く作業からスタート。
ただ、これまでと違い、今回はさまざまな素材が使えることもあり、「素材からの発想」に挑戦する子が多く見られました。材料がたくさん並ぶ机を前に、子どもたちは夢中になって素材を選んでいました。

たとえば、あるグループでは、梱包材のプチプチにインクをつけ、美しい模様をつくりながら「この模様からどんなオノマトペが思い浮かぶかな?」と考える子がいました。
また、そのグループの作品は全体的にパステル調で淡く美しい表現をする印象があり、グループの個性かもしれませんが、互いの表現に影響し合っているようにも見えました。

今回のテーマ「オノマトペ」は非常に抽象的で自由度が高いため、子どもたちの内面や潜在意識が表れやすい課題なのかもしれません。

別のグループでは、塾生2年目の彼が、「日本語オノマトペ辞典」からランダムに選んだ言葉をお題にして模型づくりに取り組んでいました。
実はこの辞典、なんと4,500語も収録されているそうで、その存在にも驚きです。

彼は、昨年も言葉にこだわった論理的な構成力と、感性的な表現力のバランスが光る作品をつくっていました。今年の作品も非常に楽しみです。

レクチャー「足し算のデザインと引き算のデザイン」
四ケ所高志先生(福岡大学)

今回のレクチャーでは、建築の根源ともいわれる引き算のデザイン・足し算のデザインやそれらを組み合せた空間について紹介がありました。
また2024年に完成した星の原団地集会所の事例や動物の巣の構造を例に、上記の足し算・引き算のデザインやオノマトペを手掛かりにつくりたい空間イメージを具体化するヒントを学びました。

建築の根源とされる引き算のデザインと足し算のデザイン
建築には、穴をくりぬいたりして空間をつくる「引き算のデザイン」と材料を組み合せて積み上げていく「足し算のデザイン」 があります。

土や岩などを掘って空間をつくる引き算のデザイン(例:洞窟住居)

木の上に枝を渡して屋根を架けるように形をつくる足し算のデザイン(例:小屋)

足し算のデザインの方は、明るく開放的な空間が、引き算のデザインは、暗くて包まれるような落ち着きのある空間が生まれます。
また両者を組みあわせることで、多様な居場所や空間を生み出すことができます。

具体例をみていきましょう、これは福岡市の築50年の星の原団地での集会所づくり。
福岡大学の学生と住民が対話を重ねながら設計したこの建物には、高齢者や子どもなど多様な人が集まれる場所になるようオノマトペ的な空間が隠れています。

高齢者が腰かけて休める場所は「ぼこっ」と暗くて落ち着ける空間を。(引き算のデザイン)
一方、公園に面しており、子どもが遊びまわるスペースは、「スカーッ」と明るく広がる開放的な空間に。(足し算のデザイン)
感覚と言葉(オノマトペ)、そして異なる空間のつくり方を結びつけることで、実際の建築でも多様な場を生みだしています。

続いては動物の巣の紹介です。
先生が「この巣は誰の?」とクイズを出すと、すぐに子どもたちから答えが飛び出しました。
自然の不思議に関しては、子どもたちの方がずっと詳しいようです。

また様々な写真をみながら、「この巣はバサバサ・ボサボサっぽいね」などと、直感的に動物の巣をオノマトペに置き換えることで、かたち(いえ)とオノマトペを結びつけるトレーニングをします。

・鳥は枯葉や枝を集めて巣をつくる(足し算的)
・ビーバーは水中に材料を積み上げて巣をつくり、水をせき止めたり崩したりしながら環境にあわせて居場所を調整する(足し算的)
・アリは土を積み上げて塚をつくり、空気の流れを考えた構造になっている(足し算的)
・アナグマやウサギは土に穴を掘って住む(引き算的)
その他にも水中に空気を集めて巣をつくる特殊なクモがいることや、ヤドカリなどのように一時的に周囲になるものを一時的な住まいとして利用する動物がいることも紹介されました。

人間のいえも動物の巣もそのつくり方の根源は同じだと考えると、なんだか動物がとても身近な存在に感じられますよね。そういえば、先日こんなニュースがありました。市内の電柱に、なんとハンガーでつくられたカラスの巣が見つかったそうです。人間にとっては、感電の恐れがあるなど困った話です。でも、カラスの視点で見れば——それは、これまでにない新しい素材にチャレンジした”新進気鋭の建築家”の作品だったのかもしれません。

最後に先生からは、「今のところ足し算の表現が多いので、ぜひ引き算にもチャレンジしてみて!」とアドバイスがありました。

中間発表に向けた作業:「テーマを伝える」
後半は、来週の中間発表に向けたまとめ作業です。講師の先生方に相談できるように、自分のテーマを整理していきます。

さっそくレクチャーを受けて、「引き算のデザイン」に挑戦している子がいました。
スポンジをくり抜いて、心地よい“ふかふか空間”をつくり、「みんなで寝る場所」を構想中とのこと。「みんなで寝る」と聞くと、合宿や夜行フェリーなど非日常的でワクワクする空間を私は連想しますが、彼はどんなシチュエーションを想定しているのでしょうか?中間発表が楽しみです。

一方で、「やりたいことはあるけど、それをどうオノマトペとつなげるか…」と悩む子も。

ある子は、絵を描くのが大好きで、「絵を描く場所をつくりたい」とスケッチしていました。
四角い窓からの景色を額縁のように切り取り、その風景を描くというアイデア。でも、「このままだとただの箱になっちゃうかも」と不安もあるようです。
ただ、やりたいことが見えつつも悩むプロセスは大きな力。今後、先生たちやTAなど周囲からのアドバイスを受けてぐんと魅力的な空間に発展していきそうです。

また、担当TAにもテーマを明かさず、黙々と独自の都市の世界観を模型で表現する子どもも印象的でした。スケールを変えることで見え方が変わることを、1つの模型に異なる大きさの人形を置いてさらりと表現していましたが、大人にはなかなかできない発想です。
休憩中には友達と笑い合う無邪気な様子もありましたが、作業中に放つオーラはまさに“巨匠”。TAさんもただただ見守るばかりだったとのことですが、それこそが最高の関わり方だと感じました。今後の彼に注目です。

前半を振り返って
今期の建築塾の前半は、身近なオノマトペを探し、フィールドワークでは全身で感じ取り、それらを素材をつかって表現するところまでを学びました。今回の授業でようやくそれらを組み合わせてどんないえにするかを考え始めたばかりなので、次回の中間発表では「テーマを伝える」を目標にしつつも、まだはっきり固まっていない子がほとんどです。だからこそ次回の中間発表では、「選んだ3つのオノマトペは?/どんな場所でどんな環境?/どんなことができる?/どんなことがしたい?どんな気持ちになる?」といった切口で子どもたちが考えてきたことを深堀し、伊東先生や講師陣、TAからたくさんのアイデアやアドバイスをもらえるエスキスに近い場にできたらと考えています。
次回の中間発表の模様をお楽しみに。

古野尚美(ブログ担当)

※【エスキス:アイディアをまとめるためのラフなスケッチや簡易な模型を作成する思考行為。また、設計課題に向けた事前の相談や検討の過程のこと。】