講座B 第7・8回「建築はどのようにつくられるか|ヤオコー川越美術館」report#1

2012年09月12日

先日行われた講座B 第7・8回「建築はどのようにつくられるか|ヤオコー川越美術館」のレポートを塾生の牧野恵子さんからお送りいただきましたので、下記にご紹介させていただきます。 

講座B 第7・8回「建築はどのようにつくられるか|ヤオコー川越美術館」

日時:2012年8月31日(金)19:00~21:00
2012年9月2日(日)14:00~16:00

講師:古林豊彦、井上智香子(伊東豊雄建築設計事務所)

関係者の方々の思い

まず講義の当日、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館の金獅子賞受賞のうれしいお知らせと共に、ヴェネチアから帰ったばかりでお疲れのところ、とても情熱的にこの「ヤオコー川越美術館」の説明をしてくださった古林さんと井上さんに心打たれました。

そしてお話を伺えば、クライアントであるヤオコー(埼玉県を中心に展開するスーパーマーケット)の川野会長のお母様が始められたリアリズム絵画の巨匠・三栖右嗣さんの絵画コレクションを川野会長が引き継ぎ、それを地域の方々に気軽に親しんでいただけるようにと、この美術館が計画されたとのことです。

実際に建物を訪れてみても、開放的でおおらかに迎え入れてくれる雰囲気がとても心地よかったです。「こんなに開放的でいいの?」と思うくらいでした。
参加者の方から「風除室がなくて良いのか?」という質疑もあがっていました。確かに美術品を守るという側面ではやや問題があるのかもしれません。

それでも、三栖右嗣さんやヤオコー川野会長のお母様への思い、会長のお母様が初めて購入した作品である「コスモス」との出会い、伊東先生が築いてきた人のつながりなどから感じる、おおらかな優しい思いが伝わってくるとても素敵な美術館だと思いました。

スタディの変遷

このプロジェクトの始まりに、伊東先生は非常にたくさんのスケッチをされたとのことでした。

内と外の問題、原型・原初・プリミティブ、いくつかの小さな単位で構成することを主な軸に構想され、また、洋画に対するご自身の幼少の頃の記憶-洋間の壁に掛けられた具象の油絵のイメージも強く影響があったそうです。

始めの頃のスケッチでは、花や水や土や桜など、具体的な自然とともに内と外が入り交ざっているようなイメージであったものが、最終的に、“光”だけでも豊かな自然を感じることもできるという発想に至ったということです。

さまざまな思いやイメージが、抽象化し建築のアイディアに結びついていく過程を知ることができ、大変勉強になりました。

また、スタディの途中では、オスロの図書館のコンペ案や、ローマの現代アートギャラリーのコンペ案等、他のプロジェクトのアイディアを応用してみるなどの試みがされていることもご紹介いただき、様々な可能性を追求していることも知りました。

挑戦すること

美術館の雰囲気が開放的で心地よかったので当たり前のことのように感じてしまいましたが、自然光を取り入れるにあたっては大変な検討が必要であったと伺いました。

富士山のような屋根から入る光は、お天気によって強すぎたり足りなかったりする。それを絵画鑑賞に適するようにコントロールする調光板は、様々な条件をクリアするようにギリギリの調整がされていました。

また、ラウンジの全面自然光の屋根を実現するのにも、光をやわらげるため、素材の選び方や重ね合わせなどに苦労されたとのことです。

そこまでして自然光にこだわり挑戦するからこそ、この空間ができるのだし、大変だからとか、一般的でないとかいうことは、それをやらない理由にはならないのだと感じました。

私は、三栖右嗣さんの作品をこの機に初めて知りました。「老いる」という作品などは、ずっと見ていると胸が熱くなってしまいそうでした。
こうした作品がこれから先もずっとここにあって、いろいろな気持ちの自分を優しく迎え入れてくれると思うとなんだか安心できます。

ヤオコーの名物である“おはぎ”を食べそびれてしまったので、是非また訪れたいと思います。

ヤオコー川越美術館 ホームページ http://www.yaoko-net.com/museum/