塾生限定講座 岐阜ツアー(1日目)

2014年07月09日

5月9日、快晴の空の下、午後1時に名古屋駅に集合し、今回の岐阜ツアーは始まった。1日目の目的地は岐阜県各務原市。知らない人と一緒に過ごすことに緊張しがちな私は、塾生OB・OGの方達の参加が多かったこともあり、バスに乗車する時点で若干飲まれ気味であった。しばらく無言が続くも、偶然席が隣合った塾生同期の小迫さんと話し始めたら面白く、あっという間に最初の目的地、「瞑想の森 市営斎場」に到着した。

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駐車場に着いた時点でぱっと目に飛び込んでくる、白くうねった屋根に期待が高まる。各務原市の担当の方や伊東塾長から説明を受けながら、まずは内部を見学。

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塾長から「求められる機能上、平面計画はそれほど変えようがない」と説明があったように、使い方がはっきりしていて、わかりやすい。利用者同士、他家族と顔を合わせにくいように、一筆書きの動線計画がなされているが、箱型の告別室・収骨室の高さが抑えられていることで迷路の様な感覚がなく、自分がどこにいるのかが分かりやすい。内部の印象としては一言で表すならきれいで、屋根以外はシンプルだ。コンクリートとガラスの接合部など、端部の収まりはゴチャゴチャせず、すっきりして見えた。しかし、シンプルな収まりに見せるためには、その分多くの努力がなされているのだろう。ガラス一枚をはめ込むにも大変な作業であったに違いないと想像を巡らせた。

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その後、建物の外に出て、各々池の周りをぐるりと歩きながら外部をじっくり見学。この日は本当に天気が良く、ザワザワと風に揺れる木々の音が心地良かった。屋根は写真で見て想像していたよりも凹凸が急で、曲率が大きいように感じた。また、白い自由曲面の屋根が「ふわりと浮いている」感じを想像していたが、実際に現場で見ていると、一番印象に残ったのは、曲面屋根から地面に吸い込まれた様に見える外部の柱だった。この地面に吸い込まれている感じが、自然の循環や生命のサイクルに繋がっていくように感じた。

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見学の最後に質疑応答の時間があり、数人が塾長に質問をした。ある塾生からの「告別・収骨室ブロックの建屋の外周壁が、床と同素材でアールを描いて接地されている部分についても、循環や再生を連想される」との指摘に対し、塾長からは「そのような意図はない」との答え。私も同様のことを連想しかけていたが、考え直してみると、確かに外部の柱が吸い込まれた地面と内部の床は繋がったものとは感じられない。むしろ内部で循環を感じさせるものは、炉の熱をつかった空調というような、より機能的なものであった。過剰に物語に期待しては目が曇るのかもしれないと少し反省した。

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また、他に印象に残った質問としては、「斎場、つまり別れの場としてはきれいすぎるのではないか」と違和感を持たれている方がいた。死者の肉体と別れる場としては、もっと暗く厳かな場所である方が、家族のために良いのではないか?という意見であったように推測する。「なるほどそうかもなぁ」とそのときは思ったのだが、では自分であったら火葬場に何を求めるだろうか?と、その後考えてみた。そして、正直なところ、私はそこに何も求めないだろうということに気づいた。個人的には、どれほど建物から厳かさを求められようと、死に対して何かどろどろとしたものを感じられる程の肉体的なリアリティは感じられる気がしないのだ。火葬というのは、そもそも割とあっさりした行為ではないだろうか、と言ってしまうと言い過ぎかもしれないが、本音を言えば、私は家族が亡くなった際の斎場に対して特別に求めるものは何もない。実際にこの建物の内部で唯一求められた機能は、炉の性能と動線計画と言っても良いのではないだろうか。建築をつくる上では、求められる機能・性能を満たした上でやりたいことをやる、ということが大事なのではないかと思った。そうでなければ、より豊かな価値を含んだ場は生まれてこないのではないか。利用者全ての顔を思い浮かべて、その一人一人の人が最も良く使える建物をつくれたらもちろん言うことはないのだが、不特定多数の人が使う公共建築ではそれは不可能に近い。ならば、設計者の一人一人が、利用者としてもその建物にこうあって欲しいというかたちを与えることが、利用者にとってより良い価値を含ませるための唯一の方法なのではないかと考えた。

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参加者それぞれに様々なことを感じながら、二時間ほどの見学は終了。その後再びバスに乗車し、宿泊先のぎふ長良川温泉ホテルパークに移動。各々で温泉や散策を楽しんだ後、大広間で一人ずつ自己紹介をしながらの夕食。そして場所を移してお酒を飲みながらの夜塾へと続いた。現在、岐阜に常駐しながら「ぎふメディアコスモス」の現場を実際に進めている伊東豊雄建築設計事務所の三人の所員の方たちの、現場の話や岐阜のまちの話はとても生き生きとしておもしろく、翌日の見学がますます楽しみになる夜であった。

塾生 吉村隆之

(写真=中村 絵)