塾生限定講座 安東陽子さん・藤江和子さんによるテキスタイル・家具のレクチャー

2016年05月11日

2015年11月7日、テキスタイルコーディネーター・デザイナーの安東陽子さんと家具デザイナーの藤江和子さんにお越しいただき、レクチャーをしていただきました。このお二人は、伊東塾長をはじめ、多くの著名建築家とも協働されています。いわば業界のトップランナーです。

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安東さんは大学卒業後、株式会社布(NUNO)でクリエイティブスタッフとしての勤務を経て、2011年に独立されました。

安東さんが建築空間に挿入するテキスタイルはプロジェクトごとに多様でありながらも、あたかも始めからそこにあることが必然であったかのように実にうまく個々の空間にフィットしています。建築空間におけるテキスタイルの役割は、光や視線、熱のコントロールといった機能的なものもありますが、とりわけ重視していることは、建物自体が持つ居心地の良さをテキスタイルを通じて感じてもらうことだと、安東さんは言います。

この言葉を証明するかのように、ご紹介いただいた作品からは建築空間の本質を見抜く安東さんの確かな見識眼と、まだ見ぬ心地良さを紡ぎだす繊細で豊かな感性が感じられました。

また、「多摩美術大学図書館」のパイル地と半透明素材の使い分けや、「360°」における異素材の2枚重ねパッチワーク、あるいは「Sticky Fabric」におけるマイクロ吸盤の使用等の技法上の工夫からは、 オリジナリティー獲得へ向けた並々ならぬ熱意と、それらを実現させるための確かな技量を感じました。安東さんが一流の建築家から絶大な支持を得られているのは、他ならぬ安東さん自身もまた一流であることによるものと納得しました。

安東さん多摩美
多摩美術大学図書館

安東さん360°
360°(設計・写真/納谷建築設計事務所)

安東さんSticky Fabric
Sticky Fabric(ギャラリーMITATE「安東陽子/大谷敬司ー布から生まれて・・・展」写真/片村文人)

藤江さんは大学で家具デザインを勉強し、卒業後に建築設計事務所で家具デザイナーとしてのキャリアをスタートさせました。身体と建築との関係性を重視する作風が明確になったのは独立してからで、家具は空間とそこに暮らしている生活者の間のインターフェースだと考えるようになったそうです。最近では、図書館から、大学の講義棟や学生食堂などの教育施設、そして美術館、博物館、コミュニティ施設、オフィスビルまで、さまざまな空間に合わせた家具デザインに幅広く取り組んでいます。

例えば、「茅野市民館」や「多摩美術大学図書館」、「みんなの森 ぎふメディアコスモス」等、それぞれのプロジェクトに共通して見えるのは、人間主義とでも言うべき徹底的な利用者目線と、建築空間との機能的・詩情的親和性です。「家具は最も身体に近い建築」という藤江さんの言葉は、清々しいまでにこの点を雄弁に、かつ的確に物語っているように思いました。

藤江さん茅野市
茅野市民館(写真/浅川敏)

藤江さん多摩美
多摩美術大学図書館(写真/浅川敏)

藤江さん台湾大学
台湾大学図書館(写真/浅川敏)

藤江さんぎふゆったりグローブ
みんなの森 ぎふメディアコスモス(写真/浅川敏)

レクチャーが終わったあと、伊東塾長から「安東さんのカーテンは例えるなら人間の下着みたいなもので、つまるところ相似形なんだ」という発言がありました。伊東塾長にとってみれば、建築は身体を覆う外皮のような存在であり、その世界観の中では、人間の皮膚も、下着も、服も、家具もカーテンも建築もすべてがフラクタルに存在する身体のエクステンションとして捉えることができそうです。

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しかし残念ながら、建築はどうしようもなく静的で、曖昧で不確定な身体とはその本質において性質が異なっています。あえて拡大解釈するなら、今日のお二人の活動は、それらを緩やかにつなぎ、身体と建築、ひいては環境へとつながる身体的建築系という概念上の生き物の「進化」を成し遂げるためのキーファクターであるように感じました。

塾生 石谷貴行

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