会員公開講座「大三島を『護る=創る』活動」大三島ライフスタイル研究所

2019年06月18日

2019年5月18日、今年度最初の会員講座が開催されました。今年度より、「大三島を『護る=創る』活動」を行ってきた「大三島ライフスタイル研究所(島研)」の協力のもと、全公開講座を通して大三島の再活性化の問題を考えるという、新たな試みが開始されます。本年度、公開講座で取り組むのは、『大山祇神社参道: みんなの家とその周辺の活性化』『今治北高等学校大三島分校:継続的な活動・カリキュラムの計画』『大三島みんなのワイナリー:醸造所の建設』という3つのテーマ。初回となる今回は、島研所員の皆さんによるこれら3つのテーマについての紹介と、受講生のグループ分け・自己紹介・簡単なディスカッションが行われました。

©︎Yusuke Nishibe

大三島を『護る=創る』活動とは
大三島とは、愛媛県今治市に属する芸予諸島のなかの有人島で、東京から630kmほど離れたところにあります。しまなみ海道内の島でもあり、まさに、家並みならぬ「島並」が連なり、どこから見てもとても美しく豊かな風景に囲まれた島です。
島内での目玉スポットとしては、島の西側に、地域内でとても重要で由緒のある大山祇神社があり、今治市伊東豊雄建築ミュージアムが大山祇神社の南にあります。しかし、しまなみ海道は島の東側を通るだけで、神社などに訪れる人もバスや車で直接目的地へと行き、そのまま帰ってしまいます。つまり、島外から人々が来る目的となる資源や来訪の方法はあるものの、島内に人々が行き渡らず、滞在時間も短いため、町の発展に繋がりにくいという現状があるのです。
このような現状を踏まえて、今年は3つのテーマ『大山祇神社参道: みんなの家とその周辺の活性化』『今治北高等学校大三島分校:継続的な活動・カリキュラムの計画』『大三島みんなのワイナリー:醸造所の建設』に絞って、大三島の活動を展開していこうと考えています。さらに、今年の塾の醍醐味の一つとして、伊東豊雄建築ミュージアムの夏の展示内容を皆で考えるという点もあります。
それでは、次に、これら3つのテーマは具体的にどのようなものなのか、見ていきましょう。

大山祇神社参道: みんなの家とその周辺の活性化

©︎Manami Takahashi

しまなみ海道ができる前、島へのアプローチは、島の西側にある宮浦港からのものが主流でした。宮浦港に来た人々は、大山祇神社に続く参道を通り、島内へと入ってきます。こういった経緯で、この道が中心となり島の発展を支えてきました。昭和25年や平成10年ごろの写真を見てみると、色々なお店が露店を出したり鶴姫祭りの時には人が溢れかえったりと、とても賑わっていることがわかります。ところが、現在では、観光客は、車でしまなみ海道からやってきてそのまま帰ってしまいます。こうして、参道だけでなく島全体から賑わいが減り、大三島は寂しい地方都市となってしまいました。

「このような現状にある大三島をいかに活気づけるか」という問題意識から、参道の核としての「みんなの家」プロジェクトがスタートしました。旧法務局であった建物を色々な職能を持つプロジェクトメンバーの手で改修して「みんなの家」へと変身させていきます。今治北高校大三島分校生と一緒に掃除をしたり、地域の人も協力してくれたりと、地域全体でものづくりをしたいい経験となりました。

現在の「みんなの家」は、昼はカフェ、夜はバーとして、地域の皆さんのたまり場となってきました。さらに、2019年に開かれた参道マーケットは、普段の閑散とした風景とは比べ物にならないほどの賑やかさとなり、普段は閉じているお店も開いて商売を始めるほどでした。

このように、参道全体と連携した、賑やかさの拠点となる核を持つことが、大三島には大切です。例えば、現在では、猪ラーメンのお店や地ビールのお店など、拠点となりうる元気なお店が登場し、参道の風景も賑わいを取り戻し始めました。今後も、地域の皆さんと協力して、モノづくりを行っていくことを目指しています。

今治北高等学校: 継続的な活動・カリキュラムの計画
島に唯一の高校、「今治北高等学校大三島分校」は、全生徒70人の高校です。授業の中でマリンスポーツをしたり、漫画化もされた強豪写真部を抱えていたりと魅力的な特徴を兼ね備えている学校です。



2016年に「島デザイン部」という部活動を立ち上げ、伊東建築塾とともに活動をしてきました。2016年に椅子づくりワークショップや島の休憩所のリノベーションを行ったり、2017年にはロゴ制作を行うなど、「レクチャー+体験+アウトプット」を基本として、「デザインを通して考える力を養う教育活動」を行っています。
また、「島デザイン部」は、分校の存続のための活動にも積極的に取り組んでいます。31人の定員が3年連続で割れると廃校となる、という条件に対し、入学志願者を31人以上増やすべく、2017年には大三島の魅力を伝えるパンフレットを製作したり、2018年には東京でのPR活動やオープンキャンパスを行ったりと、精力的に活動しました。

これからは、分校の魅力をさらに発信するために、「下宿棟を自分たちの手で作る」という既存建築のリノベーションプロジェクトを考えています。分校生たちは、アイデア出しから施工過程にまで実際に参加する予定となっています。さらに、8月には「参道の空き家を開こう!(仮)」というテーマで、参道を盛り上げるために島内の4つの空き家を取り上げて、それぞれの空き家の活用方法について提案をするというワークショップの企画をしています。また、2月には、下宿棟の解体・施工・仕上げのワークショップを実施する予定です。

 

大三島みんなのワイナリー:醸造所の建設
大三島はもともと、みかんの島として知られていました。しかし、みかん畑を引き継ぐ若者が少なく、耕作放棄地が増えているという問題があります。そこで、これらの土地を開墾してぶどうを植えることによる、新たな島の個性と仕事の創出を目指して、「みんなのワイナリープロジェクト」が始まりました。

©Ayumi Yoshino

みんなのワイナリーは、2015年から活動しています。このワイナリーは、ソムリエで栽培と収穫を担当する川田さんが、移住をして現地の土地を開墾し、コツコツと拡大させてきました。2016年は、ほぼ全てのブドウを収穫直前にイノシシに食べられたことでワインは作れませんでしたが、2017年に200本、2018年に1800本とワインの生産本が順調に伸びてきました。ところが、ワインの生産本数が多くなったことで、新たな問題が生まれます。それまで、醸造は他施設に委託していましたが、ワインの生産本数が多くなりすぎて委託ができなくなり、島内に醸造場を作ることになったのです。

©︎Manami Takahashi

醸造場建設のプロジェクトは、今年3月に始まりました。醸造場の場所は、昨年4月に島研メンバーや地域の皆さんと協力してリノベーションを完了させた「大三島憩の家(旧宗方小学校)」という民宿の敷地内です。ここに、別プロジェクトで設計した「来島海峡サービスエリアの仮店舗」を移築して、醸造場に作り変えます。現在は、木造の仮店舗の分解と「憩の家」敷地への運搬が完了しています。今後は、6月頃から工事を開始して、ブドウ収穫との兼ね合いから8月末までに醸造場を完成させる予定です。

この施設での目的は、醸造場でワインを作り、憩いの家でワインを楽しむこと。来年はさらに多くのワインができるので、昔ながらの校舎の廊下でワインを楽しむ、食堂で島でとれた食材と一緒にワインを楽しむ、海辺でワインを楽しむ等、この場所でできるワインの楽しみ方を考えていきたいと考えています。

それぞれの紹介の後に、講座受講生の自己紹介と、3つのテーマごとに受講生のグループ分けがあり、それぞれのグループで簡単なディスカッションが行われました。

島研の目的は、大三島を観光客でただ盛り上がる島にすることではなく、今は少ない観光客がじんわりと根強く増えていく方法論を考えること。「参道はかつて骨だった、その息吹をもう一度大切にして島の骨を作りたい」という印象的な言葉によって、本日の講座は締めくくられました。

岩永 薫