くまもとアートポリス建築展2012 東京シンポジウム「くまもとアートポリスの25年」

2012年09月20日

9月8日、伊東建築塾神谷町スタジオにて、くまもとアートポリス建築展2012 東京シンポジウ「くまもとアートポリスの25年」を開催しました。

Photo:Manami Takahashi

今回は、アートポリスのコミッショナーを務める伊東豊雄、アドバイザーを務める桂英昭氏、末廣香織氏、曽我部昌史氏、アートポリス事業の設計者として関わっている西沢立衛氏、山本理顕氏の6名がパネラーとして登壇しました。

Photo:Manami Takahashi

はじめに伊東豊雄より、アートポリスの過去25年の活動を振り返り、伊東にとって初の公共建築となった八代市立博物館や、前コミッショナーである磯崎新氏からコミッショナーを引き継ぐ際のエピソードを交えながら、「一時期は全くプロジェクトがなく、この先続けていくべきか悩んだ時期もあるが、アドバイザーのご尽力をいただく中で、近年は地元住民の理解もようやく深まり、アートポリスの変化を実感している」と語りました。

Photo:Manami Takahashi

続いて、桂英昭氏から「アートポリスの25年と地元意識」というテーマで、熊本県内の既存選定建築物や、過去にアートポリスで設計された建築についてご紹介いただきました。当時のコミッショナーだった磯崎氏は「アバンギャルド」を提唱していましたが、デザイン優先の機能的でない建築に、地元住民からの反発もあった、と語りました。そして、本来は公開されることのない公共建築の設計プロセスを、アートポリスでは公開し、市民にも分かりやすく提示していくことが大切だと語りました。

Photo:Manami Takahashi

次に、末廣香織氏から「くまもとアートポリスの学校建築」というテーマで、過去にアートポリスで設計者を選定した小中学校、高校についてご紹介いただきました。

建具を開けると屋外のように開放的なプランの宇土市立宇土小学校は、小嶋一浩+赤松佳珠子(シーラカンス・アンド・アソシエイツ)による設計です。

Photo:Manami Takahashi

坂本一成(アトリエ・アンド・アイ)設計の宇土市立網津小学校は、シェル構造の軽快な屋根が特徴的で、昼間は照明がなくても明るい室内で過ごすことができます。

Photo:Manami Takahashi

小泉雅生が地元の設計事務所SDAと組んで設計した宇城市立豊野小中学校は、市長が変わる際に
計画が中断した経緯があるものの、市民との信頼関係を築いていたことで無事に再開されたそうです。

木造の大工を養成するコースがあるため、内外装に木材をふんだんに使用した熊本県立球磨工業高校管理棟の改築は、高橋晶子+高橋寛(ワークステーション)により設計されました。

このように数々のユニークな建築を生みだしてきたアートポリスの学校建築について、駆け足で説明して下さいました。

Photo:Manami Takahashi

続いて、西沢立衛氏より現在進行中の「熊本駅東口駅前広場」について、コンペ案から現在の駅前の状況に至るまでを、スケッチや写真を交えてご紹介いただきました。

Photo:Manami Takahashi

熊本市の交通の要であり、バスやタクシー、大勢の人々が行き交う駅前において、複雑な動線に合ったかたちを求めた結果、自由曲線の大きな屋根を架け、有機的に全体が混ざりあう空間をつくろうとした、と解説しました。

Photo:Manami Takahashi

次に、山本理顕氏より1990年から91年にかけて竣工した「熊本県営保田窪第一団地」について、動画や写真、図面を交えながら解説していただきました。当時の山本氏は40代半ばで、小規模の住宅しか手がけたことがなかったそうですが、突然110戸という大きな集合住宅をつくることになってしまった、と振り返ります。

Photo:Manami Takahashi

ここではプライバシー性の高い中庭を設け、過去には住民によるお祭りも開催される等、住民同士の交流を深める場をつくり出しました。

Photo:Manami Takahashi

一時期は新聞やメディアから「デザイン重視で住みにくい」と批判の声も上がりましたが、20年以上経った今では、住民の方々も快適に住みこなしているようです。

山本氏からはもう一つ、アートポリス事業ではありませんが、釜石市平田地区の「みんなの家」についてもご紹介いただきました。これは、伊東豊雄がアートポリスの支援事業として設計した、仙台市宮城野区の「みんなの家」と関連したもので、伊東、山本氏の他、隈研吾氏、妹島和世氏、内藤廣氏と5人で結成した「帰心の会」によるプロジェクトの一環として建設されました。平田地区の「みんなの家」は、仮設住宅がある敷地内に建設され、屋根にテント生地を使用することで、夜は灯りが透けて目立つように、と意図して設計されました。

Photo:Manami Takahashi

続いて伊東より、アートポリスの支援事業として設計した、仙台市宮城野区の「みんなの家」についての紹介がありました。こうした支援を行うのは、熊本県としては異例のことですが、震災後、蒲島知事に支援を要請し、木材提供と工事費を捻出していただけることになりました。

桂氏が教鞭を執る熊本大学の学生ボランティアも参加し、熊本で仮組みをした後、仙台にて建設。

Photo:Manami Takahashi

竣工した後も住民同士の心暖まる交流が続き、現在の「みんなの家」の一角には、熊本のゆるキャラ「くまもん」のぬいぐるみも飾られています。

このように被災地の支援を行う中で、伊東は「これからはアバンギャルドな空間のデザインではなく、人が使い続けていく時間をデザインしたい」と語り、「21世紀の建築は、まさにこれから始まろうとしている」と力強く宣言しました。

一連の話を伺う中で、シンポジウムの進行役を務めた曽我部昌史氏からは「みんなの家の事例にも見られるように、作り手と使い手がつながり、建築に対する意識を共有できる時代になってきている。これからの地方都市では、人々のコミュニケーションがベースとなって、デザインが成立する状況が多く見られるのでは」と語り、「まだまだ話し足りないこともあるが、続きは熊本で行いたいと思いますので、皆さんアートポリス建築展に是非来て下さい」と締めくくりました。

Photo:Manami Takahashi

最後に、熊本県建築課長の坂口秀二氏よりご挨拶をいただき、長時間にわたって熱論が展開されたシンポジウムは、無事に幕を下ろしました。

ご登壇いただいたパネラーの皆様、最後までご清聴いただいた会場の皆様、そして今回のシンポジウム開催にあたりご尽力いただいた熊本県関係各位の皆様に、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

Photo:Manami Takahashi

くまもとアートポリスについての詳細は、公式ウェブサイトをご覧下さい。