会員公開講座 池上知恵子「楽しいワインづくりを目指して」

2018年07月31日

7月14日、ココ・ファーム・ワイナリーの専務を務める池上知恵子さんを講師に迎え、第3回会員公開講座が行われました。「楽しいワインづくりを目指して」と題して、ワインづくりの工程や魅力についてお話しいただきました。

ワインとは
“VINE”と“WINE”という言葉のお話から始まりました。一文字違いのこの二つの英単語の意味は、VINEが葡萄(の木)、WINEはワインという意味です。つまり、葡萄からできるのがワインなのです。
さて、日本でワインをつくる場合に最低限必要な3つのものをご存知でしょうか。
それは、容器(バケツ)、葡萄、果実酒製造免許です。ワインは、最低限バケツと葡萄があればできるそうです。

ココ・ファーム・ワイナリーの歴史
次に、ココ・ファーム・ワイナリーの葡萄畑がどのようにしてできたのかお話し下さいました。
昭和33年に、足利市立第三中学校の教員であった池上さんのお父様と特殊学級の生徒たちが、足利の北の山を開墾して葡萄を植えたのが始まりでした。
昭和44年に障害者支援施設こころみ学園ができました。こころみ学園で果実酒の製造免許を取ろうとしましたがワインの製造免許がおりませんでした。そこで、昭和55年に有限会社ココ・ファーム・ワイナリーをつくりました。昭和59年(1984年)に果実酒製造免許がおり、この年に最初のワインができました。収穫祭も最初の年から始めたので、今年(2018年)で35回目になります。今年の収穫祭は11月17日(土)、18日(日)、開墾から60年目の葡萄畑で開かれます。


開墾の様子

ココ・ファーム・ワイナリーでのワインづくり
ココ・ファーム・ワイナリーでは、適地適品種の葡萄から、野生酵母を中心に、自然に寄り添ってワインをつくっているそうです。葡萄の声に耳を澄ませて、葡萄がなりたいワインになれるように、そんな気持ちです。栽培品種は以下の通りです。

白ワイン用:リースリング・リオン、プティ・マンサン、ビニョールなど
赤ワイン用:マスカット・ベイリーA、ノートン、タナ、小公子、カベルネ・ソーヴィニョンなど

世界中の葡萄畑から足利に合う葡萄を探し出し、適地適品種の葡萄を植えることで、無理のない栽培ができ、 元気に葡萄が育ち、おのずとワインの質も上がるそうです。

ワインづくり〜仕立て〜
GDC(Geneva Double Curtain)仕立てを採用しているそうです。これはアメリカ、ニューヨーク州のコーネル大学の研究者、キャノピーマネージメントの開祖と言われている、故ネルソン・ショーリス教授が開発した葡萄の木の仕立て方です。園生が作業する際に、ちょうど目の前に葡萄が育つようになり作業がしやすいそうです。つるが下向きにたれることにより樹勢が抑えられ、実に、より栄養が行きやすくなる利点もあります。

園生の畑仕事について
現在、こころみ学園の園生たちは、障害支援区分6の重度の人たちが70%、区分5の人たちが21%、区分4の人たちが9%です。できるだけたくさんの園生が畑に入れるようにするため、たくさんの作業があります。

剪定:栽培スタッフが担当
剪定枝運び:園生が担当。下に落とさず剪定者が手渡し。
芽かき:栽培スタッフが担当。一部園生も。新芽はフリッターにしてカフェで提供。
つる切り:園生が担当。枝を下に向けやすくなる。葡萄は切らないように。
誘引:栽培スタッフが担当。
摘房:栽培スタッフが担当。園生がコンテナを運搬。
   間引きした(グリーンハーベストの)葡萄は、ベルジュ風飲み物やジャムに加工。
傘かけ:園生が担当。人海戦術。毎年15万枚〜20万枚。


摘粒の様子

腐れ取り:栽培スタッフ、園生が担当。
収穫:栽培スタッフ、園生が担当。完熟のタイミングを見て収穫。
傘集め:園生が担当。スタッフは収穫に集中できます。
コンテナ運搬:園生が担当。
草刈り:学園職員、園生が担当。刈り払い機、木の周りは鎌で手刈り。
    こころみ学園の葡萄畑は開墾以来、除草剤をまいたことがない。
消毒:栽培スタッフが担当。
カラス番:園生が担当。ヴェレゾンの後、日の出から日没まで。真っ黒に日焼けする。
石拾い:園生が担当。斜面なので落石がないように。
幹の皮むき:園生が担当。やりだすと剪定が進まなくなる、魔の仕事。
コウモリガチェック:園生が担当。山際は多い。

すぐには何もできなかった園生も、20年、30年と葡萄畑で過ごし、少しずつ居場所をみつけていきます。


草刈りの様子

契約農家について
適地適品種の考えから、栃木県以外にも契約栽培農家があり、総件数15軒になります。

余市:5軒 ケルナー、ミュラートゥルガウ、バッカス、ツヴァイゲルト、ピノ・ノワールなど
上山:6軒 シャルドネ、メルロ、カベルネ・ソーヴィニョン、タナ、プティ・マンサンなど
長野:1軒 タナ
山梨:2軒 甲州、マスカット・ベイリーA、メルロ
埼玉:1軒 小公子

可能な限り個別に仕込み、それぞれの特徴を明らかにしています。 お互いがどんなワインができているかを知ることで情報共有ができるだけでなく、日本列島は縦に長いため、天候の影響で栽培が上手くいかない場所があっても互いに支え合える良さがあるそうです。


足利と佐野の5つの自家畑

ワインの違い(赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン)
赤ワインは、濃い赤色や黒色の葡萄を原料として、果皮と種を一緒に発酵させます。
白ワインは、緑色や薄い紫色の葡萄から、果皮と種を取り除き、果汁のみを発酵させます。
ロゼワインは、濃い赤色や黒色の葡萄を原料として、果皮と種を一緒に発酵させ、途中で果皮と種を取り除きます。
このように、葡萄の果皮と種がワインづくりの上で重要であることをお話しされていました。また、同じ葡萄であっても、育った場所、収穫の時期、貯蔵時間や仕方によっても違います。もちろん、何と一緒に飲むのか、どんなグラスで飲むのかによっても変わります。しかし、一番重要な違いは、葡萄の質です。適地適品種で無理なく、元気に育った葡萄であることがどんな設備よりも大切だそうです。このように、様々な要因で変わるワイン、「ワインの正しい飲み方は?」と聞かれたら「気の合う方と飲むことです」とおっしゃっていました。

こころみ学園とココ・ファーム・ワイナリーの関係
こころみ学園は葡萄をつくってココ・ファーム・ワイナリーに納め、代金を受け取ります。また、仕込みやビン詰など、醸造場での仕事の一部をこころみ学園に業務委託しています。こころみ学園の園生みんなにおこづかいが配られるよう、ワイン工場での作業代が払われているそうです。
そのお金は、1年に一度みんなで家族旅行に行ったり、夏休みに海に行ったり、冬休みに浅草寺に初詣に行ったり、3ヶ月に一度買い物実習をしたりするのに使われているそうです。

人も関わってワインをつくる
ワインは葡萄からつくります。人がワインをつくるなんて言っていますが、人も関わってワインをつくるといった方が正確かもしれないとお話しされていました。葡萄の木が、葉っぱの葉緑素で光合成を行い、葡萄の実に糖分を貯めます。その糖分を目に見えない微生物である酵母がアルコール、つまりワインとCO2、二酸化炭素に変えていきます。人間は手助けをするだけで、植物の働きや微生物の働きがないとワインをつくることができません。葡萄が根を生やす土壌や土の中のミミズや微生物、太陽や雨や風も大切な役割を果たします。そして、これからも自然を敬い、謙虚にワインをつくっていきたいとおっしゃって、今回の講座を締めくくられました。

その後、ココ・ファーム・ワイナリーの白ワインを試飲しました。園生やスタッフの方々の真摯な葡萄への思いがこもった美味しいワインでした。池上さんによると、音楽は聴くこと、絵画は観ること、ワインは飲むこと。まずワインを楽しんでくださることがなにより大事だそうです。ワインの奥深さを感じる暑い夏の夜でした。

春山祐樹