塾生講座 ショートレクチャー②

2020年06月09日

524日、前回に引き続き、第2回のオンラインショートレクチャーが行われました。

今回は、構造エンジニアの金田充弘先生、建築家の高野洋平先生、グラフィックデザイナーの丸山智也先生のお三方を講師に迎え、作品紹介中心のレクチャーではなく、コロナ禍によって感じた社会や生活の変化を等身大の言葉でお話しいただきました。

はじめに、金田先生より「身の回りの変化からの気づきと地方での実践」についてのお話を伺いました。パンデミックの発生から現在までを範囲に、社会と先生自身の生活の変動を時系列的にまとめられた中での発見を契機として、これから先の生産やルールのかたちをどうポジティブにつくれるか、その可能性としてなり得る2つの実践例をご紹介いただきました。1つ目は、「葛のトンネル」で、2つ目は豊島の「島キッチン」というプロジェクトでした。どちらも柔らかいシステムと構造が地域に確かに根づいた建築として成立しています。その土地のロジックが固定的なルールを更新するような状態はとても健全で、サステナブルな建築のあり方であると仰っていたのが印象的でした。

葛のトンネル

島キッチン

金田先生の豊富な実体験に沿ったお話はとても具体的で、特に地域ならではの建築の構造や素材と同等に、竣工後も地域で維持できる仕組みや運営に至る様々な次元でのストラクチャーを地域につくっていく、または地域と生み出していくようなことが小さな地域でも大きな幸福さとなって共有されていく姿に、これからの地産な公共の可能性を感じ取ることができました。

 

続いて、高野先生より「身体性と生活圏への関心」についてのお話を伺いました。コロナ禍によって止むなくオンライン化や自粛生活が続く中で、順応し利便性を感じる以上に不自由なくできていたことができない歯がゆさやストレスが大きくなったり、身の回りの環境に対する「身体感覚」が敏感になっていることで、改めて集まって働くことへの愛おしさや、目的や但し書きのないコミュニケーションや居場所の必要さを認識したという内容でした。

先生自身の職場と住まいが非常に近い距離で位置していることや、その間に緑地や公園がある生活圏内に豊かさを感じ、また職場の開いた環境が地域社会と接点を有しており、都市部における良好な職住近接の例を詳らかにご紹介いただきました。

こうした説明できないような身体性がもたらす恵みや営みを、今後どう住空間に反映させて多様な場へと展開できるのか、私も引き続き考えていきたいと思います。

 

最後に、丸山先生から「モノに触れる価値」についてのお話を伺いました。紙媒体やペンを使った行為を取り除いて、デジタル媒体だけを使用していくことが多数となっていくことで、人間らしい所作や情緒性が果たしてどこへ向かっていくのだろうかという内容でした。

例えば、広場のベンチや学校や図書館での貸し借りといった不特定多数の他者が触れるモノや行為は、今後減少してしまう懸念はあると思います。一方で、丸山先生は「手紙」を例として用いて、手紙というのは状況にあった紙を触ったり匂ったりして筆者が選び、そしてペンを選んでその人の言葉遣いや文字を筆記し、便箋に入れて切手を貼ってポストに投函するという一連の行為に宿る身体性がコミュニケーションの喜びにつながっていると仰っていたのが印象に残っています。

こうしたモノによって生まれる価値と今後減らしていく行為とをうまくバランスを取って、併存する未来を目指していく必要があると思いました。また、対人が難しい状況では、身近な植物や虫を観察したりする対人以外の世界を知る機会というお話も同じくモノに触れることによる気づきであり、特に現在は、何か外部に触れることに距離をおく癖がついており、より一層意識的に考えていかないといけない気がしました。

 

最後に、他の先生方を交えながら議論が行われ、三名の先生方に共通した「身体性」というキーワードを中心に塾生から質問や意見が集まりました。コロナ禍が収束した後のビジョンとしてそれぞれが何を意識し、実践を目指していくべきかを考えていく必要がある中で、今後も建築塾を通して専門や所属の異なる者同士で議論を深めていく必要性を強く感じました。次回のレクチャーではより活発な意見交換ができるように、一塾生として知見を深めていきたいと思います。

塾生 生田海斗